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ケープタウンに存在する無自覚なバイアスと特権性について【南アフリカ🇿🇦】11/54ヶ国目 | 世界一周ふりかえり

★世界一周11ヶ国目、南アフリカ
★滞在日数:2022年11月7日〜11日,14日〜15日(6泊7日)
★かかった金額:¥87,569 /2人

アパルトヘイトという言葉を聞いたことがあるだろう。

かつて南アフリカで国家規模で行われた人種隔離政策。
白人と非白人を明確に区分し差別した凶悪な政策が廃止されたのは1991年、わずか30年前のことだ。

戦前の植民地政策の系譜から白人優遇が続いたアパルトヘイト期間に、南アフリカには多くの白人が住むようになり、今でも人口の10%は白人なのが、この国の特徴だ。

もう一つ、南アフリカの特徴といえば、経済大国であること。
アフリカのサハラ以南の全GDPの20%を占め、アフリカ経済を牽引する存在だ。
しかしその一方で驚くべきは失業率の高さで、その数は30%にも及ぶ(同じくアフリカの経済大国のナイジェリアの失業率は6%ほど)。

南アフリカは非常に経済格差が大きく、それに伴い治安も相当悪いと言われている。
世界凶悪都市と呼ばれるヨハネスブルクのダウンタウンの雰囲気は、同じく凶悪都市と呼ばれるナイロビの比ではない。

そんな特徴のある南アフリカではケープタウンを中心に約1週間ほど滞在した。
私自身、ダイバーシティ&インクルージョン(DE&I)に以前より関心があり色々な仕事に携わってきたが、南アフリカでの経験は、自分の無意識なバイアスや、特権性の根深さ、包摂と融合の複雑さに頭を悩ませた、印象深いものだった


◇整ったインフラ、白人ホストの家

ナミビアから長距離バスで国境越えしケープタウンに到着した。

車窓から見えるバスターミナル前は、ほぼ新宿西口。
整ったロータリー、交差点、立ち並ぶビル。
ナイロビやタンザニアの発展した街並み以上の、以前からインフラが整っていることを感じさせる様相だ。

ケープタウンでホストしてくれたのは、カウチサーフィンでマッチしたDavid。
待ち合わせ場所は彼のオフィス。到着してみるとそこはゴールドに輝く看板を掲げた10階建てくらいのビルだった。
立派なエントランスではスーツを着こなしたビジネスパーソンが出入りしている。

圧倒的に場違い感のあるバックパッカー姿で私たちが待っていると、白人のダンディなおじさんが現れた。彼がホストのDavid。このビルに弁護士事務所を構えるオーナーだった。

彼の白いベンツのオープンカーに乗り込み自宅へ。
海沿いの丘に立つ大きな家だった。

そのエリアで見かける住人には、もちろん様々な人がいるわけだが、なんとなく白人の方が多いように見えた。

オーシャンビューバルコニーで南アフリカワインをいただきながら、これが南アフリカの格差の上にある暮らしであることを悟った

◇アフリカンダンス鑑賞とステレオタイプの自覚

アフリカには、アフリカンダンスと総称される、さまざまな地域や部族ごとの伝統的ダンスが存在する。
色々な国でもみてきたが、非常にエネルギッシュでカッコ良いものばかりだ。

ご縁あって、ケープタウン大学大学院でアフリカダンスと人類学の研究をしている日本人のRiseちゃんと出会い、ダンスを通した社会の見方について色々と学ばせてもらった。

Riseちゃんにお誘いいただき、ケープタウン大学のダンスチームのパフォーマンスの鑑賞へ。
アフリカらしい力強いダンスに始まり、アフリカ伝統柄のパンツとモダンなシャツを身に纏ったコンテンポラリーダンスに続いていく。

さて、私は今、「アフリカらしい力強いダンス」と表現したが、
ここにステレオタイプが潜んでいる可能性を感じた人はいるだろうか

事実として、アフリカンダンスは力強い音を楽器で奏で、全身を使った活気のあるダンスであることが多い。

しかし例えば、白人のお金持ちが集まるディナーで、
「アフリカっぽいダンスをしてくれ」という要望を受けるとしたらどうだろうか。

南アフリカには、そういったシーンが実際多く存在するらしい。
その時求められるのは、アフリカダンス=黒人ダンサー=力強い であるのかもしれない。

実際私も、モダンなシャツを纏ったコンテンポラリーダンスが始まった時、
「もっとパワフルなダンスを見たいなあ」なんてことを心の中で思っていた。
これこそが、無意識に黒人ダンサーに対して、「それらしさ」を定義し求めてしまっていた可能性があることに気づかされ、ハッとした。

(ピンとこない人は、日本社会における男女に置き換えてほしい。女性がクールな服装でヒップホップを踊っていたとして、「女の子なんだからもっとセクシーなダンスを踊ってほしい」と男性に言われたら違和感を感じる人がいるだろう。)

伝統柄の衣装にモダンさを組み合わせたコンテンポラリーダンスはもしかすると、
白人社会から求められる「黒人ダンサーによるアフリカらしさ」への何かの表明なのかもしれない
あくまでこれは私自身の解釈であり正解はないが、そのように見ることもできるということを教えてもらった。

ダンスパフォーマンス


この演目は最後、「アーティスト活動を支援する国の奨学金に応募するも、不合格の通知が届き続ける」という演劇で終わる。

実はこのダンスチームは、タウンシップと言って、アパルトヘイト時代に作られた黒人居住区で今でも相当数の黒人が住み続けているエリアの出身の学生たちによるチームだそうだ。

南アフリカには、ダンスチームを支援する奨学金制度があるが、
タウンシップ出身のチームと、それ以外のチームでは、合格率が明らかに違うらしい。
学生たちはこれまでの不合格通知メールをプリントアウトし、壁中に貼り付け、
「We are not numbers, we are human.(私たちは番号ではない、人間だ)」というセリフを何度も静かに放ち、演目は終わった。

◇ウォーターフロントとタウンシップ、根深い格差社会と特権性

ケープタウンに旅行する人が絶対に行く場所といえば、ウォーターフロント。文字通り海に面した場所に再開発されたショッピングエリアで、19世紀(英国植民地時代)の街の様子が再現された”西洋的雰囲気”を感じる観光スポットだ。

ディズニーシーのハーバーをも思わせる街のつくりの中に、LUSH、ロクシタン、H&Mなど欧米系のお店が立ち並び、非常に平和な風が流れている。レストランの中をのぞくと、観光客と白人系の人々が多いことに気づく。

ウォーターフロント

一方で、旅行客は大抵「タウンシップには近づくな」と言われる。
タウンシップとは先述した通り、アパルトヘイト時代の旧黒人居住区の名残で、今も貧困層(そのほとんどが黒人)が多く暮らしているエリアだ。

このように、南アフリカは治安の良い場所と悪い場所の差が激しく、境界線がくっきりしているため、だんだんと自分の認識が、
黒人が多いダウンタウンエリア → なんとなく治安が悪そう
海沿いの白人が多いエリア → 治安が良くて過ごしやすい
となっていってしまう。(実際に旅している人の間でこのような会話は生まれやすい。)

実際、南アフリカの犯罪率は極めて高く、1日あたりの殺人件数は60件近くにものぼる。そのため、周囲の様子に気を張って、警戒心を高める必要があるのも事実だ。

しかし身を守るためとはいえ、白人が多いか否かで安全性をなんとなく測ってしまう自分の思考には、差別やバイアスがないと言い切れるのだろうか

奨学金に受からないダンスチームのように、どう頑張っても世の中から排除されるタウンシップの黒人たちがいる一方で、高所得層(主に白人)たちは安全なエリアで電気や水も得られる環境に暮らしている。

植民地・アパルトヘイト時代が根底にあり、あってはならない歴史から得ている特権を、白人たちは持ち続けている。

そして、旅行客である私たちもまた、安全な場所での行動を選択することができるという特権を持っている。

白人たちも、差別をしたくて場所を選んでいるわけではないだろう。ただ、自らの安全が脅かされる危険性が大きければ大きいほど、持っている特権を手放すのは難しい。

ウォーターフロントで歌を披露するパフォーマーたち。
レベルがすごく高くて本当にかっこいい。


人種隔離政策が既に終わったはずの今も、南アフリカに住む人々は、住む場所や機会の差を突きつけられている。

Davidの家のオーシャンビューバルコニーとタウンシップの子どもたち。
ウォーターフロントで優雅に食事をする白人たちと、その前で歌やダンスを披露する黒人パフォーマーたち。

そのあまりにも大きな差と、背景にある消せない歴史に愕然としながら、自分自身にも潜むステレオタイプや無意識のバイアスを自覚させられる、忘れられない南アフリカ滞在だった。

カラフルな家が並ぶのはボカープ地区。奴隷として連れてこられた人が白人主義に対抗してカラフルに家を塗った。今も奴隷3世の人々が住んでいる。

補足:黒人ダンサーにアフリカンダンスを求めてはいけないのか

勘違いされやすいが、黒人ダンサーにアフリカンダンスを求めてはいけないと言いたいわけではないことを補足したい。それが全て差別なのであれば、日本人に日本舞踊を求めたり、中米の先住民族に伝統ダンスを求めることも全て悪いのか?アフリカの文化や伝統、ファッションを楽しむことについて全てが「差別」「文化の盗用」と言われてしまうことに対し、私は懐疑的だ。

大事なことは、それを一方的に消費していないか、差別の歴史が背景にあるならば、それを忘れていないか、構造的な特権を無自覚に振りかざしていないか、そういったことを気にかけることだと個人的には考えている。

そのうえで、本人が楽しんで表現したいものであればこちらも楽しむし、なにか苦しさがあるなら耳を傾けて変えなければいけない。一方的に決めつけて、特権がある側が機会を奪ったりすることこそ、よくないのではないか、少なくともわたしはそう考えている。

そしてこの記事では、意図的に白人・黒人という言葉を使い格差構造をわかりやすく表現しているが、それ自体に対して違和感を持つ人もいるだろう。白人全てが特権を行使しているわけでもないし、ホストのDavidは非常にリベラルで差別的な発言があるわけでももちろんなかった。

私もこの記事で書いたように自分の無自覚なバイアスに気づきながら考えをアップデートしているし、考えれば考えるほどその複雑さや難しさに悩んでいる。この記事を読んで何か思うことや指摘があればぜひいただきたいと思う。

南アフリカ = 治安が悪いと思っている人や、ウォーターフロントは西洋的で安全と言っている人がいれば、一歩立ち止まって、自分自身に潜むバイアスについてもう一段深く思考を巡らせてもらえるようなきっかけになれば嬉しい。

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