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SLRテストと腰痛評価 経絡との関係

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記事開いていただきありがとうございます。ゆーのすけです。

今回は、理学検査、とくにSLR(下肢伸展挙上テスト)の話書いていきます。

経絡治療をおこなっている方でも、理学検査をやらないタイプの鍼灸師とやるタイプの鍼灸師がいると思いますが、僕はやるタイプ(いわゆる折衷派)です。

脈診だけでもある程度治療できるにしろ、西洋医学的な鑑別を最低限するため、患者さんと共通認識を作るため、そして、脈診より経験が浅い初学者でも実践しやすく教えやすいなど、メリットがたくさんあるので、必要に応じてなるだけするようにしています。

さらに、最近ある鍼灸治療の本を読んでいたら、そこに寄稿していた信頼している先生も、SLR(の変法)を臨床に活用していることを知りました。

この方法は鍼灸師なら知っておくといいと思いここに紹介しておきたいと思いました。

というわけで今回の記事では、SLR(の変法)の鍼灸臨床における活用と、経絡との関係性をご紹介します。

SLRの基本事項

HMATライターのくっしーさんこと櫛引先生が、以前このような記事を書いていました。

SLRテストから体幹/下肢機能を評価するという内容をとてもわかりやすく説明してくれていますのでまずは読みましょう。

SLR(下肢伸展挙上テスト)で下肢への放散痛が30~70度で出て、上げられない場合は椎間板ヘルニアを想定できる。というのがまず学校で習うことでしょう。

また、SLRは放散痛がなくとも、腰部ないしハムストリングの痛み・伸展痛硬さを指標にすることによって、検査や治療経過判定に非常に有用です。

詳しくは後述しますが、経絡でいえば膀胱経の異常のチェックにもなります。(張ってる部位によりますが)

僕もSLRの硬さは、できる限りどの人にも毎回チェックするようにしています。

本治法のあとの効果判定にも応用できますし、標治として例えば腰痛の方の鍼の効果判定にも使えます。


先輩臨床家のSLR活用例

医道の日本社から2000年に出版された本
「疾患別治療大百科シリーズ 1 腰痛」
をご存知でしょうか。

古い本ですが、西洋医学的鍼灸、経絡治療、中医、長野式、北辰会などなど鍼灸だけでも13種(手技も10種)にも及ぶ多様な流派の先生方が腰痛治療についてまとめてくれている良書になっています。

ハリトヒト。滝沢さんの父上、滝沢照明先生が、「section 1 西洋医学的診断に基づく腰痛治療」を執筆されてたりします。

この中に
第3部 腰痛に効くこの一穴
「同挙テスト陽性の場合、大腰筋刺鍼が激的に効く!」

という寄稿文を書いている小川卓良先生の文章がありました。

小川卓良先生とは、経絡治療の大家の1人、小川晴通先生(杏林堂)の御子息で、僕の父の兄弟弟子にあたります。

小川卓良先生も僕もベースは経絡治療でありながら、積極的に科学的な視点を取り入れているスタンスは、師匠の小川晴通先生から引き継がれています。

さてその本の一部を抜き出します。

□ 両下肢伸展同時挙上テスト

本題に入るが、筆者が同挙テストといっているテストも治療穴を指示してくれる非常に有用なテストである。これは両下肢伸展同時挙上テストダブルSLRともいわれているテストである。これは下肢を伸展状態で同時に挙上させるか、術者が両足首付近を持って少し挙上し、手を離しても落ちないようにできるかどうかを判断するテストである。

全くできない場合を「××」、できるが腰部に痛みのある場合を「×」と判定している。
「××」の場合は悪い足を挙上する(自動SLR)ことができないか、かなり苦痛である場合がほとんどで、
「×」の場合も健側と比べると患側の方が挙上がしにくいか重い感じがする。異常がはっきりしない場合は、この自動SLRを行うとはっきりする場合が多い。
(中略)
関わるのは主に腸腰筋(主に大腰筋)なので腹筋力にはあまり関係ない。
(中略)
ということは、このテストは大腰筋の障害を見ているテストということになる。

「疾患別治療大百科シリーズ 1 腰痛」p140

両下肢伸展同時挙上テスト(同挙テスト)は、SLRの応用で、術者が両足首付近を持って挙上し、手を離しても落ちないようにできるかどうかをテストする方法です。

他者の力によって挙上するSLRを「他動SLR」「passive SLR」といい、
自分の力のみで挙上するSLRを「自動SLR」「active SLR」というそうですが、この間の子になる方法と言えそうです。

このSLR同挙テストでは、

下肢挙上維持を全くできない「××」
下肢挙上維持できるが痛みでる「×」

と判定します。

さらに患側だけで自動でSLRしてもらうと、より判定がはっきりでると言うことです。

一番のポイントは、このテストは大腰筋の障害を見ているテストということを明確化していることです。

このあとの文章で、大腰筋刺鍼の方法や症例も書かれています。(筋肉への直接アプローチ法なので紹介は割愛)

治療アプローチは他の選択肢もあるとは思いますが、腰痛時の検査法として、このSLRの同挙テストを活用するのは僕の経験からも有用だと思っています。

経絡治療の四診+αとしてもそうですし、経絡治療してない人にとってもつかえるでしょう。

くっしーさんの記事との比較

前掲のくっしーさんの記事だと、下肢挙上中・下降中における下肢の重さを確認し、代償運動の有無を確認すると書かれていましたが、通じるところあります。

くっしーさんの場合は腰痛でなく、脳卒中の方を前提に書かれているので、より体幹機能を評価する視点が強調されています。

また等尺性収縮は、在宅患者さんには負荷の度合い高めかと思いますので、そのあたりも優しめに考慮されていると思います。

小川先生の紹介していた大腰筋刺鍼だけでなく、体幹を評価し、体幹機能改善へのアプローチもできるとよりいい治療になると思います。

(後述しますが、大腰筋と横隔膜は筋膜ラインとして連結してます)

SLRと経絡の関係性

SLRの動きしたときに伸ばされるのは、下肢の後面です。

下肢後面の経絡といえば、足の太陽膀胱経になります。

よって、例えば膀胱経の経穴である「委中」や「飛揚」を押したり、鍼をすれば、SLRの挙上角度は増えることでしょう。

さらに言うと、先日発売された木戸先生の著書、新版VAMFIT(経絡系統治療システム)に「素経脈」の項が追加され、特に足の太陽膀胱経の解像度が上がりました。

膀胱経でも1行線(委中のライン)、2行線(委陽、飛揚、崑崙を結ぶライン)があるのはなんとなく理解されているとは思いますが、

さらに下肢後面は、飛陽脈、解脈、会陰脈(直腸脈)、衡絡脈、肉里脈などと精査できることがわかって来ました。

臨床的には、数ミリズレたら効果は変わりますので、委中と委陽のラインだけでないことを踏まえながらツボ位置の微調整をすると、効果は最大化できます。

このあたりは今後記事にできたらいいなと思っています。

SLRとM-Testと経筋体操

SLR両挙テストでは、術者が両足首付近を持って挙上し、手を離しても落ちないようにできるか、等尺性収縮ができるかをみます。

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