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カランカラーン。80歳♡圭子さんの娘さんがふらっと来てくれた。ゆっくり話せなかった。余計な事や心配って---〈カフェ47圭4♡娘〉

カランカラーン。

暑い夏だった。

というより雨が多かった。

また暑い日は残るけれど、秋の気配は確かに感じる。

お店を開店して月日が過ぎたけれど、不思議と男性客が多かったのが印象的だ。

どちらかと言うと、女性客の方が多いのかと思っていたから。

やはり一人で来るお客さんが多く、やはり男性が多かった。

イメージ的には、カフェと言ったら女性という思いは砕かれた。

店のドアが開いて入って来たのは、50歳前後の女性だった。やはり、窓のあるテーブル席に向かう。

「いらっしゃいませ」

そう言うと女性は、ペコリと頭を下げた。

---ん?。

その女性はゆっくり席に座ると、私を見てまたペコリと頭を下げた。

---ん?。

私は、おしぼりと水の入ったグラスを持って行った。すると、

「いつも、母がお世話になっています」

女性はそう言った。

--- 母?。あっ。もしかして。

「あの、違ったらごめんなさい。もしかしたら、圭子さんの?」

私がそう言うと

「はい。母から良く聞かされてました。一度来たいなって」

--- えっ。あれっ、えっ。

何だか嬉しいような、だけどちょっと嫌な予感がした。手術もしたと言っていたし。

「あの」

ちょっと不安そうに聞くと、

「あっ。あ、いえ。母に何かあったとかじゃないんです。ちょっと内緒で来てみたかったんです。ビックリさせてしまって、すみません」

--- あぁ。

確かに、ビックリした。

「あ、ちょっとビックリしました。良かった。でも、本当にありがとうございます、いらっしゃいませ」

私は、ニッコリ笑った。

「母から聞いてます。コーヒーしか無いとか、カップが綺麗だとか、石が綺麗だとか」

すると、女性は店内をぐるぐる見渡して、飾ってあるパワーストーンを見てまた言った。

「あれですね。本当、綺麗な石ですね。母が戴いた薄いピンクのローズクォーツとかいう石が気に入って、毎日見ていると言っていました」

嬉しそうに話す。

「そうですか。私も嬉しいです。コーヒー入れて来ますね。ご希望のカップの色はありますか?」

そう聞くと

「お任せします。ちょっと店内見てもいいですか?」

「わかりました。はい、ゆっくりどうぞ」

私はそう言ってカウンターに入った。

そして、私は淡い藍色のコーヒーカップに入れて持って行った。この色は圭子さんが初めて来てくれた時の色だったから。

圭子さんの娘さんは、ゆっくり店内を歩いて見て席に座っていた。

「お待ちどうさまです」

「ありがとうございます。母が美味しいって言ってました。お店も素敵だって。本当にカップも素敵ですね。藍色は母が好きなんですよ。さすがですね。母は本当に嬉しそうに言うんですよ。私はなかなか母の所に来れないから、心配していましたが、素敵なママさんで本当に嬉しいです。母の事、宜しくお願いします」

そう言った。

すると、コーヒーを口にして

「本当に美味しい」

そう言って、娘さんはまた微笑んだ。

「私の方こそ、お母さんには感謝しています。私もお母さんが来てくれるとホッとするんですよ。何だか、温かい方ですよね」

私もそう言って、微笑んだ。

「母は、ママさんと話すのが本当に嬉しいみたいなんです。それがわかりました。また、母が来たら宜しくお願いします。あの、私が来た事は内緒にして下さい」

娘さんは、そう言ってまた笑った。

そんな話をしていたら

カランカラーン。

お客さんが入って来た。

「すいません」

私は、そう言って、カウンターに戻った。

それから、圭子さんの娘さんは、ゆっくりコーヒーを飲んで席を立った。

何か、あっという間の出来事だった。

本当は、ゆっくり話したかった。でも、他のお客さんが入って来る。

今日は本当に何だかタイミングが悪い。

「ご馳走様でした。ママさん。あの、私もまた来ますね。母の事、宜しくお願いします」

そう言って、支払いをして圭子さんの娘さんは店を出て行った。

「ありがとうございます。もちろん。また、来て下さいね」

圭子さんの娘さんの笑顔が嬉しかったけれど、私は、何か大事な事が話せなかった事とかで、何だか淋しささえ感じた。

そんな時もある。

なかなか思い通りには行かない事もある。

話したい時に話せない。

それも《縁》とか《タイミング》なのだろうか。

〈また、来ますね〉と言ってくれた。

どういう事なのだろうか。

また来てくれるのは嬉しい。

でも、圭子さん、お母さんと来てくれるのだろうか。

それとも一人で来てくれるのだろうか。

〈母には内緒にして下さい〉と言ったのも、どういう意味なのだろうか。

私も、時々余計な事まで考えてしまう。

そう。

余計な事なのだ。

余計な心配なのだ。

自分の事も人の事も、いろいろ考えて悩んでしまう時がある。だけど、たぶん余計な事なのかもしれない。

楽しく、嬉しい想像や考えならいいけれど。

わかっていても、私はよく余計な事や心配をしてしまう。

素直に信じよう。

《また、来てくれる》と。

圭子さんも娘さんも。

今度は、ゆっくり話せたらいいなと。


「美味しいですね、このコーヒー」

初めて来てくれた男性のお客さんが言った。

「あ、ありがとうございます」

その男性の顔を見て、私は

--- また、来てくれるのかなぁ。

なんて思った。

うふふ。

あまり、お客さんが増えても、また余計な事や心配が増えちゃうわ。

私は、そんな贅沢な悩みに、クスッと笑ってしまった。

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#小説 #カフェ #圭子さん #娘

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🌈☕いらっしゃいませ☕🌈コーヒーだけですが、ゆっくりして行って下さいね☘️☕🌈