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秋山黄色の今までにありそうでなかった魅力

ここ数年で名だたるフェスにも数多く登場し、タイアップ曲も多く若者を中心に徐々に人気を獲得している「旬」のアーティスト、秋山黄色。私は彼の音楽に出会うタイミングとしては少し遅かったかもしれない。しかし、彼の音楽に魅了されていくのにはそれほど時間はかからなかった。

かつてない”新しさ”

秋山黄色の音楽を初めて聴いたとき、一種の「新しさ」を感じた。最初に聴いた曲は「猿上がりシティーポップ」。

歪んだギターの音、速いテンポでイントロから(私の好きな感じ)と思ったが、聴こえてきた第一声のつぶやくような低い声にぞわっとしたのを覚えている。

そんな感じで曲を聴きながら(秋山黄色ってどんな人なんだろう…)と考えているうちにサビに突入。プツンと糸が切れたように爆発的なわかりやすいサビ。歌詞のリズム感もとても良く気持ちが良かった。

ここで感じた「新しさ」というのは、「いい意味でごちゃごちゃしている」ところである。秋山黄色が奏でる特徴的なギターリフ、実際にライブに行けばちょっと耳がキーンとするくらいの歪んだ音、それに負けじとベース、ドラムのリズム隊もうまくぶつかっている。また、幅広い音域と今にも息切れするんじゃないかというレベルの全力さでこちらへ声が向かってくる。このボルテージの高いサウンドがとても耳を楽しませるのである。

ここからは、個人的に好きな秋山黄色の曲をいくつか記しておきたい。

1.サーチライト

この曲には救われた。お馴染みの疾走感あふれる曲ではあるが、歌詞のそのストレートさに、(一音も聴き逃すまい!)とついつい何度も聴いてしまう。そして頑張りたいと思うときにこの曲に頼ってしまう。

”なにが正しいのかが分からないままでも
時計の針は心を容赦なく刻むから
僕らは弱さも迷いも捨てなくていい
抱えた全てを強さと叫ぶから”

「人生は選択の連続である」と、ハタチながらも歳を重ねていくにつれて感じている。どちらを選んでも必ず後悔する時はあるし、結局何が正しくて正しくないかなんてわからない。でも後悔することが何故か怖くて怖くて、迷う。でも秋山黄色はそれも含め全て、”抱えたすべてを強さと叫ぶ”と歌う。こんなにストレートに伝わってくることはない。このフレーズだけに関わらずサビの歌詞にも大変背中を押されるので、ぜひ聴いてみてほしい。

2.夕暮れに映して

ピアノの音も加わった、全体的に明るい曲調の一曲である。しかし、歌われている内容はとても深い。恋愛と重ねても、友情と重ねても、様々な視点から楽しめると思う。

”自分で決めた事守る以外に何かがあんのかよ
あなたが好きだと言ってくれた俺の保ち方”
”幸福な事で日々を満たしても傷が痛むように
あなたがくれた幸せは傷なんかでは消えないから”

サビの、「忘れられない、忘れられない~」というフレーズも印象的ではあるが、サビそれぞれの最後のフレーズが特にジーンとくる。特に、二つ目の「幸福な事で日々を満たしても傷が痛むようにあなたがくれた幸せは傷なんかでは消えないから」というこの曲を締めくくるフレーズはとても耳に残る。ネガティブ思考だとついつい「傷」ばかりを掘り返してしまうけれど、確かに「幸せ」ってそんな簡単に忘れられないよなあ、どちらも同じだよなあ、と。それくらいどちらも自分にとって必要だったのかもしれない。

3.エニーワン・ノスタルジー

この曲はYouTubeには上がっていなくてリンクが貼れないのだが、ファーストアルバムの、「From DROPOUT」の一番最後に収録されている一曲である。正直、個人的には秋山黄色の曲の中でこの曲は一位レベルである。

”不確かな事で遠くないけど
悩んでもあまり意味がないけど
比べていてもしょうがないけど
変わらぬ強さが欲しいのに
変わりたいと思うのは
ああ いつまでも”
”大人と子供の間にいるからだ
ダサい大人になりたくない
子供な自分が嫌なのだ
履く靴だけは良くなって
満足な日々じゃ困るんだ”
”他の誰かになってしまいたいのに
どんな人にもなりたくない
こんな自分が嫌なのだ
迷う事が正しい順路と
信じるくらいはいいのかねえ”

大人と子供の狭間にいる主人公の葛藤を描いている。私が19の時にこの曲に出会い、(大人になった時にこの曲をもう一度聴いたらまた違った発見があるのかなあ)と思いながら何度も何度も聴いた。そしてつい最近20になってもう一度聴いてみた。いい意味でも悪い意味でも何も変わらなかった。まだ全然自分は子供のままである。自分が大人だと責任を持って言えるようになるのにはもう少し時間がかかりそうだ。

未だ子供の自分は、やはり周りばっかり気にしてしまう。「比べていても意味がない」のに。「変わらぬ強さが欲しいのに変わりたいと思う」という言葉にも心を強くえぐられたような気分だった。私はまだこの曲の全てを理解しているわけでもないけれど、何度も何度も歌詞を見て、何度も何度も考え続けていきたい。最初に歌われた自分自身のダークな部分を、最終的に落とし込んだその先にはとても圧巻だった。


秋山黄色のかつてないジャンルにもとらわれない新しい魅力は、これからも私達に、少なくとも私自身に、驚きと発見をくれるであろう。早く彼の力のこもった歌声を、また生で聴きに行きたい。


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