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イラストレーターが【選挙ポスター】を絵解きしてみるー2020東京都知事選・都議会議員補欠選挙(3)

ほぼ単なる趣味になってきたこの「選挙ポスター」絵解きシリーズ
今回はお題目が多すぎて絞っても3部構成になってしまいました…(白目)
正直しんどい…他の2編もぜひご覧ください。

(1)張り替えられた選挙ポスターたち
(2)選挙ポスターじゃないのに「小池候補」を思わせるポスター!?
(3)北区都議会議員補欠選挙のポスター←イマココ

今までのnoteよろしければあわせてご拝読ください。

毎度のことながら、政策的な批判や批評では一切ありません。また「なぜ当選したか」ということを言いたいのでもありません。あくまでデザインや視覚的にどういう「メッセージ」があるのかを解いていくという主旨です。

北区都議会議員補欠選挙

北区の都議補選はポスターというと色々物議を醸していたものもあったのですが、それはデザイン上、何の興味もないのでもう少しデザインとして意味のある視点で語ります。

まず絵解きをする前に北区都議補選の特徴をまとめておきたいと思います。

2017年の都議選で都民ファーストが自民党を破っていた
(小池氏は自民党を離れ、小池氏支持層により都民ファーストが発足する)
自民党が都知事選の擁立候補を断念していたが、北区補選では擁立候補あり
一方で現職だった小池都知事の秘書であった「天風いぶき」候補が都民ファーストより立候補していた
自民党と都民ファーストが都議選以来どう支持を分けたか見える選挙だった

小池氏と自民党、小池氏と都民ファースト、自民党と都民ファースト
そんな構図が色々見える中、小池氏の支持層がどういった形で支持をするかがとても注目されていました。
小池氏の支持層がどれだけ大きいか、というのは都知事選の結果を見れば明白でした。その意味でも北区都議補選で小池支持層がどう投票をするかはとても重要な視点だったと言えるでしょう。

浅学にて雑に書きましたが、しっかり書かれている記事を見つけたので
背景についてはこちらを読んでいただいた方が遥かにわかります…

わかりやすい…
と感心した上で、そういった情勢の中、ポスターとして注目したのは都民ファーストから出馬した「天風いぶき」候補のポスターです。

「天風いぶき候補」のポスター

一部で公職選挙法違反という話も出ていましたがそういった「規定」の話ではないということを強めにご了承ください。

さて、全体デザインをまずはご覧ください。

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(ちょっと写真が影ついちゃってすみません…)
(1)をご覧いただいた方は記憶に新しいと思うのですが、このデザイン見覚えありませんか。
まさにこの全体のデザイン自体が「ポスターの意図」において最も重要になってくると思うのです。

まわりくどい感じになってしまったので「見覚えありませんか」といった選挙ポスターと並べて比較してみます。

天風小池比較

「緑」基調であること、文字色、背景、服装に至るまで全体を構成する主たる要素がほぼ小池候補と同じです。

もちろん政党ごとで同じ構成のポスターを作って選挙戦を「政党で」たたかうようなことはあります。
2019年の参院選での「立憲民主党」を見ると、濃紺のラインと白を重ねた構成で作られている選挙ポスターが多く、政党カラーを打ち出していることがわかります。

まとめ

こんな感じですね。(画質の差はご容赦ください)
カラーリングが統一されていて、まさに政党カラーと言えるでしょう。
といっても、それぞれのポスター構成は独自のものになっていて各候補者の個性が出るものになっています。

再度「天風いぶき」候補と小池候補のポスターを確認します。

天風小池比較

先の参院選での立憲民主党の統一カラーと比較すると分かる通り
「ここまでそっくりにするのか!」というくらい同じ要素でできています。
つまりそこまで「小池」カラーで選挙を進めていこう、という意志でもあったわけです。

選挙戦の方針と選挙ポスターの関係性

なぜここまで「小池」カラーで選挙を進める必要があったのでしょうか。

先に紹介した記事にもこういう記述がありました。

選挙の準備期間が短かったのもあるが、やはり小池知事が来られなかったのが痛かった」
都議の1人はこう漏らし、“小池頼み”から抜けられない現状に肩を落とした。

記事を読むと天風候補が立候補を決めたのは投票日のわずか1か月前とのこと。
自身の政治的な(宝塚歌劇団出身とは別の意味での)知名度もあまりない中、自身の秘書という経歴や「都民ファースト」であり「小池」カラーを押し出すことが一番強いアピール方法だったとも見えます。

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「小池」カラーを推したいのか、「天風」候補自身のカラーがない(弱い)のか…
同時に掲示されるポスターであることを考えるとどっちが似せたとは言い難いです。
ですが、ここまでそっくりなポスターはその「小池頼み」の選挙の方針そのものが映し出された結果だと思います。
選挙ポスターにすら「小池頼み」が色濃く出てしまったのです。

自身のカラーとはなんだったのか、選挙は「個々に投票する」ものです。
ある程度「候補者自身」「個性」が見えるもの、それを支持してもらえるように訴えるのがこの「選挙ポスター」でもあるのだろう、と感じました。

統一感は時に訴えたい内容を群として強くするものでもあるのですが、同時に個性を奪うものでもあります。
どのラインまで統一し、どのラインからは独自のものを打ち出すのか
とても難しい話ではありますが、そのバランスこそが大事だったのではないかと思いました。

最終的に投票で個人の名前を書く時に「あの小池さんと同じ感じのポスターの人」ではダメなんですよね…ということです。

弁解とまとめ

本来は政治的思想で偏りのないnoteにしたいと考えているのですが
今回どうしてもマトモな論議としてデザインを見ていくと3エントリとも「小池百合子氏」の話題に偏ってしまう、ということになりました。

他に炎上として取り上げられることを望んだようなポスターもあって、それを取り上げることも考えました。
しかし、それは向こうの思う壺なのでどうしてもしたくなかったのです。

そしてそれらを避けていくと自然に話題が「小池候補」の周辺へと集まってしまいました。
逆に言えばそれだけ選挙戦で小池氏が注目されるようなことが多く、
デザインとして注目に値する視点も多くあり、ポスターデザインの重要性を理解していた、
ということでもありそうです。

そしてそれはデザイン自体を理解していたということだと思います。

デザインを理解とは「ただ美しく見た目の良いものを作るのがデザインではない」ということを熟知していたということです。(本人ではなく陣営としてでも)
またはデザインの機能が「自分の主張を理解し伝えるもの」であることの理解です。
そういう理解の上で制作されたものだからこそ「語るに足る」長所短所や周辺の流用があったのだと考えています。

今まで何度もこの選挙ポスター絵解きで書いていますが、このデザインを理解することが大前提です。

ビジュアルの中で、何が目立つか=何が言いたいか。
情報の取捨選択、カチッとハマるコピー、写真の印象、文字の大小、配色。
その選挙ポスターは政策を真ん中にして、見る場所のことを考え設計しているか。

おわりにー感想

そして今回、過去最多候補者だった都知事選。
今回3つエントリに書くことを考えながら、投票に行く…という行動をしてふと思いました。
投票の時に有権者が書く情報は「名前」なんですよね。
これは大きなポイントなんじゃないでしょうか。
(1)で書いた「掲示場で最初に見える文字が何か」(2)で書いた「名前を書かずに誰を連想させ、その名前がどういう印象になるか」
そして今回書いた「その人自身の名前を書けるか」

選挙ポスターにおいてとても重要なことのひとつに「投票でポスターを見る人々が書く、その『名前』をどういうふうに印象付けるのか」ということがあるのだなと、今回強く感じました。

最終ゴールがどこにあるかを見た上で、ポスターが作られることの意義を改めて考えてみようと思いました。

読んでくれてありがとう!心に何か残ったら、こいつにコーヒー奢ってやろう…!的な感じで、よろしくお願いしま〜す。