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#42 孤独/運命の恋

私が帰国した次の日、主人は別の飛行機の便を取り、私を追いかけて帰国してくれた。主人とはまだ婚約もしていなかったし、まさか来てくれるとは思っていなかったので、感謝しかなかったし、心強かった。ちゃんとした喪服も持っていなかった私は主人を駅に迎えに行くついでに駅ビルで喪服を買った。化粧もせず疲れ切った顔で喪服売り場に行った私を見た店員さんは私に必要以上の話はしなかったが、状況はきっと察しただろう。

翌日はお通夜。私が連絡したのは中学からの大親友一人だけだったが、主人が連絡をした共通の友人から聞いたのか、私の友人もお通夜に参列してくれたり、電報をくれたりした。思いもよらない人の温かさに触れて、彼らがもし辛い時や何か大変な事があった時には私も必ず力になろうと心に誓った。

一晩明けて、葬儀。全てが順調に進み、火葬の時間になった。
参列者みんなが控室に行き待機している中、私は外に出て大きな煙突から出る煙をずっと眺めていた。母が煙になり空に昇っていくのを自分の目でしっかり見届けたかった。雲一つない晴天の日の午後だった。

ニ日後、主人は先にオーストラリアに戻って行ったがとりあえず私は四十九日が済むまでは実家に滞在する事にした。
家に居てしなければならない事は父の世話。父は本当に何も出来ない人で、洗濯、掃除、料理、全て私がやった。何人か会いたい人にだけ連絡をして、ランチを食べに行ったりしたが、帰ってきた理由が理由なだけに、基本は家で過ごしていた。飼っていた猫も、母が居なくなってから誰もいない家が怖いのかニャーニャー泣き続ける。
母の居ない家は、いかに母が家族の中心であったか、家族の調和をとっていたのかをひしひしと感じさせた。
そんな家で日中は一人、家に沢山あった母が好きだった小説を片っ端から読んだ。
オーストラリアに行ってから自由な時間が沢山あったので読書にハマってしまったのだ。特に東野圭吾の推理小説が私のお気に入りだった。
皮肉にも家には東野圭吾を始めとして何冊もの推理小説があった。
今なら母と沢山小説の話で盛り上がることが出来たのに…。寂しさと悔しさで涙が出そうになった。

母は家族の中で私の唯一の話し相手であり信頼できる存在だった。父は頑固で細かい事にうるさく、妹は私と性格が真逆な事もあり価値観が合わなかったので、ほとんど口をきかなかった。しかし母が居なくなった今、私には誰がいるだろう…。主人しか浮かばなかった。もう私には他に誰もいないのだ。

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