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ともだち2 キャビネット

彼女は背が高く美人でセンスがある人。                  私はかなり感化されて彼女と並んでも引けを取らないようにしたいと思っていた。そもそもキャラクターが真逆だから真似をしたところで余計悲しくなるだけ、似合わないから。自分のキャラクターを自分なりに分析して彼女とは違うおしゃれを楽しんだ。

彼女は細く筋肉質でピタッとしたTシャツとデニムが似合う人。        私は背が低くてぽっちゃり体型なので彼女のような洋服は選ばない。どちらかというと可愛い系の服を好んで着ていた。可愛い系というのは当時でいうとオリーブに出てきそうな洋服みたいな感じ。

インテリアもそう。彼女が結婚し新居に遊びに行った時、アンティークのキャビネットに大きな鏡がついている家具をみて驚いた。             何だこのセンスは!素敵すぎる、そして羨ましい。私もいつかこういう家具が欲しいと思った。

とにかく彼女は私の先の先をいくセンスがあって真似したところで追いつくはずもないのはわかっているのに私は実行してしまったのだ。家具屋を歩いて周るも理想のキャビネットはどこにもない。たまたま入った田舎の家具屋で飛騨のキャにネットに出会い20代半ばに購入した。割と高かった。もちろん素敵だったが背の高い観音扉のキャビネットだったので上に何かを飾るにしても、普段使うアクセサリーや小物を置くには背が高すぎた。気に入っていたけれど心の奥の方では「違うな」と思いながらも30年くらい背の高いキャビネットと過ごした。

彼女がル・クルーゼの鍋を買えば欲しくなった。結婚を機に購入した。    彼女は30歳の時に素敵な高級時計を買い、聞いたことのないブランドだった。そして十年後、何を血迷ったのか私は40歳でカルティエの時計を買ってしまった。これは某スタイリストの影響もあったし、老齢の患者さんが身につけているのを見て素敵だと思ったから。でも分相応な気がいまだにしない。      今はすっかりアップルウォッチだ。

彼女の所有するもの全てが羨ましかった。ここまで書いてると私って何だか偏っている気がする。だからといって全部真似するわけではなく私なりの好みを吟味しながらも基本に彼女のセンスがあったから自分と彼女を比較して追いつきたいと思っていたんだと思う。

彼女はきっと同等にしか見てなかったんだろうけど、私が勝手に彼女と自分を比較していたんだと思う。そんなことが実はセンス磨きに一役あったと思う。

長い付き合いの中、彼女はいつも私のセンスを褒めてくれた。キャラクターが真逆だから彼女から見れば新鮮味があったのかもしれない。

このキャビネット問題は割と最近まで私に影響していた。最近は北欧インテリアが流行りなのでキャビネットを見ると大体北欧系のデザインが多い。     彼女のアンティークキャビネットと同じものなんてあるわけがないのに。

私の好きな映画「ふたりのベロニカ」のベロニカの部屋に出てくるキャビネットもまさに理想だった。彼女のキャビネットと似てる雰囲気がある。      ほら、また彼女が出てきた。

私は彼女に憧れ、感化され、彼女と自分を比較していたんだと思う。     彼女にはあるものが私にはないと。ただのコンプレックスじゃないか。    そうかコンプレックスだ、わかっていたけれど。

次第に変化がではじめたのは一人暮らしを始めてからだ。10畳のアパートに住みはじめ、自分で選んだソファや大きな鏡など所有するものが少しづつ増えていった。自分だけの部屋なのでおままごとのように楽しんだ。結果、私の雰囲気が醸し出される部屋となっていった。でも理想のキャビネットはいつだって見つからない。

そんな私も30代後半で結婚して地元を離れていった。20代で購入したキャビネットも一緒に嫁入りし、やたら背の高いオーダーメイドの姿見の鏡、寝転がれる大きなソファも嫁入りした。

それでもインテリアショップに行くとキャビネットをいつも探してしまう。いつか出会えるのではないかと。

あれから約30年が経ち、今インテリア大改造真っ只中。なぜ。        私がたどり着いた答えは本棚だった。私は本が多い。なぜそこまでキャビネットに固執していたのか、それは腰ほどの高さのあるキャビネットの上にアクセサリーやキャンドルや絵や写真などを素敵に飾りたかったから。彼女のキャビネットの上にはセンス良く小物が配置されている。それが理由。

でも本が多い私にはキャビネットは実は必要ないのだ。きっかけは気になるインテリアショップに入ったら素敵な本棚に会ったから。店には1〜2年の間に5〜6回通って購入を決断した。引き出しは必要なく引き出しに入れたいものは箱に入れて本棚に置けばいいし、腰の高さのほどの本棚の上にアクセサリーやメガネ、香水、メガネを素敵に飾りたい。これまでの憧れがその本棚で完結するのだ。

長年のキャビネットの呪縛は彼女の真似であって、本当に必要なものはキャビネットではなくデザインに優れた上質な本棚、ようやく着地した。       私の部屋の主役はキャビネット出なく本棚だった。             そこで私は長年愛用していた背の高いキャビネットをメルカリに出し運良く購入してくださる方とご縁がありキャビネットは嫁にいった。

気付くまで時間がかかった。

彼女への憧れは高校時代ほどのものではないけれど、お互いリスペクトしあい、彼女からは自分では気づかない私のセンスを指摘してくれたことで自分を再認識し割といい感じになってるじゃないかと思っている。

今彼女とは気軽に会えないけど、彼女はフットワークが軽く他の友達と比較にならないほど、お酒を飲みにいったりランチしたりと数えきれないくらいの時間を過ごしてきた。私が結婚で都心に近いところに住んでいても、思いつきでよく都心に来てランチを楽しんでいた。

新しい本棚をお迎えしたら、きっと私らしい部屋になることだろう。そしたら彼女を招待して感想を聞きたいものだ。


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