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2018年9月の記事一覧
【短編小説】浮遊する最果て
1.
重く暗い空気が、向かい合うふたりを包んでいる。
彼女は口を固く結んだまま、決して僕の方を見ようとはしなかった。僕は戸惑い、目を泳がせた末にコーヒーカップに視線を落とす。食後に飲んでいたカフェラテはすっかり冷め、カップに膜を張っていた。
壁に掛けた時計の秒針の音だけがやけに大きく聞こえる。規則正しく、沈黙を責めるように鳴る。その針が一周回りきる頃、
「別れて欲しいの」
耐えられなくなっ
【短編小説】灰猫のクオリア(『泣ける話』掲載版)
その人は、猫とヒトの区別がつかないのだと言った。
三年生になって数学科のゼミに配属され、最初の授業で全員が自己紹介をした。周りの同回生も先輩たちも、研究内容や趣味などの当たり障りのない情報をひと言ふた言述べる。そんな中、彼だけが少し、違っていた。
「大学院一年生の水野浩樹といいます。目が悪いので、もしかしたら迷惑をかけるかもしれません」
少し掠れた声で彼は言って、
「僕には、猫と人の違いが