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患者さんは嘘をつく

今回は、リハビリテーションの現場では、患者さんは僕たち療法士に嘘をつく、というテーマでお伝えします。前回は片麻痺とか運動学習とか、割りとテクニカルな方に寄ったのに、すぐにまた、マインド的な話に戻ってきました。

リハビリテーションはそのときの患者さんの心身の状態に合わせて、進む速度を調節したり、進む道を選択します。ですので、患者さんの心身の状態を把握することが、担当療法士にとって何より大切です。そして、患者さんの心身の状態を把握するには、患者さん本人にそのことを聞くのが一番手っ取り早いはずです。しかし、患者さんは、どういうわけか、時に僕たち療法士に嘘をつき、そのせいで、僕らが適切な道を選択することに失敗するのです。

リハビリテーションでは、療法士と患者とが互いに近づいて同じ方向を歩くことで、時間を掛けて成果を出します。しかし、このリハビリテーションの性質が時に患者さんに嘘をつかせます。

患者さんが、僕ら療法士に嘘をつく場面は主に以下の3つです。

1つ目は、患者さんが療法士にリハの効果を聞かれたときに、療法士を気遣って嘘をつく場面です。

僕たち療法士は、医療従事者の中でも患者さんと同じ時間を最も長く過ごす職種です。1日1時間、毎日患者さんとリハをしていれば、そんな中で、患者さんの心に、担当療法士の期待に応えたいという思いが育ちます。そんな患者さんに対し、汗だくになってマッサージをしたあと、目をキラキラさせながら「痛みはさっきと比べてどうですか?」と聞いたら、患者さんはそりゃもう「大分楽になったわー」と答えるに決まってるんです。(平気で「全然変わらん」と言えるメンタル強め系おじさんもいます)

特に、大体の場合は、患者さんからしたら、僕ら療法士は、子供か孫みたいな年齢で、そんな人生のひよっこが自分のために一生懸命になってくれてるわけですから、余計にそうなります。

だから、この場面での患者さんの言葉を真に受けてはダメです。僕はほぼ信じてないです。(冷たい男です)

では、リハの効果はどうして確認するのか。答えは、こっちからは聞かない、です。本当に患者さんが自覚出来るレベルで、リハの効果があったときは、患者さん自らその効果を口にしてくれるはずです。

歩くと足が痛い患者さんに対し、30分ベッド上でアプローチしたら、もう1度歩いてもらいます。その時、「痛みどうですか?」と聞きたい気持ちをぐっと堪えて、ただただ患者さんの横を一緒に歩きながら患者さんの言葉を待つのです。そこで、患者さん自ら「さっきと全然違う」と言われたときの気持ち良さは、あの時のそれを遥かにしのぎます。(どのときのどれ)

そんなこと言っても、ただ無口な恥ずかしがり屋さんだから何も言ってくれないだけで、本当は効果があるのかもしれないと思うときがあります。そんなときは、聞き方を、出来るだけ嘘をつかせない聞き方にします。「痛みどうですか?」と聞くんじゃなくて、「やっぱり歩くと痛みますか?」と聞くんです。効果がなかったことを素直に答えやすい質問の形にします。この質問の仕方に対して、「痛みがさっきよりましです。」と返ってきたら、僕はようやく信じます。

これらのようにして、リハの効果を患者さんから確かめるときは、いかにして患者さんに気遣いさせない状況で言葉を吐いてもらうか、を考えます。

2つ目は、患者さんが僕ら療法士に意地悪されることを恐れて、嘘をつく場面です。

リハビリテーションの担当者は、長い時間と長い期間患者さんに介入し続けます。また、多くの場合は、その期間中、担当者は固定されています。そして、そのことを患者さん自身も最初からよく理解しています。すると、患者さんの心の中に、担当療法士に嫌われたらちゃんとリハしてもらえなくなる、とか、担当療法士と仲良くしないと毎日のリハが気まずくなる、といった、担当療法士に対する恐れが芽生えます。

すると、リハのやり方に不満があったり、療法士の態度が気に入らなくても、そのことを表に出さずに我慢して、療法士の前ではニコニコいい子でいてくれるのです。

この状態に気付かないでいると、患者さんと担当療法士の向いてる方向がドンドンと離れていき、どれだけ一生懸命アプローチしても、いい成果が生まれません。

担当療法士は、ニコニコ笑顔の患者さんを前にしても、何かリハに対して不満を抱えているんじゃないかというアンテナを常に張っておく必要があります。また、そんな患者さんは、担当療法士がいない場面で本音を漏らしていることが多いので、病棟スタッフやリハ代行時のその他の療法士から内緒で聞き取り調査をすることもあります。

3つ目は、患者さんが弱い自分を見せられなくて、療法士に嘘をつく場面です。

以前、脳梗塞片麻痺となって入院してきた50代の女性を担当したときのことです。彼女はとても社交的でユーモアのセンスも抜群で、リハ室ではいつも明るく前向きにリハに取り組まれていました。そんな彼女の頑張りのおかげで、彼女の身体機能はみるみる回復していき、僕は自分の毎日の仕事に満足していました。そんなある日、夕方、用事があり彼女の部屋に立ち寄ったとき、カーテン越しの彼女のベッドからすすり泣く声が聞こえてきたのでした。そのときに初めて分かったのですが、彼女は毎日夜になると変わり果てた自分の人生に嘆いて泣いていました。

リハ室に来る患者さんは、みんな明るく元気です。そりゃ元気になるための場所ですから。でも、僕たち療法士は、そんな患者さんの笑顔の裏に、今までの生活を失った悲しみと今後の将来に対する不安が潜んでいることを想像していないとダメです。

どれだけ頼れる存在であろうと、赤の他人に、自分の絶望を真っすぐ伝えられる人はいないです。

そんな患者さんの裏の部分に寄り添えたときに、信頼関係が生まれ、僕たち療法士は真の力を発揮します。


今回は、長くなってしまいました。。
1500文字を目安にしてるんですが、知らん間に2500文字いってる。。
(逆に天才なのか)

今回の話をまとめると、患者さんは、療法士を気遣ったり、恐れたり、弱さを隠したりすることで、療法士に嘘をつく、いうことでした。

男の子の寝てる絵

もうこんな状態です
(こんなに美少年です)

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