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「カタルシスの岸辺のあの曲」を書いた話

あまり音楽を作るひととしての記録を残してきてこなかったが、最近楽しい制作があったので書いていこうと思う。

『カタルシスの岸辺』というアーティストコレクティブの主宰する『死蔵データGP』という壮大な企画がこの一年展開されていた。

カタルシスの岸辺、略してカタ岸、彼らは「マテリアルショップ」という概念を主たるテーマとして活躍している気鋭の現代アーティスト集団である。詳細については下記のページをご覧いただくとより彼らの魅力が分かりやすく解説されていておすすめだ(なお現在は掲載ページからさらにメンバーが増え、"店員"は総勢9名である)。

そして死蔵データGPであるが、何らかの事情で世に出ることのなかったデータを募り多様な審査員によるあらゆる角度からの評価を以ってトーナメント方式で勝者を決めるという趣旨の企画だ。
カタ岸メンバーとは古い友人なことから今回のご縁に恵まれたが、非常に刺激的な試みをするなぁと今でも思う。4/30まで公式youtubeで審査の様子は公開されているとのことなので、良ければ是非観てみていただきたい。

前置きが長くなったが、今回私はこの試みに向けて2曲を作成した。ひとつはオープニングテーマとして使って頂いた『memory of katharsis』、そしてもうひとつは最終決戦の場が初披露となった『カタ岸音頭』である。どちらの曲も作詞はカタ岸店長の荒渡巌氏だ。
それぞれの曲の制作後記もとい思い出を、書いていこうと思う。

memory of katharsis

「死蔵データGPなる企画をやります。そしてそこにオープニングテーマを作っていただきたくー…」
ある日私のもとに店長から寄せられたオーダーである。("死蔵データGP"…またこの人たちは何やら面白い企みをめちゃくちゃちゃんとやろうとしている…)と思ったことをなんとなく覚えている。カタ岸には以前にも曲を書かせていただいたことがあり、ショップ店員風に言うならばリピーターとなってくださったことは私としても大変光栄!ということで二つ返事で引き受けた。

ところで、ハチャメチャな活動を超ちゃんとしてる素晴らしい能力と体力を兼ね備えた人間たちによって運営されている(私見)のがカタ岸という集団なのだが、それを率いる店長はそれはそれはちゃんとしている。毎度感心するものがあるが、今回もものすごく丁寧で適切なやり方で、リファレンス楽曲や仮歌詞を入れたオーダーシートを下さった。
話はここからで、しかしちゃんとしてる人がちゃんとした言葉で発してくるワードとして

「死蔵データグランプリに出場する死蔵データ視点の楽曲です。」

から始まるオーダーシートが届いた。
立ち止まってはいけない。世の摂理の全てだって最初はわからなかったはずなのだ。それでもこうして生きている。読み進める。

「イメージとしては異世界転生系のアニメの主題歌で、生音ではなく打ち込みをメインとしたサウンドになると良きかなと思います。厨二病感をギリギリ攻めたいところです。」

"理解"った。00年代特殊能力系アニメの概念を作ってみよう。と制作方針を定めたのだった。

物心もつき、自我も芽生え、インターネッツの酸いと甘いを味わい出したあの頃、またの名を00年代…私はそこそこにインターネッツァーだったので本当にあの頃のあらゆるクリエイションに文化的背景を作ってもらった。そして、私は勝手に恐らくカタ岸の彼らの美意識にもかなり00年代前後のカルチャーは影響を与えているはずだとなんとなく思っている節がある。まして彼らは美術家なので、観察眼や向き合い方も私の50000倍くらい鋭いだろう。

デモは2通り作った。採用されたものは私の思う00年代の概念ソング、採用されなかったものの方針はfripSideさんのonly my railgunを意識していた。蛇足だがonly my railgunまじだいすき、00年代終わりの大名曲である。

それぞれ1分程度の速度とメロの感じだけわかるような簡素なデモだったが、ちゃんとしてる店長はそれぞれ30分とかずつ聞いてくれたらしい。長すぎる。ガムだったら味なくなるどころか硬くなり始めるぐらいだぞ…!?と思ったが、一聴してダメ、をされることもままある暮らしの中でそれはそれで大変光栄だった。結局、歌い手を務めてくれた田上碧氏の声質にはこちらが合うだろうという視点で選んでくれたのが現行のバージョンである。

店長の綴る言葉の力強さよ。私は個人的に荒渡氏の言語センスの巧みさを大変リスペクトしている。死蔵データ視点の歌って何なのと思ったが、読み解けば読み解くほどこれは死蔵データの歌に他ならないと思わせるパワーを秘めている。説得力というか肉体の存在すら思わせるなぁと毎度感心してしまう。

フライングしてしまったが、歌ってくれたのは田上碧さんというボイスアーティストだ。おはなしのすずらんを一緒にやってたり、と彼女もまた大切な友人である。

田上の歌にはかなり助けてもらった。声も耳も大変素晴らしいのでコーラス音源もしっかり録って届けてくれた。ギリギリなものづくりをしがちな私は見習わねばならぬ。別名義も辞さない勢いで普段の歌い方とはかなり変えているとのことだが、なるほど確かに印象がかなりパワフル。録音を聴いて、あぁ私の愛した00年代の概念を震わす力いっぱいの歌姫達の姿が目に浮かんでくる…これだよこれ…となった。

音作りの面でも割と助けてもらっていて、当初はもう少し音圧弱かったもののもっと低音があるとよいねとアドバイスをくれたのも田上なのであった。結果として最後に広い会場で聴いた時、あー良かった!と思ったので流石である。
田上のサイトもぜひ見てください、そしてちょっとでも素敵と思ったらライブ行って沼にハマって欲しいと思います

映像制作のメインは店員の高見澤俊介氏、ぜーったい入れたかった8bit音源に加速感のある映像を当ててもらえて超絶嬉しかった。登場するクマはベアみざわというらしく、多分彼がモチーフなのだろうが確かによく似ている。op後半とCG制作は鈴木雄大氏が手がけられてるとのことなのだが、ちなみに彼は他にも死蔵データGP全編のタイトルロゴなどもめちゃくちゃ作っていて今作品の世界観形成に超絶寄与している。

普段コツコツ1人で作業することが多いだけに、作った音のそばに自分では作れない分野の素敵なクリエイションの存在を感じるとやっぱりありがたいなぁという気持ちになる。
最終決戦で集大成のようにかけてもらって、なんだかすごく嬉しかったなぁ

カタ岸音頭

2つ目の曲であるカタ岸音頭。なんか音頭が作りたいな、と最初に発していたのは確か海野林太郎氏だったかもと思い出した。満を辞して作る流れが生まれ、店長からのオーダーシートにも仮歌詞と多岐にわたるリファレンスが載っていた。

絶対ヤバいでしょこれ、苦戦やむなし…と思っていたのだが、向き合ったところ自動書記のごとくすんなりできた。これは単なるお祭りを超えた祝祭だ。死者を蘇らせることはできないが、死蔵データは蘇る。祭りの起源は天の岩戸隠れだという説があるそうだが、どんちゃんやって隠れているデータたちに出てきてもらうと言う意味ではそう遠くないはずだ。バーゲンセールはいま持ち得る限りある財産を以ってより良い未来を招く営み。五穀豊穣、疫病退散、そしてなにより商売繁盛!景気のいい曲にしようと思ったらすぐだった。

和風の曲を作りたい、土着っぽい曲を作りたい、とも最初思ったが、結局最終的にはアゲを優先してEDM系の楽曲で使いがちな音源を多用した。効果音も楽しく入れさせてもらっており、爆発音はいろんな周波数が入っているからかみんなの声の馴染みが良くなる気がしたので当社比多めに入れている。
歌メロに合わせて裏で歌詞をセリフ的に言ってもらうやり方をかなり多用していて、実はとあるアイドル楽曲の制作現場にお邪魔した際に学んだ手法だったりする。程よくノイジーで個性が出て何より可愛い。これを使わない手はなかった。カタ岸だってidolだからね!アイドルといえばソロパートの割り振りは悩んだ。録音のとき、立ち位置って決まってますか?と聞いて場を困惑させてしまったのも今となってはいい思い出である。

そう録音も楽しかった!コアメンバー以降のカタ岸メンバーの中には初めてリアルで会う方たちもいて、やっぱりマジでそれぞれに素晴らしくて爆笑してしまった。現場にはそれぞれが持ち寄った食べ物がたくさんあって、ゆめちゃんが持ってきてくれた塩バターどら焼きがすごく美味しかった。全部のカロリーを食べたい!と叫んだら「トリコの悪役じゃん」と言われて最高だった。
録音オペレーターはオカチホがやってくれたが、後日全部頭揃えの使いやすすぎるデータが届いて丁寧さに泣いた。みんな優しい。

2023年4月5日現在ではご視聴いただけるインターネッツがないのだが、お披露目の場となった最終決戦の様子はこちらでチケットをご購入いただくと4月30日までご覧いただけるとのこと。

ただ流すのみにあらず。カタ岸は曲が始まるや否やステージと装飾を即座に解体しショップへと変換させる壮大な設営を一曲の中でやり遂げていた。多少の尺調整はあったとはいえ楽曲自体は3分と少しである。技術と判断力とエンタメ。

催し自体は有終の美を遂げたものの、カタ岸たちはこれからも躍進を続けるだろう。でも多分まだ心身を休めきれてない気がするので、怠け者の私としては一回全てを放り出して3日くらい寝てほしいし、食いしん坊の私としては3日くらい1日15食くらい食べてほしい。躍進はその後で…とも思っちゃうのだが!彼らはそうはしないのだろう。

これからも未曾有の好機たる季節外れのバーゲンセールが訪れますように。楽しかった制作の感謝を込めて。商売、繁盛!


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