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「冬の森」第8話

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第8話 小さい人が住む窓
 賀久がくはテーブルにある丸く精巧せいこうに形成された箱のふたを開けて一粒のチョコレートを取り出す。
再び両手で丁寧にふたを閉めると周りの空気を遮断したかの様に「パフン」と心地よい音を立てた。
チョコレートの包みをクルクルひっぱって口に入れる。
その一連の動作を愛おしくぼんやり見つめていると賀久がくと目が合った。
 「あ、その銀紙捨てないでとっておいて。」
 「これ?」
 と、言って賀久がくは青色の銀紙を手に取ってヒラヒラさせた。
 「それね、細く折って木の実の空洞の部分にくるくる巻き付けるの。ほら見て。」
 と、言いながらガラスのボトルを指さした。
小さい白熱電球はくねつでんきゅうの柔らかい光が木の実の銀紙に反射してキラキラしている。
 「あの時ね、賀久がくが帰国した日の朝、木の実拾いしてたの。その後来てくれたから、その思い出かな。チョコは食べたら無くなっちゃうものね。」
 と、言うと
 「残る物がいいならクリスマスにプレゼントするけど、
これもう、クリスマスツリー?っていうよりちょっと離れて見るとひとつひとつが明かりの灯いてる窓にも見えるね。小さい人たちが住んでるかもよ。」
 と、こぼれる様な笑顔で言った。わたしは思わず近寄って、
 「賀久がく大好き。」
 と、声にならない声で言うと、賀久がく
 「ん?」
 と、一瞬不思議そうな顔をしながらもすぐに
 「当たり前。」
  と、くちびるが動いた。
照れた様な顔で振り返る賀久がくの大きめの瞳、長いまつげ。少し涙が出た。本当は声を出してわあわあ泣き出したい様な気持ちだった。 

 ふたりで床に転がって羽根布団にくるまれながら賀久がくのノルウェーに滞在していた時の話をきく。
 「森の小径こみちにね、ラズベリーやブルーベリーの実がなってる木が普通にあるんだよ。しかも摘み放題。季節が良い時だったら里奈りなさん、狂喜乱舞きょうきらんぶだよ。」
 賀久がくがわくわくした口調で話すから、つられて加速度的にわくわくが増す。
 「じゃあ、つるで編んだかごは必須ね。紫と赤と緑と。すぐにいっぱいになっちゃう。」
賀久がくはおおげさにうなずきながら、
 「森を奥に進むと人魚が泳いでいそうな湖があって。」
 「ええ?人魚は海でしょ。」
 と、少し大きな声を出して笑うと
 「じゃあ金のおのを出してくれる仙人?あ、妖精?妖精がふわふわいそうな湖。」
 「仙人も妖精も同じ種類なのかしら。でも不思議と神秘的な湖が想像できる。」
 「夜はまたすごいんだ。星が、」
 と、言うのをきいて、五年前初めて朝陽あさひと行ったスキー、
北海道のニセコを思い出して目を閉じた。

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