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人狼対抗西部戦線

 太陽が照りつける赤く乾いた荒野を鉄道レールが貫く。その傍らに馬に乗った数十人のガンマン達が集っていた。
「奴等が人狼と呼ばれている理由が解る奴はいるか?」 
 左目を黒い眼帯で覆った初老の男、シルバーハウンドは男達に向けそう言った。
「16世紀にスラブ地方で彼らが観測され始めた頃、最も頻繁にとった形態が人狼だからです。慣習的に今でも彼らを人狼と呼びます。」
 遠慮がちに答えたのは余りに場違いな雰囲気の、小柄で小太りなホーキンスだ。
「さすがロンドンから調査に来た先生だ。では何故奴らが人狼の姿をしていたかご存じかな?」
「彼らは人間の記憶や文化を未知の機序で読み取り、最も恐怖を煽る姿に変わるからです。さらにその恐怖感と人の血肉を糧にし…」
「十分だ先生。つまり…」
 シルバーハウンドは声を張り上げた。
「聞いたか野郎ども!奴らを見て怖気づくような腰抜けは今すぐ帰れ!」
 男達は挑発的に笑えど誰も動かない。
「今からここを通る列車に人間に擬態した人狼が乗っている。我が社の諜報部が掴んだ情報だ!俺達は列車強盗のふりをして奴等を炙り出す。そして今日は新参者が多いから言っておく!”サイレンス”マリーとアパッチのロロはこの中では俺の次にベテランの狩人だ!女と先住民だと甘く見て二人の仕事の邪魔をするんじゃないぞ!」
 サイレンスの異名をとる、ほっそりとした黒ずくめに長い金髪の三つ編みを左右に垂らしたマリアンヌは、微笑みながらウィンチェスターM1873に弾丸を込めていた。その襟元から首筋で弧を描く傷跡が覗く。
 長髪を後ろで結った厳めしい顔つきのロロは、恰好こそガンマンとあまり変わらないが銃は持たず弓矢とハチェットで武装している。
「行くぞ!狩りだ!」
 列車の吐く黒煙を遠目に見てシルバーハウンドが馬を走らせ、男達が彼に続く。

 列車強盗の気配に乗客が色めき立ち始めた列車の中では、黒髪の貴婦人が殺戮の予感に緑の目を輝かせ静かに笑っていた。

【続く】

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