『脳内P』第1話:もう逃げるのは嫌
「あのさあ……そのアルバム、絶対に出したい?」
私がひとり駄々をこねていると、テーブルに頬杖をついた敏腕プロデューサー……通称・脳内P(のうないぴー)が声をかけてきた。
脳内Pだと呼びづらいので、普段はのなPと呼んでいる。
のなPは10年後から来た未来の私らしかった。もやがかかっていて顔の詳細は見えないから、半信半疑といったところだ。
ただ、今の自分の人間関係や過去の出来事にやたらと詳しいのでとりあえず大人しく話を聞いておくことにしている。
私は答えた。
「絶対出したい。絶対!」
「なんでか説明できる?」
自分の作った楽曲をどうしてもアルバムとしてまとめたい理由が私にはあった。
「ここで出しておかないと、また次の機会が遠のくから! もうアルバム制作から逃げるのは嫌だ! 失敗したとしても改善策を見つけるためにチャレンジしたい!」
私がそう息巻くと、のなPは感心したように言った。
「すごいな、やる気だけでごり押すつもりかと思ったらちゃんと考えてるんじゃん。なら思い切って失敗してみたら?」
「え……失敗するのは嫌だ……」
「そもそも何が失敗だと思ってるの?」
こう矢継ぎ早に質問されるのは嫌いではない。というか私にもそういうところがある。未来の自分だから当たり前か。
「うーん……アルバムが出ないこと、自分で聴き返したときに違和感のある曲を無理矢理入れてしまうこと、が最大の失敗かな……まとめたものが人に気に入られるかどうかはそこまで考えてない」
「そうか。じゃあ君が今回決めておくべきルールはこんな感じだね」
■ アルバム制作のルール
このようにして、のなPは時々私の頭の中を整理するのを手伝ってくれる。正直かなりありがたい。
「②に関しては、やっぱりどうしてもあの曲を入れておけばよかった!と思ったらもう一枚別のアルバムを作ればいいんじゃない? たぶんそこまではしないでしょ」
「うん……しない気がする」
私の妥協ラインまで完全にお見通しらしい。
「というか、今あるものに手を入れて失敗することは怖くないんだね」
確かに、と私は思った。
「まあ、私にとっては全部ラフみたいなものだし。それを磨くだけの腕はこの1年で身につけたつもり」
「いい自信じゃないか」
のなPは多少驚いた様子で続けた。
「ただ、最悪そのまま沼にハマる可能性は捨て切れないね。各曲のバージョンアップは3回までと決めたら?」
「え……のなPめちゃくちゃ頭いいですね……」
「まあ……経験上ね」
■ アルバムの制作ルール・改
だいぶ見えてきた。ただし問題がある。
肝心の、どの曲をアルバムに入れるかという問題だ。
のなPの顔色を伺ってみた。
「アレよ、アレ。アレでいいんじゃない? 昨日作ってたでしょ、ベストセレクション的なプレイリスト。ベスト20だっけ?」
「それが……問題があって……」
私はあからさまに顔をしかめて見せた。
「ベスト20のつもりで作ったら、ベスト32になっちゃったんですよ」
……次回へ続く!
アルバム制作があまりに怖いので脳内Pとのお話を小説にしようと思って書きはじめました。のなPは様々な気付きと勇気を与えてくれます。今後もつまずく度にこの小説を書いてのなPから答えを得たいと思います。
ここまで読んでくれてありがとう。
おやすみなさい!
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