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ユブネの往復書簡②-1

ユブネの往復書簡②-1
送り手 ユブネ 山森彩
宛先 QUILL コピーライター 松本幸さん

幸さんへ



こんにちは。やっとお手紙を書けました!


この企画が決まってからずっと、それはだいたい台所やお風呂にいるとき、幸さんに伝えたい言葉が浮かんでは消え、暮らしに紛れては消え、を繰り返しているうちに時間だけが経ってしまいました。子育てが始まってから、台所にいる時間はものを考えるのに最適で。仕事が始まる前だと、唯一自分だけの時間だったと言っていいかもしれません。人がひとり増えただけでこんなにも生活が変わるものなんですね。こう書きながら、幸さんがつくってくれたごはんの味を思い出したりして。

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仕事復帰する前の私の一日は、だいたいこんな感じ。

授乳!抱っこ!ごはん!洗濯!散歩!買い物!ごはん!風呂!授乳!寝る!
それはそれは
あわただしくて、どの項目にも「!」をつけるのがふさわしいような。それでも、うちの娘はあんまり泣かずにごきげんで、夜もよく寝るので比較的育てやすいみたいです。


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ずっと思っているんですが、「比較的」とか「~なほう」って……いったい誰と何と比較しているんでしょうね(笑)。結婚や出産以降、たびたび耳にします。

「(だんなさんは)家のことやってくれるほうだもんね」

「(だんなさんは)子どもの面倒よく見てくれるほうだもんね」

あ、話し手の子どもや夫かなぁ?自分でも「うちの夫はよくやってくれるほうだ」とか言っちゃってて、誰と比べてんねん、と口にするたびに心の中でつっこんじゃう。




私が幸さんと出会ったのは20代の頃。出会ってからもう15年近く経つんですね。びっくり。幸さんの第一印象は”旺盛、活発、体と頭にいろんなものが詰まってる”。そのイメージは今も変わりません。私はといえば、あの頃は笑えるくらいギラギラしてましたね。思い出すと恥ずかしい~。


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幸さんは出産と子育てをパリでも経験していて。なんだかおしゃれに聞こえるけれど、なかなか凄まじい生活を送っていたんですよね(笑)。そしてパリへ渡ったのは、パートナーの希望があったからだと記憶しています。私、振り返ってみると、“誰かと一緒に決めてそこへ至る”経験をしたことがこれまでなくて。結婚はまぁそうだけど、暮らしにおいては自分中心で。人のためにがんばる生活、というものを知らなかったような気がします。(仕事では人生捧げるような働き方しちゃってたこともありましたけど!)だからなのか、仕事以外のことで、誰かと一緒に何かを決める、ってことになんだか人としての強さを感じるんですよね。
幸さんは生活に重点を置く時期を経て、また仕事に復帰して。パリでの経験をいかして本まで出版。私だったら……ってよく考えちゃう。私はもしかしたらひとりっ子的な気ままで甘えっぱなしの暮らしから抜け出せてないんじゃないかと思うことすらあります。人ってそんなものなのかもしれないけど。幸さんのパリのその後、復帰までの道すじを改めてお聞きしたいな。

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そうそう、幸さんにお伝えしたかどうか忘れてしまったけれど、ずいぶん前に、街中で、「あ、これは幸さんが書いたコピーだ」と気づいたことがあります。コピーライターやグラフィックデザイナーの名前は完成品には書かれていないから、なんとなく、「●●さんが手がけたのかな?」って思うことがはあるんだけど、あのときは、絶対そうや!って確信があって。あの強いコピーを生み出す原動力ってなんなんだろう。幸さんと一緒にお酒を飲んでいるときに見える仕事とはちがう表情と、幸さんが書いたコピーからただよう気迫のようなものはなんだかイコールなような感じがしています。


とりとめのない手紙でごめんなさい。昔から手紙には送りたい言葉とういうより、話しているみたいに、聞いてほしい言葉を綴ってしまう。昔からのくせって、なかなかなおりませんね。


お返事、ゆるゆるとお待ちしてます。