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水曜日の湯葉45 ◆ 太陽と月と丱 / 探偵は猫を探さない

10月12日 水

友人が Starlink(人工衛星を利用した高速インターネット)を自宅に導入するかで迷ってるという。光回線の届かない離島や山間部ならともかく、なんで東京の真ん中に住んでるお前が? と思ったら、もちろんギーク趣味が大半なのだが、「NURO 光よりは速い説ある」とのこと。なるほど。勿論これはユーザー数のせいであり、ちゃんと条件を揃えれば衛星よりもケーブルの方が速い。

「未来のネットは衛星を使う」というイメージがかつてあった。当時はまだ「どう考えても全地球上にケーブル敷きまくるよりは衛星飛ばすほうが効率的だろ」と思っていたからである。だが実際にやってみると地球をケーブルで覆うほうが楽だった。僕が「どう考えても」というときの考えは案外浅い。

そもそも技術オタク気質な人間からすると、「非効率で愚直な手段を、量産効果でカバーする」というのは受け入れづらく、スマートなアイデアに基づく1点モノの製品ですべてを解決してほしい。でも結局そういう1点モノは高価すぎて、愚直に量産するほうが安く済むのである。

ところで人工衛星は普及しまくってるのに、レトロニムとしての「自然衛星」という言葉はいっこうに普及しない。これは地球においては「月」という固有名詞ですべてが足りるからだ。木星系の開発でも進めば呼び分けが必要になるんだろうけれど。

そこで地球に(肉眼で見えるサイズの)自然衛星がもう1個ある並行世界を考える。「月」同様にその衛星専用の漢字が必要だから、 Unicode から使わなさそうな字を適当に拾ってこよう。丱にしよう。「日・月・丱」と並べてバランスがいいのが選定理由。訓読みは「ひ・つき・あまき」、音読みは「ニチ・ゲツ・カン」とする。英語は sun / moon / taan あたりでいいかな。

丱の直径は数十キロと小さく、地球のごく近くを公転しているため、火星のフォボス同様に1日に何度も昇ってくる。こうした運動性は幼い子どものイメージと重なるため、神話では「太陽と月の子」というポジションが確立する。転じて「丱」という字が幼児を意味するようになる。

外観が月といっしょでは面白くないので、丱は小惑星アロコスみたいに2つの天体が合体したダルマ型にしよう。丱という漢字はその形状を表した象形文字である。あまり長期的には存在できそうにないので、比較的最近(人類史が始まるよりは前)に捕獲されてきた衛星としたほうがいいかもしれない。地球照が強いので月ほど明確には満ち欠けせず、常にヒョウタン型のシルエットをこちらに見せている。速すぎるので暦には使われず、むしろ時計として使われる。

なお実際に地球にもう1つ衛星があると、月の影響で軌道がかなり面倒になり、長期的に存在することは難しいらしい(この本↑に詳しい)。丱は最近捕獲されてきた地球近傍小惑星なのかもしれない。地球に落ちなかったのは幸いと言えるだろう。

10月13日 木

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