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【物語】しずんだ夕陽と水たまり

夕方になる前に通り雨が降った。
ボクと弟が、いつもウチの近くを散歩する時間。
ふたりで、ウチの窓にはりついて空を見ていた。

「雨がやんだら、行こうね」
ボクは、5つ下の弟にそう言った。
「あめ、やむ?」
弟は、心配そうにボクを見上げる。
「やむよ。ほら、あっちが明るくなってきた」

勢いよく庭先のトタンを打っていた雨が、しだいに弱くなってきた。

ボクは弟に長靴をはかせ、手をつないで外に出た。ウチの前の細い道から、空を見上げる。雲がきれた西の空には、大きな夕陽が浮かんでいた。夕陽が空にとけた真っ赤な夕焼け。弟とふたりで、口を開けたまま空を見た。

夕陽が遠くの山のむこうに、ゆっくりとしずんだ。空が淡い紫になると、弟は急いで近くの水たまりをのぞき込んだ。

「どうしたの?」
「たいようが、したにいったから」
弟は水たまりをのぞきながら、しずんだ太陽が出てくるのを待っていた。

「こないね」
「もう少し時間がかかるのかもしれないね」
ふたりでしばらく水たまりをのぞいていた。

日が暮れて、空が紺色になってきた。どこかのウチの玄関に明かりが灯った。少し先の古い街灯は、夜を知らせるように点滅している。

「そろそろウチに入ろうか」
ボクは、弟の右手を握った。
「あ! きた!」
弟が、しゃがみこんだ。驚いてのぞき込むと、そこには小さな丸い光が揺れていた。

「はんたいのたいよう、みれたね」
嬉しそうにボクを見上げる弟。
「そうだね」

ふたりで手をつないで、ウチに入った。
空には、丸い月がのぼっていた。

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