見出し画像

「冬の森」第14話

前回 次回

第14話 sun catcher
 一月も終わりに近づくと太陽が遠く感じる。
ブランコのくさり部分も冷たさを増して結んでいた髪をほどくと両手に手袋をした。ふと足元に黄色を感じると小さい人がいた。
今日の帽子は黄色ね、至近距離なのに表情が見えない。
体勢をそっと変えた途端とたん消えてしまった。
ニセコで朝陽あさひに会える日まであと一か月足らず。

 お昼には賀久がくがくる。お煮しめかしら?一月だからお雑煮も用意しよう。
急に忙しい気持ちになって走る様に部屋に戻った。

 賀久がくはいつもの様にシャツ一枚の軽装でやって来た。
渡された大きなリボンの付いた箱を開けるとアイアンとクリスタルのサンキャッチャーが窓からの光を受けてプリズムを描いていた。
 「ええ?何これ?宇宙からのエネルギーを放出してるみたい。プレゼント?」
嬉しくて頬が上気するのが自身でもわかる。
 「あれからクリスマスにも会えなかったでしょ。雑貨店巡りしちゃったよ。」
 と、同行してくれた女の子が買った物とか、何と迷ったかをこと細かく楽し気に話してくれた。
 「その女の子って、彼女なの?」
 と、顔を覗き込んで訊いてみる。
 「ま、彼女だったりそうじゃなかったりいろいろだよ。楽しさと面倒は裏返しだね。」
 と、さもわかっているかの様な顔をして答える賀久がくに、
わたしからも、とアルパカの透かしが入ったニットとブランドのマークが控えめに付いた小さいショルダーバッグを渡した。
 「ひえーこれは凄いや。」
 と、すぐさま身に着けてポーズをとって見せた。

 「三月に入ったら出発しようと思うんだ。」
 と、賀久がくが先に口を開いた。
 「里奈りなさん、遊びにおいでよ。飽きるまでずっといればいいよ。住むとこ決まったら教えるね。」
賀久がく賀久がくのまま賀久がくだな、と思った。
 「わたしね、来月にはお引越しするの。お部屋スッキリしてるでしょ。気づかなかった?賀久がくとこうして会うのは今日が最後ね。」
 「彼と別れるの?」
 と、賀久がくが神妙な面持おももちで訊く。
 「そうではないけど、わたし電車に乗って会社に通いたいの。」
 と、笑ってみせた。
 「なんだそれ?里奈りなさんの彼と就職と俺は全然関係ないでしょ。これまでもこれからも全く変わらない。」
 と、少し怒った様な強い口調でキッパリと言った。
 「そういうわけにはいかないわ。賀久がくがいつも暖かく包んでくれたから今のわたしがあるの。その恩返しは賀久がくから離れること以外には思いつかないわ。」
賀久がくよりも強い口調でキッパリと言った。

#創作大賞2024 #恋愛小説部門

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?