スライディングドア

昔、スライディングドアという映画を見て、感銘を受けたのを覚えている。
学生時代、狂ったように映画を見ていた中でとても印象的な映画だった。
映画好きの友人から勧められて見たのがきっかけだったが、
私も人に勧める際、この映画を挙げること多い。
主人公の女性の方が、電車に乗れた場合と、乗れなかった場合に起こるであろう
2つのドラマを同時進行させて描く、所謂ラブストーリーなのだれけど、これがまた面白い以外の
言葉が見つからない。他にあるなら教えてください。
あらすじを見ただけでも興味が惹かれるのは私だけでしょうか。どうでしょうか?
人生はいつもの電車に乗れるか、次の電車に乗るかで劇的に変わってしまう。
大げさかもしれないが、事実そうなのだから仕方ない。
これは、電車に限らず言える。
普段、学校へ行くのに、乗っているバスを地下鉄に変えてみたり。
たまには徒歩で行ってみたり。ローラーブレードで行ってみたり。
普段とは違う道で、帰ってみたり。奇声を発しながら帰ってみたり。 
これはこれで情景も変わるし、気分も晴れやかになる。気がする。
普段通らない道なので、新しい発見もあったりして良いことしかない。
出会うはずのない人に出会うこともある。
これは悪い例だが、2年ほど前に職場から家に帰るのに天気が良すぎて普段は車で帰るところを、職場に車を置いて、徒歩で帰ったことがある。
風を感じながら、歩いているとなんと前から向かってくる人にすれ違うやいなや
終電を逃したから近くに朝まで時間を潰せる所が無いかと声を掛けられた。

徒歩という選択肢を選んだ故の出会いだ。
素晴らしい。が、ここで一つ、苦言を呈するなら相手が男性ということだ。
もし声をかけてきたのが女性だったらと、下心が垣間見えてしまうのは致し方ない。
しかし、相手が誰だろうと、私は可哀そうだなと思い、初対面相手に警戒心が無さすぎるかもしれないが家まで送ろうかと提案するもそれは申し訳ないと断られ、
だったら、近くに朝まで営業しているカラオケ屋さんがあることを伝えるも、お金がおそらく足りないであろうことをほのめかす。
そうこうしている内に、1時間、2時間と時間が過ぎ、気づいたら相手の身内話を聴いていた。

その話は一旦、置いておくとして、
この人は実は、お酒を飲んで気持ちよくなり、家なんてすぐそこで、誰でもいいので、
ただ単に話を聞いてほしかっただけなのではないかと思えてきた。
一瞬、お金をうまいこと騙しとられるのではないかと思った自分もいたがそんなことは無さそうだ。

しかしながら、もうカラスも鳴く時間だ。

そろそろ家路を急ぎたい。瞼も重くなってきた。次の日も仕事だ。全く帰りそうな雰囲気も無く、のべつ幕なしに喋り続ける彼の口にマシュマロを詰め込みたい気持ちを抑えつつ、かといって会話をうまく切り上げる技術も持ち合わせていない。帰りたい気持ちをこれでもかと全面に出しても、全く伝わっていない。

マシュマロが、鞄に入っていればその場はしのげたに違いない。だがしかし、私の鞄の中には、財布と携帯しかない。今すぐ家に帰って寝たい気持ちが強くなりすぎた私は、強行突破を試みる。

財布からこれで帰りなよと野口英世を3枚取り出し彼に渡した。

彼はすぐに受け取り、歩いて帰っていった。

多分、私は騙された。

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