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立ち上がり練習は前から引っ張らず、後ろから押す

今回は、リハビリテーションの臨床における、立ち上がり練習での補助の仕方についてお話します。

最近は、大体一つの記事を1時間半くらいで書けるようになってきました。(決して手を抜いてきている訳じゃないです、毎回本気です。)

下肢に運動障害を抱えた患者さんのリハビリテーションにおいて、自立歩行を獲得するためには、まず、自立立位を獲得する必要があります。そして、立位をとるためには、立ち上がりが出来ないといけません。しかし、この立ち上がりが癖もので、立ちさえすれば、一人で立位は取れるのに、それまでの立ち上がり動作が上手くいかない患者さんは結構います。

こんな患者さんに対し、理学療法士は集中的に立ち上がり動作練習を実施します。この時、自力では立ち上がりが出来ない患者さんに立ち上がってもらうために、療法士はこの動作を補助します。この補助する位置について、患者さんの前方から患者さんを抱きかかえるようにして補助する方法があります。

僕は、リハで立ち上がり練習をするとき、この「前方から補助」の方法をめったに使いません。

立ち上がり動作において、重要なのは、重心移動です。(どやっ)
座位姿勢において、臀部にある重心の位置を、足部にまで前方移動して初めて、立位姿勢へと変わっていけます。立ち上がりが上手くいかない患者さんの多くは、この前方への重心移動に失敗しています。ですので、立ち上がり練習では、この前方への重心移動をいかにうまく患者さんに習得してもらうかが鍵となります。

「前方から補助」して立ち上がり練習をする場合、療法士が座っている患者さん前に立ち、患者さんの体を抱えて体幹の前傾を促し、前方への重心移動を患者さんの体を引っ張りながら誘導していきます。しかし、この方法では、前方への重心移動を療法士の引っ張る力に依存してしまう傾向が強く、
患者さん自身で重心移動していく動きが出にくいと思っています。

その理由として、患者さんの目線になって考えてみると、立ち上がりの時、療法士に前方に立たれると前が見えないという点があります。立ち上がりが出来ない患者さんの多くは、立つことに不安があり、立つことが怖いです。そんな患者さんに、前方から引っ張り上げるようにして立ちあがり動作を補助するのは、目隠しをされたまま、行先が分からない場所へ連れて行かれるようなもんです。(大袈裟です)

ですので、この補助の仕方で立ち上がり練習をすると、患者さんは、療法士の前方への重心移動の誘導に対して、抵抗しようとします。(だって、目隠しされたまま、前に引っ張られるんですから)そして、患者さんが抵抗するものですから、療法士はより強い力で前方へ重心移動を誘導しなければならなくなります。結果、外から見たとき、この立ち上がりは一見上手に重心移動出来て立ててるように見えても、内面では、ほぼほぼ療法士の力で重心移動されており、療法士に依存した立ち上がり動作になってしまいます。これだと、患者さん自身で前方に重心移動しようとする動きを、引き出しにくく、前方への重心移動の習得に繋がりません。

そこで、僕は、立ち上がり練習をするとき、患者さんの前方に台(テーブル)を設置し、それを両手で支持してもらって、僕は患者さんの後ろからお尻を押し上げる補助をして、立ち上がりをしてもらいます。前から引っ張らずに、後ろから押すのです。この方法だと、患者さんの前方の視界は開けており、さらに、前に台があるので、安心感抜群です。立ち上がり練習をするときは、まず、この、「前方にはこけない」という環境設定が大切で、この安心感が、患者さん自身に、思い切った前方への重心移動を引き出させます。(ちなみに前に設置するのは、台であって平行棒とかではダメです、それについて詳しくは、また違う機会に)

また、この方法での立ち上がり練習のもう一つの良いところは、「失敗できる」ということです。患者さんが、立ち上がりの際に、前方への重心移動が足りずに後方重心のまま立位をとってしまっても、しりもちをつくだけです。(ドスンといかないように少しは助けます)
こうして、何度もしりもちをつきながら、施行錯誤することで、患者さんはどれくらい重心移動すれば上手に立てるのかといった、必要な重心移動距離を習得していきます。療法士の役割は、患者さんがギリギリ立ち上がれるくらいの補助の量で、前方への重心移動や上方への推進を助けてあげることです。

「この立ち上がり練習の仕方だと、上肢に頼ってしまうじゃないか」というご批判があったとします。(誰か批判してください)
それに対してはこうです。

「最初は上肢に頼ったっていいんです。だって、立ち上がり動作習得に一番大切なのは、前方への重心移動と上方への推進のタイミングなんですから」

この二つが習得されれば、あとは、患者さんがリハ場面以外でも上手に立ち上がりするようになり、勝手に下肢に力がつき、気付いたら上肢の支持はいらなくなる、といった算段です。

まとめると、立ち上がり練習でもっとも重要なのは、前方への重心移動を習得することで、それには、前方から引っ張り上げる補助をするより、患者さんの前方の台を上肢で支持してもらって、療法士が後方から補助する方が上手くいく、という話です。

これ大好きです
(アニメもいい感じです)

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