- 運営しているクリエイター
2018年2月の記事一覧
【掌編小説】金魚の夢
毎夜、浅い眠りを繰り返す。
深い眠りには滅多に就くことができないから、よく、夢を見た。いつも同じ夢だ。
わたしは、深い水槽の底にいて、息のできない苦しさに喘ぎながらずっと、分厚いガラスの向こうの部屋を見ている。わたしの部屋だ。ベッドの上には、膝を抱えてこちらを睨む、わたし自身がいる。眠れないのだろう。疲れ切った表情は、わたしが一番よく知っている。
わたしは、どうにかこの深い水槽から出ようと
【掌編小説】夢のあと
プラットホームに供えられた花が枯れている。終電の行き過ぎた地元の駅。プラットフォームはおろか駅自体にわたし以外の誰もいない。わたしはしおれた花束を拾い上げ、新しいものを同じ場所に置く。
十月の夜の空気は冷たく、けれど刺すような寒さはまだ遠い。初秋のやわらかさを失い、冬の鋭さを持たぬ曖昧な寒さはただ「足りない」という言葉がよく似合った。
この駅で友人が死んだ。この夏のことだ。
いつもは閑散
【掌編小説】夜明け前
真夜中に目が覚めて、部屋の片付けをしようと思った。
目についたのは本棚で、一番下の段にある手帳をすべて出して重ねる。ここ十年間くらいの手帳を、なぜかずっと大切に保管していた。でもこれはもう要らないものだと思い至ったのだ。
ページを開いてみれば、なんと言うことはなかった。何時にどこで待ち合わせだとか、この日はあのバンドのライブに行くだとか、殴り書きのように予定だけが書き込まれていて、そこに感傷