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お客さんもホスト《雪❅冬矢》君もお互い偏見な目で見ていたのかもしれないね---〈カフェ17 冬矢3とのちの闇夢〉

カランカラーン。

「いらっしゃいませ」

初めて見るサラリーマンらしい男性のお客さんが入って来た。40代後半ぐらいだろうか。男性は、やはりキョロキョロしながら入って来た。確かに、コーヒーしか無いしどんな店か気にはなるのだろう。

「いいですか?」

「どうぞどうぞ。お好きな席に座って下さい」

ありふれた挨拶が交わされる。

男性は、それほど分厚くもない黒いジャンパーを着ていたので、そのままカウンターの左側の端の椅子に座った。

「いらっしゃいませ」

私はやはり、ありきたりなおもてなしで、おしぼりと水の入ったグラス、そして淡い緑色のコースターを置いた。

「本当にコーヒーだけなんですか?」

男性は不思議そうに聞いた。

「はい。もう少しお待ち下さい」

そして、男性は、時々店を見渡しながらコーヒーを待っていた。

カランカラーン。

すると、コーヒーが出来る前に店のドアが開いた。

「ちわーっ - - -あっ。」

もう、日も落ちていた。

ドアを開けて入って来た冬矢君が、カウンターに座っていたお客さんを見て一瞬止まった。

たぶん、誰も居ないと思って入って来たのだろう。私もドアの方を見て、あっ。とは思った。

「いらっしゃい、冬矢君。どうぞどうぞ」

私がそう言っても冬矢君はちょっと躊躇していた。私は、とりあえず、おしぼりをカウンターの真ん中と右側の椅子の間に置いた。

「さぁさぁ」

つい先日、冬矢君が気にしていたばかりだったから。---俺みたいな派手なヤツが来て居たら他のお客さんが居づらいんじゃないかって。でも、だからといって今冬矢君が入らず帰っても、ある意味同じになる。それは冬矢君自身もわかっているのだろう。

冬矢君は、それでも申し訳なさそうに入って来て、真ん中じゃなく右側のカウンターの椅子に座った。

相変わらずの真っ白い姿に、居たお客さんもちょっと恐る恐るチラッと見た。私は真っ白いコートと帽子を預かってハンガーに掛けた。

「いらっしゃい、冬矢君」

そして私は、冬矢君に水の入ったグラスと淡い黄色いコースターを置いた。それから、お客さんに、やはり淡い緑色のカップに入れたコーヒーを置いた。

「どうぞ。ゆっくりして行って下さい」

私が言うと、何か話したそうだけど静かにコーヒーを一口飲んだ。冬矢君も何か静かだ。

私は、思い出した。

「冬矢君。そうそう。真っ白いコーヒーカップ用意したわよ」

私がそう言うとやっと冬矢君が私を見た。

私は、カウンターの下から冬矢君専用の約束して用意していた真っ白いコーヒーカップを取り出して冬矢君に見せた。

「どう?。いいでしょ」

それは、上にちょっと広がりがあってイタリア的な真っ白いコーヒーカップ。冬矢君はジーっと見て言った。

「へぇ。ママ格好いいね。俺、気に入ったよ」

「そう。良かった。ねぇねぇ、カップに名前書いて」

そして、私はゴールド色の油性ペンを渡した。

一瞬、冬矢君は驚いて私の顔を見るとにこっと笑ってゴールドのペンを受け取った。

そんなやり取りを左側に座って居たお客さんが見ていた。

冬矢君は、ちょっと嬉しそうに真っ白いコーヒーカップに名前を書き出した。

やや大きめの〈雪❅冬矢〉という名前の字は、ゴールドの色もあってかなり目立つ。私も書く様子を見ていた。

書き終わった冬矢君は、満足そうに自分で書いた字を見ている。

「いいんじゃない」

私は、つい言ってしまった。

「なかなかだよね、ママ。我ながら素晴らしい」

特に、サイン的では無く、きちんと書いたって感じだけど太めの字がなかなか格好いい。

「コーヒー、ここに入れてよ、ママ」

冬矢君がそう言って私にコーヒーカップを渡すと、左側に座っていたお客さんが聞いた。

「それ、何て読むのかな」

お客さんは、さり気なく私の方を見て聞いてきたが冬矢君はすぐお客さんを見て言った。

「あ。俺の名前です。〈雪❅冬矢〉こう書いて〈ゆきとうや〉って言います」

冬矢君はニッコリ笑った。

「へぇ。名前なんだ。〈雪❅冬矢〉って綺麗な名前だね。凄いね」

お客さんは、冬矢君の姿を見て何となく納得したようだけど不思議そうな顔をした。

「〈雪冬矢〉君です。ホストやってるんですよ」

私が言うか言わないうちに冬矢君が話し始めた。

「俺、ホストやってます。ホストの名前が〈雪冬矢〉なんですよ。始めは〈冬矢〉だったんですが - - -  」

冬矢君は、やや簡潔に名前の由来を話し始めた。

「 - - - で、真っ白い雪が好きな俺に〈雪〉を付けて〈雪❅冬矢〉って付けてくれたのがママだったんですよ」

冬矢君はそう言って、お客さんに微笑んだ。

「へぇ。君は常連さん?」

お客さんは、そう聞いた。

「いえいえ、まだ3回かな?。常連と言うか、ママさんには良くして貰ってます」

私は、冬矢君のコーヒーの準備して真っ白い冬矢君のコーヒーカップにコーヒーを入れ、淡い黄色いコースターの上に置いた。

「はい。お待たせしました」

淡い黄色いコースターに真っ白いコーヒーカップがなかなか素敵だった。

「冬矢君は、常連さんと言うより仲間、同志なんですよ。私もカフェ初心者で冬矢君もホスト初心者で同じ頃から始めたんですよ」

「へぇ。仲間、同志ですか。いいですね」

そう言うと、お客さんは冬矢君を見ながら言った。

「羨ましいですね。私はホストなんてあまり縁が無いから申し訳ないけど、あまりいいイメージが無かったんだ。だけど君は優しい人なんだね。ママさんとの会話でわかるよ。なかなか格好いいしね」

そう言うお客さんに冬矢君は嬉しそうに笑った。

「エッ!。そうですか。ありがとうございます」

冬矢君は、そう言った。

冬矢君が、かなり照れていたのは私にはわかった。

「ごめん。ママ、もう行くよ」

「うふふ。はいはい」

私は、ハンガーからコートと帽子を外して冬矢君に渡した。冬矢君は、1000円札をカウンターに置いてドアに向かった。

「冬矢君。お釣りお釣り」

私が言うと

「いいよ、ママ。コーヒーカップ代。少ないけど」

「いいわよ、そんな」

私が言うのも聞かず行ってしまった。

その時、冬矢君がお客さんに頭を下げたのが見えた。

「もう、冬矢君たら」

私が小さな声で言うと

「冬矢君って言ったよね。なかなかいい子だね。帰り際に彼は私にもう一度〈ありがとうございます〉って言ったんですよ。私は何もしてはいないんですが」

お客さんは、ちょっと嬉しそうに笑った。

「彼は彼なりに派手な姿やイメージを気にしていたんです。ここに来てもいいのかと。だから私は言ったんです。人の出逢いも感じ方も縁だから気にしないで居たい場所に居るのがいいし、私も居て欲しいと」

「そうでしたか。私は恥ずかしいですね。正直、彼が入って来た時は確かにちょっと偏見な目で見ていました」

「いえいえ、誰でもありますよ。私だって無いとは言えませんから」

「そうですか?。ママさんもですか?」

「当たり前ですよ。私自身、勉強です。うふふ」

私は、何だか嬉しかった。

「今度逢ったら、もう少し話してみたいですね」

お客さんはそう言った。

「はい。是非。彼も喜びますよ」

冬矢君は何か話しがあって来たのかもしれない。だけど、帰り際にお客さんに〈ありがとうございます〉って言うなんて。冬矢君は本当に嬉しかったのかもしれない。お客さんも冬矢君に何もしてないのにって言ったけど、話しが出来た事が嬉しかったのだろう。

私も嬉しかった。

「このコーヒーカップ、綺麗ですね。コーヒーも美味しいし。ここは素敵な場所ですね。また来てもいいですか?」

「何をおっしゃいますか。ありがとうございます。いつでもいらして下さい」

ちょっと気難しそうな人かとも思ったけれど、いい人。私だって、やはり人を外見や雰囲気で見てしまう事はある。

お客さんも、それからちょっといて嬉しそうに帰って行った。

たぶん、お客さんも冬矢君も始めは気まずかったのだろう。お互いがお互いをちょっと偏見な目で見ていたから。だけど、何かのちょっとしたキッカケで話しが出来た。

正直、私もどうなるかちょっと心配だったけど、本当に面白い。

人の縁なんて、そんなものなのかもしれないし、これでお客さんと冬矢君がまた逢うのか逢わないのかもわからないけれど、でも意味のない縁は無いのかもしれない。

--- また、あのお客さんと冬矢君が逢えたら面白いかな。うふふ。

私は、片付けながら自然に笑みが溢れた。


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#小説 #カフェ #偏見

#ホスト #縁






🌈☕いらっしゃいませ☕🌈コーヒーだけですが、ゆっくりして行って下さいね☘️☕🌈