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タケノコが伸びるよりも、亀が歩むほうが速い ◆ 水曜日の湯葉93

「すべての道はローマに通ず」という言葉がある。僕はこれを古代ローマ帝国の繁栄を表す言葉だと思っていた。「イスファハーンは世界の半分」とか「ナポリを見てから死ね」とかそういうやつ。

ところが辞書を見たら、この言葉は「あらゆる物事はひとつの真理から発している」という格言として使われるらしい。帝国が滅びても文としての格好良さは残っているので、ローマと無関係な意味があと付されたんだろう。

となると「ナポリを見てから死ね」も、そのうちナポリという具体的な都市から離れて「人生には目標が必要だ」とかいうフワッとした格言になる可能性がある。「五月雨をあつめて早し最上川」といった俳句も「小さな努力も集まれば大きな結果になる」という意味に変容していくかもしれない。

逆に、ことわざとして学んだ文句も、遡るともっと個別的な意味だったのかもしれない。「餅は餅屋」が江戸時代の餅屋のキャッチコピーだったと言われても違和感はない。「ご家庭でお餅がうまく作れない、仕事が忙しくて時間がない、そんなお悩みはありませんか? 餅は餅屋にお任せください。腕と信頼のうすきね。創業は元禄二年。お問い合わせはフリーダイヤル」といったふうに。

「糠に釘」はそもそも「糠床に釘を入れると鉄分でナスがきれいになる」という実用知識であるらしい。あれを「手応えがない」の意味にとったやつは家事をろくにやらない糠エアプ野郎に違いない。カレー屋でローリエ見つけて「異物混入だ!」とか騒ぎそう。「排水口に10円玉」もいずれ「日常の小さな幸運」みたいな意味にされるかもしれない。

「弘法にも筆の誤り」も最初は弘法大師(空海)のミスを指摘する言葉だったのかもしれない。1回のミスを1000年以上擦られてるの嫌すぎる。ことわざとして定着するまでに10年くらい「黒歴史だすのやめろよwwww」みたいなノリで言われたんだろうし。そりゃ出家もするわ。


9月13日 水

近所のファミレスで「書けねえ〜 書けねえ〜」と呻きながら『幽霊』の原稿を1話分仕上げて送る。このところ近所の小学生から「妖怪カケネエ」というあだ名がついているらしい。襲ってきたらタマネギを見せると逃げていく。

「書けないと悩むのは書ける者だけだ」という格言を考えた。意味は特にない。意味ありげな言葉を考えるのが最近の趣味だ。「タケノコが伸びるよりも、亀が歩むほうが速い」は特に気に入っている。タケノコの伸びは速さの比喩、亀の歩みは遅さの比喩に使われるが、実際の速度としては亀のほうが速い。中国の故事成語でも通りそうな風格がある。四字熟語にもできそうだ。意味は特にない。

原稿を送ってすぐ後に、別のやりかけの仕事の話が来た。こちらは明確な締切がないのでダラダラ進めているのだが、Slack 無料版で打ち合わせしているせいで、90日以上経つと会話の履歴が消えてしまう。つまり設定したタスクは90日以内にこなさないといけない。というのが駆動力となっている。大学生がソフトウェアの無料トライアル期間中に作品を完成させる貧乏駆動開発(PDD)。


9月14日 木

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