見出し画像

許可なく微積を入れ替えるな ◆ 水曜日の湯葉83 [7/5-11]

7月5日 水

『ヘンテコ関数雑記帳 解析学へ誘う隠れた名優たち』(佐々木浩宣)という本を読んだ。

かなり珍しいタイプの数学書である。「連続関数なのに微分可能な点がひとつもない」とか、「無限回微分できるけどテイラー展開できない」とかいった、およそ他分野への応用が期待できそうにない異常な関数をつぎつぎと紹介する「数学版へんないきもの図鑑」である。

といっても単なる雑学で終わる内容ではなく、数学的な「関数」の定義ギリギリを攻めることによって、「なんでε-δ論法みたいなダルい議論がいるの? もっと直感的に定義してよくない?」といった理学部2年生が抱きがちな疑問に対しても「直感は裏切れる」と教えてくれる啓蒙書でもある。


大学時代に物理でよく「積分と無限和を許可なく入れ替えると数学者が怒るんですが……」という話を聞いた。これはつまり「数学的に入れ替えていい関数だと示してからやれ」という意味なのだが、物理学で扱う関数はたいてい入れ替えられるので物理学者は省略しがち、という意識の違いを示した話である。

ただこの字面を見ると「数学者に許可を得てから入れ替えろ」という意味に見えてしまい、その様子を想像して笑ってしまう。日本数学会に「積分入れ替え申請書」を郵送して、担当の数学者が関数を審査して「認可」のハンコを押してから入れ替えるのだ。中には諭吉を忍ばせる不届きな物理学者もいるらしい。


7月6日 木

ここから先は

3,965字 / 3画像

毎週水曜20時に日記(約4000字)を公開します。仕事進捗や読書記録、創作のメモなどを書いています。…

水曜日の湯葉メンバーシップ

¥490 / 月
初月無料

文章で生計を立てる身ですのでサポートをいただけるとたいへん嬉しいです。メッセージが思いつかない方は好きな食べ物を書いてください。