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新装版 にしなんし!~西梛区びより~※4月24日訂正。
キャラクター紹介(ヘッダー画像参照)
三上 里桜(23) Rio Mikami(中心)
西梛区に住む、西梛学園の新米教師。旧姓は逢坂(おうさか)。
唯一の若手で、仕事を手伝うことが多い。得意技は『超速採点』。
猫アレルギー。
パーソナルカラー:桃、誕生月:4月、血液型:A、等身:7、声色:やや高め
御門 えり(30) Eri Mikado(左)
里桜の上司的存在。
不運体質で、事あるごとにどこかしら怪我をしている。最近はパワーストーンが気になっているらしい。
パーソナルカラー:紫、誕生月:6月、血液型:B、等身:7、声色:高め
保村 裕一(25) Yuichi Homura(里桜から向かってひとつ右)
里桜の先輩で、なおかつえりの後輩。
男子生徒の対応を主とする保健室の先生で。いろいろと頼りになる。しかし、実の兄である高梨先生が絡むと……。
パーソナルカラー:緑、誕生月:5月、血液型:O、等身:7、声色:低め
高梨 真一(26) Teacher Takanashi/Shinichi(左)
裕一の実の兄。
学園で猫を飼っているが、それが事件を呼ぶ……!?
パーソナルカラー:黄、誕生月:9月、血液型:AB、等身:7、声色:やや低め
三上 聡也(25) Satoya Mikami(奥)
里桜の夫。街の菓子店、みかみステートの店長。
先輩である裕一とは旧知の仲。
パーソナルカラー:青、誕生月:11月、血液型:A、等身:6.5、声色:中間
※本作はフィクションであり、実在の人物・地名・団体名などとは無関係です。
プロローグ『先輩は自分よりも……』
「三上先生。おはようございます!」
「あら、伊野瀬くん。おはよう」
東日本のどこかにある西梛学園。その職員室のドアをこじ開ければ、香ばしい余韻が漂ってくる。
「えっと……。鍵はここに置いておこうかな」
三上里桜はひとり席についた。人気が微塵も感じられない。それもそのはずだ。
(休日出勤だものねぇ~……)
今日は日曜日なのである。
ある意味で初めての日ゆえに、内心落ち着かない。先輩の手伝いを頼まれたのだからなおさらだ。
「……。ん?」
深呼吸をして、隣に目を向けてみる。そこには空のコーヒーカップが置かれていた。これが匂いの正体らしい。
「御門先生のだ。珍しい……」
それも忙しさゆえ、なのだろう。
里桜が手を伸ばす。自分が代わりに片づけようと。その場で少しだけ、熱い持ち手に触れる。その途端。
――――きゃっ!
かん、と冷たい音がした。ドアの前に誰かがいるのだろう。
里桜は駆けつけ、手を伸ばしてみる。するとワンピース姿の女性がその手を取り、立ち上がった。
「御門先生! 立てますか!?」
「ああ……。ありがと、三上先生……」
本人曰く、猫に引っかかれたとのことだ。
前髪の分け目――ひっかき傷から、血筋が薄く浮かんでいる。痛そうだ。
「助かったわ~。あなたがいてくれ……ててっ!」
「あ…無理なさらないでください!」
「保村先生をお呼びしますから」
何かと見慣れた光景の中、里桜は壁掛けの受話器を取った。
第1時限『元凶の正体とラッキープレイス』
「はっ……、くしゅ!」
自分のデスクに戻ったのはいいものの。
里桜も悩みを誘われた。衣服に猫の毛がついてしまったのである。
「三上先生……。ごめんなさい。あなたまで巻き込んじゃって」
「仕方ないですよ……くしゅっ!」
えりが心配そうに、あるだけのポケットティッシュをくれた。ありがたい。
極力抑えめに、鼻をかみ続ける。その最中。
「三上先生。話は聞きましたよ」
「追加のティッシュをどうぞ」
「ああ……。保村先生、ありがとうございます」
駆け足気味で、白衣姿の男性がやってきた。
手元のボトルからアルコール臭がするが、それは里桜の先輩――――御門えりの治療にあたるためだ。それも今日で2回目だという。
「すみません。うちの学園猫が……」
「いいのよ。しょうがないわ」
「それでもって、三上先生が猫アレルギーだったとはな……」
「重ねてお詫びしよう」
「ああ……。いえ、お気になさらずに」
ずり下がるメガネの奥で、一瞬、目が光った気がした。
里桜はコーヒーカップをふたりに渡す。やわい湯気に全員が目を細めた。香しい。
「ところで。猫ちゃん、いつからいたんですか?」
「君が中途で入ってくる……5月の半ば。つい最近だな」
里桜に問われた保村裕一も、重たそうに口を開く。
仕事の依頼人である高梨先生の名が出たところから、その声が少し揺らぎはじめた。
「……三上先生。今日は兄さんに頼まれて、来たんだったな?」
「はい。テストの採点に」
「以後、彼には応じないでいい。あまりに無責任だ」
「はぁ……」
代わりに怒ってくれているのだろう。その対象は言うまでもない。
えりが裕一の肩をたたく。これくらいにしなさいよ、と。
「……。すみません。取り乱してしまいました」
「大丈夫、です……」
裕一が目をつむり、里桜もすっかり肩身が狭くなってしまった。
「とにかく。僕が報告書を書こう」
「あたしも、採点終わらせないとなぁ~」
「そうですね。まずはこれ、片づけてきます」
しかし、こうしていてはいられない。
ふたりからコーヒーカップを回収し、給湯室の食洗器にかける。そこから戻った頃。
「……。ふたりとも、すごい必死になってる」
えりが自分の隣で、裕一がその向かいで――――せっせとノートパソコンのキーボードを打っていた。
「さて。私も……」
対して自分のほうは――ぱっと見、仕事量はそんなに多くない。
里桜は椅子に腰かける。えりと裕一の感嘆をよそに、赤ペンをすらすらと走らせた。
***
そろそろ、いい頃合いのようだ。
里桜はチャイムが鳴ったのと同時に、15枚分の答案や模範解答を隣の机に重ねていく。
「まあっ。もう終わったの?」
「これまた、仕事が早くなったな。しかも……完璧だ」
「そうよね。若さって凄いわ~」
念のために……と、答案を手にした裕一が、最初に固まった。
えりも「旦那さんから聞いていたとおりね」とつぶやく。里桜は苦笑する。
「それは、ちょっと違うと思います……」
自分は言われるほど、超人でないのだから。
里桜は首を横に振る。この話題を早く断ち切ろうと――チャイムを味方に、ぱっと立ち上がった。
「私、買い出しに行ってきますね!」
「そうか。であれば、任せるとしよう」
「ありがと。あたしは、いつもの……たまごサンドで」
「わかりました」
せっかくだから、自分が昼食をこしてあげよう。
まずはふたりに声をかけ、廊下の向こうへ歩き出した。
***
冷たく重たい紙袋を抱え、里桜が職員室に入ったところ。
そこでえりと裕一が何やら、楽しそうに話していた。どうしたのだろう。
「えっと……。ただいま戻りました」
「ああ。早かったな」
「今日は空いてたので。あと、無料サービスしてくれました」
裕一にチーズサンド、えりにタマゴサンドを渡す。するとふたりが美味しそうにつまみ始める。そのついで。
「あ……」
ふと、えりの机上が目に留まった。この地でおなじみの雑誌『西梛ベストスポット・ガイド』の文字も。
「みかみステート……。うちの特集号じゃないですか!」
「今朝、コンビニで買ったんだ」
「これを読んで、興味がわいたのよ」
「あぁ~。なるほど」
何より注目すべきは、その一ページに載っている写真の人物。
ばっちり『みかみステート 新名物&三上聡也店長、運気アップ説浮上』などと書かれている。相応にえりの呼気が熱い。
「じゃあ是非、ついてきてください」
「やったぁ~!」
「では僕も、彼に会いに行くとするか」
里桜は確信した。これなら御門先生を救えるかもしれない。
ふたりから快い返事を受け、ごぞって職員室をあとにした。
第2時限『笑顔は奇跡を呼ぶ』
「あ……」
住宅街のど真ん中。そこで自宅を兼ねた菓子店、みかみステート。そこから制服を着た男女を中心に流れ出てきた。
「……里桜。おかえりなさい」
「聡也くん。ただいま」
その波からようやく解放されました……、と言いたげな細目が、しっかり三人に向く。まっすぐな髪が台無しだ。里桜がくすっ、と笑う。
「ほんと、相変わらずね」
「ははっ。聡也、人気者は辛いな」
「やめてください。妻もここにいるのに……」
裕一も笑いをこらえながら、つぶやく。聡也がやんわり否定するが、愉快な笑いが止まらない。
「それはそうと。みなさんのお目当ては、これのようですね」
「あら。バレちゃった……」
「さすがは若店長だな。頭が下がる」
「さっきの子たちも、そんな感じでしたから」
「やっぱり……」
そこで聡也が差し出してきた。かの雑誌に載っていた――――パワーストーンのパッケージを。
里桜が耳元でこっそりささやくと、聡也が微笑む。ぜひそうしてやってくれ、と。
「里桜。悪い……。あとは頼めるか?」
「うん。任せて」
ただ、残念そうな顔もした。他にやることが残っているという。
代わりに里桜が、ホログラムのパッケージを受け取る。のれんをくぐる聡也を見送り――えりの手に、それを置いた。
「御門先生。これを開けてみてください」
「いいの?」
「はい」
今日は特別です、と言って。
えりは目を点にした。そこで裕一が助け舟を出す。たまには甘えたらどうですか、と。
「そう? ありがと。じゃあ……」
そのおかげで、話に乗る気になったらしい。
えりが里桜の手を取る。封を切られて出てきたのは、青と白――二色のパワーストーンだった。
「えっと……。プラス、アルファ……」
「これ、大当たりですよ」
「まあっ!」
里桜は声を上げる。するとえりの顔色が、ぱぁっ……と変わった。パッケージ裏の、下に書いてあるのだ。
――――レアカラー、ハイブリッドブルー&ホワイトと。
「青は、安定を意味するそうです」
「白には、お祓い効果もあるらしいな」
「確かに……。これ見てて、心が軽くなってきたわ」
「こんな気持ち、初めて!」
運を引いた――――その喜びが一層、明かりを照らす。
里桜や裕一が微笑む。聡也も少しだけ近づき、『おめでとうございます』と小さく声を上げた。
「これ、大事にするわ」
「はい」
だんだん、自分も鳥肌が立ってきて。
ゆっくり辺りを見渡す。先ほどまで隣にいたはずの裕一が、いなくなっているではないか。
「ふふっ。彼も案外、乗っちゃって……」
えりがクスクス、と笑う。何か事情を知っているようだ。
「お母さん用に買うってね」
「学長に……ですか?」
「そうよ」
「あたしが当たりを引いたなら、自分もいけると思ったみたいよ」
「なるほど……」
どうも、先輩に触発されたらしい。
里桜は苦笑しながら、レジの方に目を向ける。店長はここでもサービス精神を発揮しているようだった。
「悪いな。つい……」
「いいんですよ」
間もなく、裕一が申し訳なさそうな顔で戻ってくる。
こんなにも頬を赤らめている彼は、初めて見た。旧知の仲とは、こういうものなのだろうか。
「ふふっ」
あとで旦那に聞いてみよう。
里桜は隙間風を受け、窓を閉める。星々がきらめく夜空に、流れ星が一筋落ちていって。
「綺麗……!」
それに続く星々を、とっさに目で追う。心が温まる夜だ。
「あたし、いい後輩を持ったわ~」
「これで教頭先生たちも、一安心かもな」
「後で、感想を聞かせてくださいね」
この奇跡を、自分たちの目で納めるかのように。
えりをはじめとする面子の間でも――――満面の笑顔が広がっていた。
***
「今日はありがとね」
「こちらこそ」
「聡也。邪魔したな」
「いいえ。久しぶりに会えて、よかったです」
ゆるやかなメロディーが、時計塔の時報や風の音と重なる。お別れの時間だ。
「よければ、家まで送りますよ」
「いいの、いいの」
「ギリギリまで、僕がついていますから」
聡也が気を遣ったが、えりと裕一は首を横に振る。ふたりはおそろいの鍵を手にし、キラリと光らせていた。
「先輩たち、お隣さんだったんですね。初めて知りました」
「そうか。これなら安心だ」
そうなった経緯は察することしかできないが。
空き家が多く寂れたこの場所で、女性をひとり歩きさせない。それが守られるのはいいことだ。
「それじゃあ、また明日」
「帰り、お気をつけて」
踵きびすを返したふたりに、里桜と聡也は手を振った。
エピローグ『嬉しい恩返し』
「おはようございます。遅れてすみません!」
翌日。昨日と比べて一層、街中は晴れ晴れとしている。その中で里桜は寝坊し、遅刻スレスレになってしまった。しかし。
「三上先生。おはようございます」
「全然セーフですよ。気にしないでください!」
「そういえば。あなたも、休日出勤したんだってね?」
「またあいつかぁ~……」
「だとしたら、彼女を責められないなぁ~」
「ご苦労さん!」
これまた珍しい。
いつもは冷え切った職員室のなかで、あたたかな空気が流れている。ほかの男女職員もみんな――やけに優しくしてくれた。
「高梨先生。後輩に迷惑かけるの、やめてください……」
「うぅ~……。視線が痛いよぉ~。ユウくぅ~ん……っ!」
――――窓際にいる高梨先生だけ、裕一に取り押さえられているが。
「あはは……」
自業自得……といっても、さすがに苛めすぎではないか。
しかし里桜には、そう突っ込む勇気はない。休みを取られたのは確かだからだ。
「三上先生。おはよう」
「あ……」
再び前を向く。そのはずみに――頬を冷たいものが掠めた。
「御門先生!?」
「朝から苦行を強いちゃったみたいね。これ、飲みなさい」
「あ……」
振り向くと、えりがいる。
昨日のお礼に買ってきたそうだ。新商品だという――エナジードリンクの缶を。
「ありがとうございます!」
「いいえ」
里桜は頭を下げ、それを口にした。ミックスベリー系の微炭酸にのって、すっきりとした甘さが喉をこしてくる。
「でも……。ほんとに、どうしちゃったんですか?」
「彼はあんな感じで、忙しそうだったから……」
「ひとりでコンビニ寄っちゃったの。でも、ほんと奇跡よね」
先輩なりに、美味しい思いをさせてくれたようだ。
勝手な行動をして…、と保村先生が遠くで言う。周囲も一部呆れているようだ。しかし。
(お守り、効いてるのかも)
昨日渡したものにチェーンがつけられ、ひときわ白い輝きを放っていて。
これが味方してくれたんだ、とわかる。里桜は心から嬉しくなって。
「さて、と」
自分の持ち場についた。今日も頑張らなきゃ、と。
おわり
あとがき
どうも。やもり湧です。最後まで読んでくれて、ありがとねー!
さて! 本作からの二次創作を解禁したことに伴いまして、第一線で働く大人たちのお話を改訂いたしました。
(既存の画像をクリスタでいじり、上の方に『同人マーク』をつけました。気がついてくれたかな?)
しかし、なかなかに大変そうですね……休日出勤(汗) 自分はあまり自信がないです。でも、何かのために頑張っている人は凄いと言えます!
それはさておき。
今をときめく子どもたちへ。ちょっとやらかした大人(私)から、メッセージを送らせていただきます。
学校の先生をなるべく怒らせないように、真面目に勉学や人付き合いをするんだぞー!!
(ちなみに私は、英語や国語以外勉強しようなんて思ってませんでした)
それでは。またの機会にお会いしましょう。Thank you!
令和5年4月21日 やもり湧
やもり湧プチトーク
ヘッダー画像に使われているイラストを載せたら、Twitterにてたくさんの『いいね』を得ることができました。とても嬉しかったです!
ただひとつ、残念なお知らせがあります。例のイラスト作成後、数日後に腱鞘炎を再発させてしまったんですよ(しょぼーん)
一歩間違えたら、手術沙汰になっていたと思うと嫌になりますね…。
(約3日間、できる限り手首を休ませました。あとはサポーターもつけています)
他クリエイターおよび読者の皆さま、くれぐれも手首などをご自愛くださいませ!
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