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【オペラ日記 8】残り1公演(3/23) おすすめでしかない!小澤征爾音楽塾オペラ「コジ・ファン・トゥッテ」

もっとタイミングよく紹介するべきだったのですが、結局ギリギリになってしまいました。

昨日(3/20)、横浜の神奈川県民ホールで小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトXX モーツァルト:歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」を観てきました。多分今年日本で観られるオペラ公演の中でも、お得感いっぱいの公演だろうと思っていましたが、その通りでした。

結論として、オペラや特にモーツァルトのオペラに興味があるという方、はたまた、「コジ」は好きなオペラなので公演は選びますという方にも、3/23(土)の東京文化会館での残りの1公演にぜひ行っていただきたいです。


「コジ・ファン・トゥッテ」は、二組の恋人たちの物語。恋人の女性たち(姉妹)の自分たちへの一途な思いを全く疑わない男性2人と、「心変わりしない女性はいない」と豪語する人生経験が豊かな紳士、ドン・アルフォンソがかけをします。男性2人は戦場に行ったふりをし、お金持ちの外国人に変装をして残された姉妹をくどき始めます。ドン・アルフォンソは姉妹の女中であるデスピーナと組んで、始めはなびく気配もなかった姉妹の気持ちをゆさぶるのです。

女性の気持ちを男性が試す話で、初めてあらすじを読んだときは私も「けしからん」とは思ったのですが、逆にするとありふれた感が否めませんものね。「人の気持ちは移ろいやすい」という古今東西変わらぬ事実を、モーツアルトが美しい音楽で描いています。モーツァルトにかかると、よくある人の心の動きが芸術に昇華するのです。人の気持ちは変わるものだからこそ、心の波長が恋人たちの間に共鳴する瞬間は奇跡のように美しい。モーツァルトの音楽がそう言っているようです。

私は女中デスピーナ役のバルバラ・フリットリをお目当てに行ったのですが、歌手は皆さんモーツァルトにぴったりな、素直でのびやかな発声の美声の方々ばかりでした。「コジ」は合唱の登場も限られており、ほとんど6人の主要人物だけの重唱(アンサンブル)で話が進みますから、これはよい公演が約束されているということ。イタリアン・ソプラノの最高峰であるフリットリ様がダントツに素晴らしいのは仕方ないにしても、これだけ皆が揃う公演もなかなかないのではないかと思います。

小澤征爾音楽塾 Instagramより(リンクがどうしても貼れなかったのでお借りしています)
左がドラベッラ役のリハブ・シェイエブ、右がフィオルディリージを演じるサマンサ・クラーク

私は特に女性陣がよかったと思います。妹のドラベッラ役のリハブ・シェイエブは、売り出し中のカナダ出身のメゾソプラノ。メトロポリタンオペラにも出演経験もあるし、来年も出演が決まっています。やっぱり実力派ですね。姉のフィオルディリージ役のサマンサ・クラークも、繊細に心情を紡ぎだします。この2人は舞台姿もキュートで、溶け合った声がホールに響き渡る様が夢のようでした。2人とも、これからスターになっていく要素大です。

小澤征爾音楽塾 Instagramより(リンクがどうしても貼れなかったのでお借りしています)
左からフェランド役ピエトロ・アダイーニ、ドン・アルフォンソ役ロッド・ギルフリー、グリエルモ役のアレッシオ・アルドゥイーニ

男性陣も、安定のバリトンでウィーンやミラノ・スカラ座、イギリスのロイヤルオペラ等々で活躍中のアレッシオ・アルドゥイーニが押しの強いグリエルモ役、予定されていた出演者の降板で最終的に加わった、ナイーブなフェランド役のテノール、ピエトロ・アダイーニも輝くラテン声がよかったです。2人はイタリア出身で安心して聴いていられます。狂言回し役のドン・アルフォンソを歌うロッド・ギルフリーも、経験豊富なイケオジの雰囲気を醸し出しています。

小澤征爾音楽塾 Instagramより(リンクがどうしても貼れなかったのでお借りしています)
左が女中デスピーナを演じる、われらがバルバラ・フリットリ。右はアルフォンソ役ロッド・ギルフリー

そしてデスピーナがフリットリ様です。現在はキャリアの後期で、舞台だけでなく、後進を教えることにも時間を割いていますが、ベルベット・ボイスは健在でした。史上最高のフィオルディリージであったフリットリ様が歌う、女中デスピーナです。演技も素晴らしいので姉妹を手玉に取るやり手感を出しつつも、美しい声には品の良さがにじみでます。

こちらが、「やっぱり誰もかなわないなぁ」と思うフリットリ様のフィオルディリージ。

これが、”Come scoglio immoto resta岩のように動かず)”と、「恋人への気持ちがゆらぐことはない」と歌うアリア(独唱)。はい、このエッセイシリーズ「岩のように動かない オペラ好きの日記」の由来でもあります。

このアリアは、ソプラノにしては低い音も出させて、高低の行き来も大きく、モーツァルトが嫌いなソプラノ歌手に意地悪したともいわれているほど難しい曲です。でも、フリットリ様の歌を聴くと、フレージング(歌いまわし)が美しいとはこういうことを言うのだと思えます。


小澤征爾音楽塾の公演は若い音楽家への教育プロジェクトを兼ねているので、チケットが比較的安価に抑えられています。オーケストラや合唱メンバー、カバー歌手は、オーディションで選ばれた実力者たち。若い音楽家の気合の入った演奏は、プロとはまた異なる味わいがあるものです。オペラが始まる前に、つい先日旅立たれた小澤征爾音楽監督に捧げられた、モーツァルトのディベルティメントの演奏も、心のこもったもので温かい気持ちになりました。

私は「コジ」が好きで、結構な数のヴァージョンを映像で観てきましたが、好きなゆえに実演は選びに選んでまだ観ていませんでした。今回初めてのライブ「コジ」でしたが、期待にたがわぬ演奏でした。舞台装置はシンプルですが色調が美しく、モーツアルトの音楽をばえさせるものだと思います。

ゴージャスではありませんが、声の取り合わせの妙というオペラならではの楽しみに集中できる貴重な公演です。小澤征爾さんがカラヤンの指示で最初に振ったオペラが「コジ」で、そこからオペラの魅力にとりつかれたのだそうです。

横浜での公演は、何かの事情で席を押さえていたのか、チケットサイトでは見当たらなかったのに、空席がかなりありました。若い観客がたくさん招待されていてデートなどを楽しまれているのは、普段のオペラ公演ではあまり見られないほほえましい光景でしたが、これだけの質の高い公演に空席は大変残念でした。でもまだ、京都、横浜に引き続き、東京文化会館の3月23日(土)の公演が残っています。

チケットサイトではすでに扱いが全て終了しているため、こちらで東京文化会館大ホール入口での当日券販売(13:30~)の情報をご確認ください。U39、U25の割引(14:00~)もありますし、有名どころのオペラは安い方から埋まっていきますが、こちらはまだ全券種が残っていると思われます。

「コジ」好きがおすすめする「コジ」です。3/23(土)は、東京文化会館大ホールで、モーツァルトが私たちに残した、たっぷり3時間(正味のオペラ公演)の「恋人たちへのレッスン」を楽しみましょう。

ではでは、また!

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