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丸暗記の知識で人間性を表現する ◆ 水曜日の湯葉[10/25-31]

ふと「山手線ゲームを山手線でやったことがないな」と気づいて駅名を書き出してみた。

目白・目黒が逆というベタな間違い

うーむ微妙。上野周辺はよく行くので解像度が高いが、西のほうがスカスカである。

小学生のころ読んだ漫画で、作中の頭脳派キャラが唐突に円周率を暗唱しだすシーンがあった。いまから考えると「頭がいい」の演出が円周率というのがあんまり頭よくないが、当時の僕はそれを読んで「頭いいやつは円周率を言えるんだ」と実写版ルフィみたいなことを思い、「つまり僕は頭がいいから、円周率を言えるはずだ」という理屈で70桁ほど覚えた。これは未だに言える。

その後も「自分はキャラ的にこれを暗記してそう」と思ったことを色々と暗記した。元素周期表とかアミノ酸とか。逆にモーニング娘。のメンバーのような「自分はそういうの知らなそうだ」と思ったものは意識的に覚えないようにしていた。ジェンダー論でよく聞く「ステレオタイプが実力に影響する」というのは、おそらくこういう力学でできている。

その観点で言うと自分は「駅名とか全部覚えてそう」ではある。だとすると山手線の駅名が歯抜けなのはよろしくない。しかし一方で「東京の地名を覚えていて当然」という態度を軽蔑するタイプでもある。難読地名の話題で地方ばかり出して「日暮里」や「御徒町」を出さないのはナンセンスだと思っている。そんな自分が山手線の駅名をスラスラ言えたら、それはそれでキャラに合わない。だからこのくらいがちょうどいい。

いまどき大抵の実用知識は調べればすぐに出るので、暗記が実用面で求められる機会は稀だ。そのかわり「何を覚えているか」はおもに人間性の表現に使われる。相手の名前を覚えない人は「物覚えが悪い」ではなく「相手に関心がない」と思われる。逆に、個人的特徴をやたら覚えていても「記憶力がいい」とは思われない。ストーカーを疑われる。



先週公開された映画『ザ・クリエイター』を見た。AIの映画である。……と言ってもご存知のとおり映画業界において「AI」とは「人間を模して作られたロボット」のことであって、われわれが現在直面している ChatGPT 等とはあまり関係ない。したがって映画館に入る前に「今さらこの古典的AIをやるのか?」という点を飲み込む必要がある。飲み込んだ。よし見るぞ。

(以下ネタバレあり感想)

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