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フュリオサ感想 スピンオフとして見所はあるが…

先日、マッドマックス:フュリオサを観てきました。
映画を見た感想を、前半ネタバレ無し、後半ネタバレ有りでまとめようと思います。

公式サイトより

前半は映画見る前に読んでもらっても大丈夫だと思います。
ただ、個人的に思うところがあるのは後半部分なので、ぜひ映画を見て後半をお読みください。

ちなみに、私はマッドマックスシリーズは3作目の怒りのデスロードは見ていて、1、2は未視聴です。
フュリオサについては映画館で一度見たきりなので、記憶違いがあったらごめんなさい。
なお、感想は怒りのデスロードを視聴済みであることを前提に書いていきます。


ネタバレ無し感想

良かった点

  • イカれたカーアクションは健在!

  • フュリオサ役の寡黙な演技に注目!

  • クリス・ヘムズワース演じるディメンタスが魅力的!

  • 怒りのデスロードでは描かれなかったアレやコレが登場!

悪かった点

  • スケールダウン感が否めない。

  • 頭空っぽアドレナリン全開!を期待してると違うかも…

  • テンポの悪さが目立つ。

  • ストーリーに違和感がある。

本作は、怒りのデスロードの前日譚であり、主にフュリオサの生い立ちとイモータン・ジョーのもとで大隊長として仕えるようになるまでの経緯を描きます。
怒りのデスロードでは、フュリオサは過去に多くの辛い経験を抱えつつ、それを乗り越えて約束の地を目指そうとしていることが窺えますが、本作はその「色々あった辛いこと」の部分に焦点が当てられているわけで、その性質から怒りのデスロードとは毛色の異なる作品となっています。

要はヒャッハーじゃない要素が多いんですね。
観客は主人公フュリオサと共に辛い目に遭うことになります。台詞こそ少ないものの、心情を考えるターンが多くはなります。
ここは、良い悪いということではないのですが、怒りのデスロードの延長を求めていると、違うものがお出しされるかもしれません。
台詞に頼らない心情描写という意味では、役者さんの演技、演出ともに大変見事です。ここは見ごたえあると思いますので、気持ちを切り替えて楽しみましょう。

さて、そんなフュリオサの辛い経験の端々では数々の戦闘が巻き起こるわけですが、戦闘シーンはもちろん見応え満点!
正直、どんな欠点があってもこれだけで見る価値は十分にあると思ってます。
現実世界のあれやこのアイテムが、あんな使われ方でトンデモないイカれバトルに使われる!というのはバッチリ見れました。

ただまあ、スピンオフの宿命かもしれませんが、怒りのデスロードと比べると、スケールダウン感が否めません。
前日譚なので怒りのデスロード時点より部隊の規模が小さいのは仕方ないかも…というのはありますが、出てくる勢力も怒りのデスロードより限られ、車両の種類や数も目減りした感はあります。
そして何より、先述の通りフュリオサのしょんぼりエピソード部分に割く尺が多い関係上、ダイナミックな戦闘シーンの割合が減っているのはあるかと思います。
いやまあ、そこはむしろ、大半を戦闘シーンに費やしながらストーリーを成り立たせた怒りのデスロードが異常に良くできているとも言えるのですが…。

そして今作初登場のディメンタス
演じているクリス・ヘムズワースは個人的にはあまり知らないけれど、ヒーローを演じているイメージが強いです。
本作での彼の立ち位置はというと…ネタバレ無しなのでここでは語りませんが、非常に重層的というか、複雑なキャラクターになっています。
このキャラはクリス・ヘムズワース無くしては成り立たなかっただろうなという名演でした。

テンポ感やストーリーについて物申したい部分については、ネタバレに触れるので後半でお話しします。


ネタバレ有り感想

ここからネタバレありで書いていきますので、未視聴の方はご注意ください。

本作は非常に魅力あふれる作品ではあるのですが、どうしても引っ掛かる部分が先に来てしまいます。
ネガティブ評価が多くなりますがご了承ください。後半で良いところも褒めるからね。

まずはテンポの話。
怒りのデスロードで僕は個人的に最も感心したのはテンポの良さです。
まず冒頭から最高ですよね。いきなり最高スピードの逃走シーンから始まって、扉がバーンと閉まると同時に現れるMADMAXの文字、この時点で脳汁ダラダラでコイツァやべぇぜ!と期待感が膨れ上がります。
そこから、新たなキャラが登場しては爆走し始め、敵が現れては吹き飛ばし、その噴煙を突き破ってさらに凶悪なマシンが出現する。
この畳みかけるような盛り上がりの連鎖が、怒りのデスロードの最大の魅力だと思っています。
面白いシーンだらけなのはもちろんなのですが、つなぎのためのシーン(言ってしまえば面白くはないシーン)がないというのが、秀逸な点でした。

それに比べると、本作はかなりスローテンポです。
冒頭も森林での隠密シーンから始まり、だいぶ大人しめです。映画のテンポ感や雰囲気は冒頭シーンで分かると思っているのですが、まさに冒頭で感じた「なんか大人しいな」という感じが、映画全体でついて回ったなという印象です。
戦闘も爆走も途切れ途切れに発生するので、アドレナリンブッシャータイムが持続せず、面白いシーンとそのつなぎになってしまっていた感は否めません。
わずか一昼夜を描いた怒りのデスロードと、幼少期から大人になるまでの長い期間を描いた本作とではタイムスパンが違うので、仕方のないことなのかもしれませんが、それでも怒りのデスロードの興奮を思うと物足りなさを感じずにはいられませんでした。

ていうかね…
ディメンタスの死に際がなっっっっっっっげぇ!!
長すぎだろあの尺!はよ介錯せぇ!

いや分かるんですよ、彼の散り方の難しさは。
あれだけフュリオサに残虐極まる仕打ちをした上で、それでも生来の無垢さとフュリオサへの愛さえ持ち合わせた彼に、一体どんな退場の仕方が相応しいか。
どうなるものかと見守っていたら、まぁーーー引っ張る引っ張る。
挙句にこんな死に方、あんな死に方かもねとifまで提示されちゃったりして。
もう制作側の迷いが作品に乗っちゃったんじゃないかと思わざるを得ないです。

怒りのデスロードでは、一撃でイモータン・ジョーを葬ったフュリオサが捨て台詞に吐いた一言が、積年の恨みを匂わせ、あっさりながらも深みのある良い終幕シーンでした。今回もそのような味のある最期を期待したのですが…
今回も短い台詞でズドンと終わらせても良かったと思いますし、凄惨な描写で憎しみの深さを表現しても良かったと思います。なんなら、フュリオサが手をかけることができずに怒りの矛先を見失っても味があったかもしれません。映画で描かれた選択も悪くはないんですが、その結末までが長すぎてインパクトが薄れてしまいました。
一つフォローするなら、クリズ・ヘムズワースの演技は良かったです。彼の魅力が無ければ長すぎて見てられなかったたかも。

ストーリー上の違和感の話。
フュリオサを見終わって、あれ???と思ったのは、イモータン・ジョーとの確執が描かれていなかったことです。
怒りのデスロードの最後、イモータン・ジョーを葬り去る瞬間にフュリオサは「私を覚えている?」と吐き捨てます。ここはすごく印象的なシーンですよね。フュリオサとイモータン・ジョーの間に何か深い因縁があったことを匂わせています。
フュリオサは大隊長として当然イモータン・ジョーに認められた存在なわけで、その上で「私を覚えている?」と言うということは、それ以上の何かしらの私的な過去の恨みがある、と考えられます。
イモータン・ジョーの妻たちと共に脱走を図っていることから考えても、かつては彼女もイモータン・ジョーの妻かそれに近しい立場だったが、何かのきっかけで戦士となったのでしょう。
その詳細が明かされるのが本作…

と思って見てみると、あれ???
妻たちの一員として迎えられたと思ったら、早々に脱走し行方をくらますフュリオサ。そして、特にそれが大事になって捜索された感もなく、作業員に扮して難なく砦に潜伏し、ディメンタスへの復讐の機会を伺う。
そう、復讐の相手はディメンタスであって、イモータン・ジョーには特に何の恨みもありません。
それどころか、その後ジャックと共にディメンタスに捕まり、左腕を犠牲になんとか逃げ延びた彼女を保護したのは、他でもないイモータン・ジョーです。リトルDとしては妻にされかけたとは言え、脱走後のフュリオサにとっては恩人ポジションです。
「私を覚えている?」とは、何のことだったのでしょう?
前作でせっかく深みがあった台詞が、今回のスピンオフのせいでよく分からない台詞になってしまったと思うのは私だけでしょうか。

もう一つ強烈に違和感があったのは、義手をつけるエピソード。
流れをおさらいすると、相棒(半ば恋人?)のジャックと共にバレットファームに向かったフュリオサは、既にバレットファームを占拠していたディメンタス達の罠にはまり、大立ち回りの末に逃走を図るが、捕まってしまう。ジャックはバイクで引き回され犬に嚙み殺されてしまうが、フュリオサは負傷した左腕を引きちぎって逃走する。命からがら逃げ延びた彼女は、砦へとたどり着き(途中、倒れた彼女をマックスが見てたけど、あれはどういうこと?マックスが助けたの?見てただけ?)、イモータン・ジョーにディメンタスの動きを報告する。それを聞いたイモータン・ジョーは、ディメンタスへの全面戦争を仕掛けることを決断。ここから40日間に渡る戦争が始まった。
そしてフュリオサは、ロボットアームを製作した。
えぇ?この流れでやることソレ!?

思わずツッコミたくなりました。
相棒を惨殺されて、故郷へ帰る大事な地図を失って、今にも全軍で叩きのめそうという時に、機械工作ですか??
彼女のこれまで生きてきた目的から考えれば、今すぐにでも失った左腕の地図を取り戻したいとか、イモータン・ジョーの軍がディメンタスを仕留めてしまう前に自分が前線に出てディメンタスの首根っこを捕まえたい、と思うのが自然じゃないでしょうか。
何を呑気に立派な義手作っとんねん。しかもエンジン吹かすと鎖も切れちゃう面白ギミックまでつけちゃったりして。
母親やジャックへの凄惨な仕打ちや、逃げるディメンタスを着々と追い詰め最後には時間をかけて殺す恨み深い描写とは、あまりにチグハグ。
そりゃあ、どこかで義手をつけるシーンは入れたいだろうけど、ここではなかろうよ。なんか急ごしらえの義手をつけるとか、元からあった義手をつけて猛然とディメンタスへ報復に向かう姿ならば、様になったと思います。
じっくり腰を据えて機械作りに向き合う時では、ないよね。

さて、批判はこのくらいにして、良かったところも語っていきましょう。
ガスタウンやバレットファームの詳細が描かれたのは、嬉しかった人も多いのではないでしょうか。
まあ、本当に必要な掘り下げかというと、別に想像に任せておいても良かった部分だとは思うんですが、それでも「これがあのガスタウンとバレットファームかぁ!」という喜びはありました。

ウォータンクの誕生秘話が見れたのも良かったですね。ピッカピカのウォータンク!なんか凝ったレリーフも刻まれてたり、面白回転兵器もついてる!
楽しい~~~!

回転兵器と言えば、オクトボス戦は本当に良かったですね。あの空中兵器本当に飛ばしてるんだろうなぁ!メイキング見たい〜と思いながら見てました。
最後に回転兵器に巻き取られてまさにタコの脚のようになったのはお見事。芸術的でした。
キャラクターや造形含めてとても好きなキャラクターです。

公式サイトより

キャラクターと言えば、なんと言ってもディメンタス。なんて魅力的な悪役なんでしょう。
元は…どういう生まれなのか分かりませんが、世の中のことをまるで知らない無垢な聖人のような男で、それ故の残虐さを持ち、残虐な仕打ちをした上でフュリオサに愛情を持ち、野心に燃えてのし上がるも本物の統治者にはなれず闇堕ちしていく…
人間臭く滑稽さもあり、純粋であるがが故に邪悪で、唾棄すべきような愛すべきような、深みのあるヒール像でした。
彼の精神に応じたマントの色の変化も面白かったですね。純粋さの白から、野心の赤、そして闇落ちの黒へ。くまちゃん人形の使われ方もナイスでした。
古代ローマの戦車のような車も、後半で出てきたモンスタートラックも非常にかっこよかった。特に前半で古代戦車を操る姿は英雄のようで、他の醜悪な悪役とは違う彼の魅力を引き立てていたと思います。

公式サイトより

イモータン・ジョーは怒りのデスロードで物凄い存在感ある悪役ぶりでしたが、演じたヒュー・キース・バーンは惜しくも亡くなられてしまい、今作では別の役者さんが演じています。
演技に違和感はなく、独特の衣装とメイクも相まって再現度は非常に高いですが、なんというかオーラと言いますか、滲み出る風格が違いますね。先人は偉大です。


まとめ

今作は怒りのデスロードのスピンオフとして楽しめる部分がある一方、スピンオフとしてこれではイカンだろという部分がある作品だと思います。
怒りのデスロードがいかに傑作かを改めて感じましたし、そこに付随する作品として足を引っ張ってしまった感があるのは残念なところです。
しかしながら、新たなキャラなど本作独自の見どころもあり、見る価値は十分にある作品だと思います。
映画館でもう一回、ではないにしてもストリーミング配信なんかでもう一度は見たいなと思います。

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