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ゼノブレイドクロスが教えてくれた大切なこと


アリストテレスの言葉に"全体は部分の総和に勝る"というものがある。


時計のパーツを集めたところで、それを適切に組み立てなければ意味がない。全部がきちんと組み合わさって初めて時計として動く。個々の部分が集まってできる全体の価値が、単独で考えた場合の部分の価値を上回るということだ。

ここに、ゼノブレイドクロスというゲームがある。僕が大大大好きな作品だ。

まさに、このアリストテレスの言葉を体現したようなゲームだと思う。

ゼノブレイドクロスってどんなゲーム?


不動の人気を誇るRPG「ゼノブレイド」のシステムを踏襲した作品で……
うん、やっぱり言葉で説明するのは面倒くさい。百聞は一見に如かず、この動画を見て欲しい。

凄くワクワクしないか!?
世界観とかデザインとか、もうカッコ良すぎる...!

しかしこのゲームの売り上げを見てみると...

「ゼノブレイド」: 約14万本(2010年6月〜2016年11月)

「ゼノブレイドクロス」: 約13万本(2015年4月〜2016年6月)

メディアクリエイト

おかしい、前作のゼノブレイドよりも少ないではないか。
フィールドの広さもグラフィックも、ハードの進化の恩恵で向上しているはずなのに…一体なぜなんだ?

それは、万人受けしないであろう要素がいくつかあるからだ。

人を選ぶストーリー


この物語は多くの謎を残して完結する。

地球人である主人公達と原住民であるノポンの間で、お互いの言語を知らないのに何故か言葉が通じ会話ができる。
そしてヒロインが
「この星には何か不思議な力があるのかも…」
と意味深な事を言う。そしてこの話題は2度と作中で触れられない。…んえ?


他にも、主人公達の敵である宇宙人が「あのお方」と意味深に度々発言するのだが、結局最後まで登場しなかった。
「あの人、マジでパネェから!」と知らない先輩について言われている感覚になる。


エイリアンに関しては他にも謎がある。
敵である宇宙人達にも抗争関係にある第3の勢力がいるはずなのだが、一切出てこない。言及すらされない。
本当に知らない宇宙人達の争いで地球が滅んでしまった。傍迷惑もいいところである。


名誉のために言っておくと、これは製作者が意図的にそうしたらしい。
が、謎が謎を呼び謎のままで終わると、どうしてもモヤモヤが残ってしまう。


ストーリーに大きな盛り上がりがあれば評価は変わったかもしれないが、今作の物語は非常に淡白である。
主人公はプレイヤーが自作したアバターなのだが、それ故に存在が完全に空気であり、ゴッドイーターのように自分で作ったキャラが本編のムービーで喋ったりもしない。

その場にいるはずなのに視点は傍観者なのである。

世の中には読者を置き去りにする難解なSF小説や、読み手に想像を委ねて終わる映画もある。だから僕は謎多き物語にそこまで気にならなかったのだが、そうは言っても、もう少し興奮が欲しかった。

厄介な仲間たち


今作では3人の仲間と共に戦闘や探索が出来るのだが、一度メンバーを入れ替えると外された人はピューっと元いた場所に帰ってしまう。
もう一度仲間に入れようとしたら、なんと直接本人の所へ向かわなければいけない。

「電話したら飛んで来るような都合の良い関係じゃねえから!」という事なのだろうか。彼らにも心はあるのだ。
しかし直談判しに行っても厄介な問題が生じる。

そもそも仲間が弱いのだ。


AIがそこまで賢くないのか、戦闘でバチクソ死んでいく。欲しいのは共に戦ってくれる仲間であって、鉄砲玉になってくれる使い捨ての兵士ではない。

後半の強敵との戦いでは、仲間達が一撃で全滅し、結果的にずっと1人で戦い続ける事態が頻発する。
助け起こすよりも単騎で撃破する方が効率的なので、“屍を横に見ながら淡々と技を出し続ける主人公”という絵面が完成する。

他にも

・最近のスターウォーズ並にエイリアンが少ない

・お金が有り余り、資源が枯渇するシステム

・単調なイベントシーン

などなどあるが、これだけの不満点があっても僕はこのゲームを愛してやまない。


なぜなら、核となるパーツが綺麗に組み合わさり、それら本来の魅力の数倍もの力を発揮し、細かいパーツの不良など忘れてしまうほどの“凄み”があるからだ。

最高のオープンワールド

このゲームはオープンワールドである。
これがとてつもないクオリティで、このゲームの真髄はほとんどコレといっても過言ではない。

開発者の方々は星を丸ごと作る事をモットーにしていたそうで、この言葉に違いはなく、このゲームでしか出会えないオリジナリティ溢れる世界観が完成している。

そしてマップ構成が「あそこに行ってみよう!」と探索欲を刺激する絶妙な作りになっているのだ。

例えば拠点近くのフィールド。地球に近いけど少し違う程度の環境なのだが、その代わり遠くの風景が良く見えてワクワクさせる。
他の大陸に行くと謎の人工物が転がっていたり、見たことがない形状の植物があったりと常に好奇心を掻き立てられる。

オーバーハング(90°以上の崖)と空中にあるマップ以外はゲーム開始ほぼ直後から行こうと思えば行ける作りで、オープンワールドとして最高の自由度になっている。

探索意欲が常にマックスなのである。

それに拍車をかけるのが、マップに仕掛けられた面白いゲーム性だ。

開拓である。

ミラのマップは地形が"セグメント"と呼ばれる六角形の地域で仕切られており、その地域の強敵や資源を発見するとブロックが埋まる。
ポケモン図鑑を埋めるようなこの作業が楽しくて、さらに未開の土地への探索意欲を掻き立てるのだ。

またこのシステムのお陰で足を運ぶ必要がない場所など存在せず、マップがとんでもない密度になっている。

フィールドの音楽も素晴らしい。
例えば夜行の森というエリア。ここでは風や森の音は一切聞こえない。その代わり、風が流れ鬱蒼とした森を感じ取れる音楽が流れるのだ。
この音楽がゲームの雰囲気を見事に伝え、自分がゲームを遊んでいる感覚と完璧に合致して気持ちが良い。

ちなみに作曲者は、ガンダムユニコーンや進撃の巨人の劇中歌で知られる澤野弘之氏である。澤野さんの曲が好きなら確実に今作の音楽にハマれる。

変形ロボット


全国のロボットオタク達よ、歓喜するが良い。
このゲームではストーリー中盤あたりからドールと呼ばれるロボットを手に入れることが出来るのだが、「男の子ってこういうのが好きなんでしょ?」と言わんばかりなのだ、コレが。

なにせ人型から車に変形し大陸を縦横無尽に走り回り、飛行装置を装備し大空を自由に飛び回ることが出来る。
マップの中でいつでも機体から降りたり搭乗したりできるので、エースパイロットとして惑星を駆ける感覚を味わい尽くせる。

ちなみに制作陣は、新しいドールを手に入れる難易度を“新車を買うような感覚”になることを意識したようである。確かに入手自体は大変なのだが、手に入れた新しいドール眺め、色をカスタマイズしたり武器を装備したりする時の興奮は忘れられない。

ちなみに僕は車を買ったことがない。
そもそも免許を持っていない。
免許を取るよりも免許を持っている友達を作る方が楽だと思って引き返せなくなっている。

脳汁ドバドバの戦闘


本作の戦闘システムでは、"アーツ"と呼ばれる技を出して攻撃や防御、回復をするのだが、これらは一度使うと再度使用するまで"リキャスト"と呼ばれる待ち時間がある。
使えるアーツがない場合は基本的に自動攻撃で、何もしていない時間があり退屈に感じるのだが、それも"オーバークロックギア"を覚えるまでの話である。
これは例えるとスーパーサイヤ人状態で、全てのアーツのリキャスト時間が極限まで短くなり、さらにアーツを使う順番でコンボが発生しバフをかけることが出来る。

うまく立ち回ればドールですら倒すのが難しい強敵でも生身で撃破できてしまうのだ。これの中毒性が非常に高い。

画面に歪みがかかり、疾走感にあふれる


戦闘で興味深いのが、キャラ同士の掛け合いである。

戦闘中にパーティーメンバー達が声をかけあうのだが、基本的にいつも誰か喋っている。
調べたところ前作のゼノブレイドのボイス数はバトルだけで3000。しかし今作は、なんと1万1000までに増えたらしい。
声優さんの中には収録中に声がかれる人も出て来たとか…声のプロの喉にダメージを与える開発陣の狂気が恐ろしい。
しかしそのお陰で、僕のようなボッチでも誰かと一緒に通信プレイを楽しんでいるような感覚になれる。青春のコンプレックスを忘れさせてくれるのだ。

僕は惑星ミラでの生活が好きだ


広いフィールドのゲームは沢山ある。

戦闘が面白いゲームも数えきれないほどある。

それでもこのゲームを、未だにWii Uを起動して遊ぶ理由…
それは、惑星ミラでの生活が大好きだからだ。

この惑星の大地を自分専用のロボットで駆け回り、ここでしか出会えない原生生物たちに会い、美しい風景を背に強大な敵と戦う。
もしどれかの要素が欠けていたら、ここまで繰り返し遊ぶことはなかったと思う。全てが絡み合った、このゲーム独特の雰囲気が忘れられないのだ。

僕がゼノブレイドクロスから学んだ事、それは
「不満点の数が多くても、“凄み”があれば問題ない」

という事である。

もちろん欠点は少ない方が良いに決まっているが、逆に「ロードが短い」「バグが少ない」だけでは魅力として弱い。もっと力強く、制作陣の「お前らこういうのが好きなんだろ?俺たちもだ!」という圧倒的な熱量によって生み出される拘りが大事になって来ると思う。それらが上手く掛け合わされば、圧倒的な凄みでプレイヤーを掴んで離さなくなるだろう。

そんな事を意識しながら今日もパソコンの画面を睨みノベルゲームを作っている。
自分の好きなものを詰め込んだ総和の暴力のようなゲームを、いつか世に生み出したいものだ。

余談


今作はモノリスソフトにとって初めてのHDタイトルで、まず研究開発から始めた。
完全に手探り状態からのスタートだったので、紆余曲折あり微妙な点が生まれてしまったのだろう。
しかし、その熱量と血と涙の結晶はひしひしと感じられる。

ちなみに任天堂の岩田社長は

「スタッフみんなが最後まで走りきることができたのは、何がポイントだったんですか?」

という質問を開発陣に投げかけた。
それに対しディレクターの小島氏は

「そこはもう、スタッフそれぞれの気力だけです。」

こわっ…

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