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防御性収縮の落とし方

今回は、リハビリテーションの臨床において、運動器疾患の患者さんの防御性収縮の落とし方についての話です。

投稿した記事が20を超えてそろそろ一人くらいフォロワーがついてくれてもいいのにと思い始めた今日このごろ、まだ投稿記事4つくらいで僕より後にnoteを始めた同じ理学療法士の方が10人くらいフォロワーいるのを発見して、自分のダメダメさを改めて知りました。(それでもメゲマセン)(だれかどこが悪いのか教えてください。。)

防御性収縮の抑制は運動器疾患のリハにおける最初の課題

運動器損傷後のリハビリテーションにおいて、まず最初に厄介になるのが防御性収縮です。損傷部の痛みによって、その周辺の筋が過度に収縮し関節の動きを制限してしまいます。この状態が長期間続くと、安静時でも異常な筋緊張亢進状態が続く筋スパズムとなります。そうなると、今度は、損傷部の炎症が収まって痛みが消失しても、異常な筋緊張亢進状態は残ったままとなって、滑らかな運動を阻害し続けます。

また、防御性収縮の弊害は他にもあります。運動器疾患のリハにおいて、損傷部周辺の組織の柔軟性を確保することは重要ですが、防御性収縮がそれを邪魔します。例えば、大腿骨頚部骨折(人工骨頭置換術)後のリハにおいて、股関節の可動域拡大を考えたとき、本来は関節周囲の軟部組織にアプローチすべく関節運動をしますが、関節組織の柔軟性の低下による最終可動域にたどり着く前に、この防御性収縮が関節の動きを止めていまいます。そうすると、いつまでたっても本来の最終可動域まで関節を動かすことが出来ず、そのような最終可動域まで関節を動かさない生活が続くことで、関節周囲の組織の柔軟性が失われ、二次的に可動域制限を作ってしまいます。

ですので、運動器疾患のリハにおいて、この防御性収縮を抑制することが最初の課題になると思います。

防御性収縮は「注意」を使って抑制する

この防御性収縮は、運動器を損傷したり、それによって手術を受けたりしたことによる「痛み」そのものによって起こるものではありません。痛みがある状況で、その部位を動かす(または、動かされる)経験によって起こります。術後早期から、痛みを我慢しながらガンガン筋トレや可動域拡大練習をした患者さんは防御性収縮がとても強く、回復期病院に転院してきた時点でもうガチガチです。当然、痛みを取り除いてから運動することが一番大切ですが、術後早期では痛みを完全に取り除くことは出来ません。しかし、そんな患者さんでも痛みがあるからといって運動しないわけにはいかないのです。

このように、痛みがあり防御性収縮が強い患者さんに対して運動を引き出そうとするとき、僕は、患者さんの「注意」を使ってこの防御性収縮を抑制します。

防御性収縮とはその名の通り、痛みを引き起こさないための反応であり、それには、動かすと痛い→動かさないように固める、といった「動き」と「痛み」が患者さんの脳内で強烈に繋がってしまっていることが前提にあります。これには、動きだす前から痛みを予測して、痛みにばかり注意が向いてしまっているということが関係しています。それに対して、運動するときの患者さんの注意の向きを「痛み」から「動き」に変えることで、防御性収縮を抑制できる場合があります。

具体的に説明していきます。

例えば、TKA術後の患者さん。術部の炎症がまだ治まっておらず、膝を動かすと痛いので膝周囲に防御性収縮がみられる場合が多いです。この患者さんの膝屈曲のROMを拡大していこうとするとき、単純に他動的にROMエクササイズをするのでなく、少しずつ屈曲の運動をしながら患者さんに、「今膝が何度くらいまで曲がっているか分かりますか?」と問います。もしくは「反対の膝と同じくらいまで曲がったと思ったらそこで、はい、と言って教えて下さい。」と指示します。(このとき、目で見て答えてはダメです。)(もちろん、この時は超ゆっくり安定させながら動かして、出来るだけ痛みがないようにしています)

このように、他動的に運動されている最中に膝の角度について質問されると、患者さんはそれに答えるために自身の膝の動きに注意を向けます。
関節の位置を知るためには、その関節周囲の筋からの感覚がとても大きな役割を担っています。つまり、防御性収縮のように、不必要に過剰な収縮を起こしている関節からは適切な情報が送られてこず正確な関節の位置が掴めないのです。そんななかで、患者さんが自身の膝の動きに注意を向けて膝の角度を知ろうとすると、そのためには、関節周囲の過剰な収縮をリラックスさせ、筋を適切な収縮の状態にすることが求められます。

これは、ROMエクササイズのような他動運動のときだけでなく、筋力トレーニングのような自動運動のときも同様です。

さきほどのTKAの患者さんにパテラセッティングを使って大腿四頭筋の筋力トレーニングをしようとするとき、ハムストリングスの防御性収縮が強く膝進展位がなかなか引き出せないことがよくあります。このとき、患者さんには単純に膝を力いっぱい伸ばすことばかりを求めるのはなく、例えば、膝裏で柔らかなボールを踏んで貰って、そのボールを出来るだけゆっくり踏んでゆっくり戻し滑らかに動くように指示します。もしくは、膝裏で硬さの違うスポンジを何種類か踏んでもらってそれぞれのスポンジの硬さを膝裏で感じ分けてもらいながら踏んでもらいます。このように、とにかく筋の出力だけ求めるのはなく、自身で膝の動きを調整しないといけないような運動を求めるのです。筋出力の量だけなく質を求めるような課題にします。こうすることで、患者さんは、自身の膝の動きに注意を向け、膝の出力を適切にコントロールしようとします。そのためには、さきほどと同様、膝周囲の過剰な収縮をリラックスるさせ、筋を適切な収縮の状態にする必要があります。

これらのように、運動の最中に、患者さんに自身の運動の状態(関節の位置など)について質問したり、出力の量を適切に調整しなければいけないような課題をすることで、自身の筋感覚に注意を向けてもらい、関節周囲の筋をリラックスさせないといけない状況に追い込んでいくことで、防御性収縮を抑制していくのです。

どんな質問の仕方をするのか、どんな課題にするのかは、その患者さんがもっとも自身の筋感覚に注意を向けやすいものを選択しなければいけなくて、そこが患者さんの個別的な特徴を掴んで、それに応じたものを提供するという、臨床家としての腕の見せ所だと思います。

まとめると、防御性収縮の強い患者さんは、自身の運動に注意を向け過剰な収縮を抑制しないと達成できないような課題を提供することで、防御性収縮を抑制していく、という話でした。

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