夢
夢とはどのような存在なのか。
ただ夢見るだけで十分なものもあるし、本気で叶えたいものもあるだろう。
夢をもって、我武者羅に突っ走れる時もあるし、
夢を抱いて、苦しい時もあるだろう。
夢をもっていないほうが楽しいこともあるし、
夢をもっていないと抜け殻のようになってしまうこともあるだろう。
自分にとっての夢はどんな存在なのだろうか。
私は、「バレエを世界各国で踊りたい」という夢がある。
ただ、私の夢は文面だけのただの夢ではない。
小学生の頃から「夢」という言葉が大好きだった。
夢は、まるで少しも濁りのないキラキラした舞台。
私もその舞台にいつか立てるかもしれないという1ミリも疑わない望み。
小さい無垢な少女は、そんな美しい夢に向かって一直線に進んでいった。
しかし、真っ白なキャンバスに黒いインクが垂れると、みるみるうちに滲んで広がっていき、そしていつしかキャンバスは暗闇で覆いつくされるようにいつの間にか制服を着ていた女の子は、実力、才能、センス、貧富の差を知り、「夢」という言葉が大嫌いになった。
それでも、どこかでまだ小さな小さな白い蕾が残っていた。
「夢」をやさしく包みこんだ小さな蕾。
けれど、その蕾の欠片でさえも踏み潰そうとしていた。
何度もなんどもなんども。毎日のように頭の中でシミュレーションをした。
白い蕾の根である自分自身が、跡形もなく溶ければ蕾も消えてなくなるだろうと夢想した。
結局、身体はどうしても動かなかった。
半袖の制服姿もあと一巡りになった頃、蕾を燃やす決心をした。
でも、蕾の存在は記憶からは消えない。
だから綺麗な記憶にしようと、憧れだったフランス・パリで地元のバレエ教室のレッスンを一回受けることにした。
燃やすはずだった蕾がひらく瞬間だった。
才能もセンスもない私でも、バレリーナのように世界で踊れる道がある。
世界に散らばり、澄んだ目でバレエを見つめている人々と踊れる道がある。
一つの夢へ繋がる沢山の道が拓いた瞬間だった。
だから、私は「バレエを世界各国で踊りたい」という夢がある。
生きる蕾である夢がある。
眠っている数々の色鮮やかな蕾に一滴の水を吹きかけたいという夢がある。