#1 主人公にはなれない

その日の目覚めは、いつもと変わりなく気怠いものだった。

確定的未来。そんなことなどないと分かっているが、僕にはわかる。それほど自信があった。

10時到着を目指すはずだったが、気怠い目覚めのせいか出発したのは9時45分。今後のことも考えて、自転車で行こうと思っていたので、移動時間は45分かかることになる。到着時間は10時30分というわけだ。30分の遅刻。

急ぐわけでもなく、特別ゆっくりなわけでもなく、自転車を漕ぐ。春が目前に迫ってきている、少し肌寒い空気が気持ちいい。なんてことはなく、僕はこの時期の空気、匂いがあまり得意でない。

ちゃんと調べて、最短ルートを行けばもっと近いルートがあるのかもしれないが、遅れている中で果敢に裏路地を行けるほどチャレンジ精神を持ち合わせていない僕は、道に迷わないようにと、大通りを進んでいた。

10時45分。結果から言うと、ゆっくり漕いでいた事になる。45分で行けるところを1時間かけて来たというわけだ。汗はかいていない。

「裕也、今きたの?遅くない?」

振り返ると、祐介がいた。隣には聖羅。自転車を停めようとしていた僕は、急に呼ばれて振り返ったからよろけて倒れそうになる。何とか耐えた僕は、

「まあね。ちょっと寝坊して。」と、嘘でも本当でもないような返事をしていた。

「裕也、受かってたよ。486番だったよね?」

「まじか、よかった。サンキュー。裕介は?」

「おれも大丈夫だった。まじ良かったー」

普通、合格発表を見に来た友達に、先に結果は言わないよな。と心の中では思いつつも、そのまま適当に話を続けた。祐介は受かって、聖羅は落ちてたらしい。二人で見に来たのか、見に来て出会ったのかわからなかったが、聞かないことにした。

「一応、ちゃんと見てくるわ。」

そう言って、会話を終わらせて二人とは別れた。

発表から45分経っていたからか、人はまばらで快適に番号を探せた。486番。確かにある。一応、親にも報告しなきゃだし、写真も撮っておこう。

確定的未来。友人に先に聞かされた合格発表。事実は小説より奇なり。なんてことはない。

僕は、小説の主人公にはなれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?