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レッスンはどんな風に行われているのか?

 こんにちは!
 アレクサンダーテクニークのレッスンについて、「実際のところどんなことが行われているのか」が少しでもわかった方が一歩を踏み出しやすいのではないか、と思いました。
 ピアノのレッスンとか、学習塾とかならイメージがわきやすいでしょうが、アレクサンダーテクニークは残念ながらあまり知られていないので・・・実際のところを知ってもらうことがまずは大切かなと思っています。

 というわけで、今回はアレクサンダーテクニークのレッスンについて書いていきます。


「The Breathing Man」と呼ばれた男


 F. M. アレクサンダーが自身の声の問題を解決するために自ら取り組みはじめたのは1882年のことでした。
 当時、アレクサンダーはシェイクスピアの作品を専門とする朗誦家としてオーストラリアで活動していたのですが、演目の途中で声がかすれ、最終的に全く声が出せなくなる、というトラブルに見舞われていました。

 医師に相談しても公演と公演の間にできるだけ声を使わず休むように言われるだけ。確かにそれに従うと確かに声の調子は戻ったものの、結局またステージの後半で同じトラブルがぶり返してしまいます。
 再度、医師の元を訪れたアレクサンダーは、「声が出なくなった」という問題に関して、次のようなやりとりをします。

「つまり、あの晩、声を出している間に私がしていたことのどれかがこの問題の原因なのではありませんか?」と私は尋ねた。医師は少しのあいだ考え、「そうに違いないでしょう」と言った。「では、私がしたことのうち、この問題を引き起こしているのが何かわかりますか?」と尋ねると、医師は自分にはわからないことを率直に認めた。「よろしい。そういうことなら、私が自分で試して見つけ出すしかありませんね。」私はそう応答した。

F. M. Alexander : “The Use of the Self” Chapter 1 ‘Evolution of a Technique’, p. 25, Orion Spring (2018) [1] (日本語訳は筆者が行いました)

 少し話題がそれますが、このやりとりこそがアレクサンダーテクニークの始まりだと私は思います。
 このやりとりの後から、アレクサンダーは鏡の前で自分が朗誦する姿を観察し始めます。そして、そこで得られた発見を元にさまざまな取り組みを行うことでこの問題の原因と解決法を探ります。
 およそ18ヶ月の辛抱強い取り組みを経て、アレクサンダーはこの問題を克服したのです[2, p.36 (★1)]。
 この探究によって得られたアイデアや学びが、今日のアレクサンダーテクニークのベースになっています。


 話が大分迂回してしまいました。今回はアレクサンダーテクニークのレッスンの話をしようと思っていたのです。

 自身問題を解決したアレクサンダーは、1894年ごろから自分と同じような問題で困っている人へ向けたレッスンを始めます。
 当初は、呼吸の仕方に潜む良くない癖を改善することによって、歌うため、話すためのよい声を生み出す方法を教えていました。
 アレクサンダーのレッスンは、喉の痛みや吃音を改善することが出来ると評判になり、彼の名前は「呼吸を改善する」スペシャリスト、「The Breathing Man 呼吸屋 (★2)」という通り名が付けられるほどになりました [3, p.44]。

 結局、アレクサンダーはオーストラリアで10年ほど教え続けます。
 アレクサンダーのレッスンは呼吸の問題だけでなく一般的な健康に関する問題を改善できる知られるようになっていきます。
 アレクサンダーは多くの医師から自分の手には負えなくなった患者を紹介されるようになりました。

 1904年、アレクサンダーは周囲にいた医師たちの勧めもあり、競馬で一発当てた資金を元手にして(★3)、それまで活動していたオーストラリアのメルボルンからイギリスのロンドンへと旅立ちます。
 それから亡くなる1955年まで、ロンドンを中心として活動し、そのテクニークによって非常に多くの人々を助けました。


【筆者による注釈】
★1: 以降、カッコ内の左の数字は参考文献の番号を、右の"p"から始まる数字は参照したページ数を表すことにさせてください。
★2: 「The Breathing Man」という呼び名をどう日本語にするか非常に迷いましたが、スペシャリストのことを「〇〇屋」と呼ぶこともあるな、と思い、「呼吸屋」としてみました。「家」かな?とも思いましたが、ファミリーってわけでもないので「屋」に。マンガ「ONE PIECE」でトラファルガー・ローがルフィのことを「麦わら屋」と呼んでいるのもちょっと参考にしました。
★3: F. M. アレクサンダーは競馬狂いで、生涯にわたり馬券を買い続けたというエピソードが残っています[2]。しかもアシスタントを馬券を買いに走らせていた、という話もあったような・・・。


レッスンに関する一般的なこと


 上に書いたように、アレクサンダーテクニークはまず第一に自分に働きかけるものとして始まり、それから人に教えられるようになりました。

 そもそも、なぜレッスンを受けるのでしょう?

 それは人の助けを借りた方が遥かに速くアレクサンダーテクニークの原理を身につけ、自らの問題の解決の助けにすることができるからだと私は思っています。

 それでは、実際のアレクサンダーテクニークのレッスンではどのようなことが行われるのでしょうか?
 アレクサンダーが教えていた当時から、レッスンの基本は「言葉による説明」と「教師の手を使った穏やかなガイダンス」です。
 ただ、これではどんなことをするのか、なかなかイメージがわかないと思います。

 そこで。

 前回紹介したSTAT (the Society of Teachers of the Alexander Techniqueの略称です)のウェブサイトにレッスンに関する一般的なガイドラインが書かれているので、私の(大雑把な)日本語訳で紹介します。(参考: https://alexandertechnique.co.uk/learning-it/learning-alexander-technique )
 
 あくまでも一般的なものなので、細かなところは教えている方やレッスンを受ける方によってかなり差が出ると思います。
 「レッスンでは大きな枠で見ると、こんなことをしています」という感じでご覧ください。
 なお、レッスンは基本的に対面の1対1で行われています。最近は世の中の状況もあり、オンラインでのレッスンを行なっている方もいます。


  • 多くの場合、まず初めにレッスンを受けにきた理由について話を伺います。次に、教師がレッスンによってどのようなことが起こるかを説明します。

  • 座る、立つ、歩く、膝を曲げる、といったシンプルかつ日常的な動作を行う中で、教師は熟練したハンズオンによる(手を使った)ガイドと言葉による説明を用いながらレッスンを進めます。

  • レッスンは横になった状態で行われることもあります。これはアレクサンダーテクニークで伝統的に用いられているセミスーパイン semi-supine (★4)と呼ばれる姿勢です。セミスーパインは、背中を緩め、広く伸ばすために必要な最大限のサポートを与えてくれます。

  • レッスンの中で激しいエクササイズの類を行うことはありませんが、あなたの活発な参加、アクティブな働きかけが欠かせません。

  • レッスンには動きを制限しない服装で来てください。ズボンやレギンスが理想的です。靴やスリッパの類は脱ぐようお願いする場合もあります。


 レッスンで取り上げるのは上に書いているような日常的な動作が多いのです。が、楽器の演奏やヨーガのポーズ、車の運転姿勢、デスクワークの時のパソコンに向かう姿勢など、「あなたにとって日常的な動作」であればどんなものでも可能です
 是非、相談してみてください。
 
 読んでみて、「活発な参加」ってなんだ?と思われたかもしれません。この点についてはまた改めて書きたいと思っています。

また、時間や料金についても同じページにガイドラインがあります。


  • 1回のレッスンは30~45分くらいです。

  • どのくらいの回数のレッスンが必要かは、レッスンの進度やあなたの目指しているところによって決まります。多くの人が初めの1回目のレッスンからメリットや利点を感じています。20回から30回の継続的なレッスンによって、あなたが日々の生活の中でアレクサンダーテクニークを用いることができるようになるための十分な基礎を学ぶことができるでしょう。

  • レッスンの料金は、どこでどのように教えているか、によってさまざまです。詳細は習いに行こうと考えている教師に問い合わせてください。

  • アレクサンダーテクニークは様々な場所や施設で教えられています。また、多くの教師は自宅でレッスンを行なっています。


 教えてくれる方を探す方法は前回の私の文章を参考にしていただければと思います。(以下をクリックしていただければ、そのページに飛べます。)
 「アレクサンダーテクニークのレッスンを受けるには?」


【筆者による注釈 その2】
★4: セミスーパインの姿勢については改めてどこかで紹介しようと思っています。このページではまず、STATの説明ページを参考に紹介します(参考: https://alexandertechnique.co.uk/learning-it/semi-supine  )。
 日本語で参考にできる資料としてはリチャード・ブレナン著 青木紀和訳『アレクサンダー・テクニーク完全読本』[4] の134−135ページが良いと思います。

私の初めてのレッスン

 
 私は2018年10月初めてアレクサンダーテクニークのレッスンに行きました。演奏している時のことが知りたかったので、楽器(クラリネット)も持って行きました。
 初めてのレッスンは概ね上に書いたガイドラインのように進みました。まず最初に、なぜ受けようと思ったのかを話し、それから楽器を出す前にマッサージテーブルの上に仰向けに横になり、レッスンが始まりました。
 そのあとは、椅子に座った状態でまた少し教えてもらい、それから座った状態でも楽器を持ち、演奏中の状態をみてもらいました。
 そうしてレッスンの最後にようやく音を出しました。

 すると!

 なんともラクにリッチな音が出るのです。「これでこんな音出るのか!」くらいの感触でとにかく驚いてばかりいました。
 びっくりしすぎて「おおおおおおお!」とか叫んでいたと思います。

 何が変わったのか?説明してはもらいましたが、実際のところ私自身に実感がほとんどありません。わかるのは音が変わったことだけ。その時はまだ気がついていませんでした。でも何かが確実に変わっていたのです。

 そこから、です。
 何がどうなっているのか知りたい!という思いで2回目のレッスンを予約し、それが積もり積もって今に至っています。


さいごに


 ここまで読んでいただきありがとうございました!
 今回はレッスンでどんなことをしているのか、を私の経験を含むいくつかの観点から書きました。

 備忘のため、今後書こうと思っているテーマを以下に残しておきます。

● なぜ、レッスンを受けるのか? -- 主に効果の観点から
● 「活発な参加」ってどういうこと?
● セミスーパインの姿勢について

以上、今回はここまでです。 Have a nice day!


参考文献

[1] F. M. Alexander: “The Use of the Self”, Orion Spring (2018) (Originally published in 1932 from Methuen & Co. Ltd.)
[2] M. Bloch: “The Life of Frederick Matthias Alexander”, A Little, Brown (2004)
[3] R. Brennan: “How to breathe”, Eddison Books Limited, (2017)
[4] リチャード・ブレナン著 青木紀和訳: 『アレクサンダー・テクニーク完全読本』 医道の日本社 (2016)




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