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ひとりで始めるアレクサンダーテクニーク
私がアレクサンダーテクニークの入門書を次から次へと読んでいた頃、どの本を読んでもほぼ必ず最後の方で「レッスンに行ってみてください!」と書かれているの見て、「・・・なんだよ、結局宣伝かよー」と思い、少しがっかりしていました(冒頭から書いている本もたしかあったので、ほぼ、と書きます)。
せっかく本を買って読んだのだから、自分が今この場でできることをもっと教えて欲しいという思いが強かったのだと思います。今思うと出来ることは結構書いてあった上に、大切なポイントを分かっていない状況で費用対効果をひたすら追求しようとしていたなぁ、と反省してしまいます。
とはいえ、「入門」の時点では全くわからないわけでそうなるのもムリはないよなぁ、とも思います。複雑。
ところで、私もここで書いている文章で「レッスンに行ってみようかな」と思ってもらえると嬉しい、と書いてきました。私が読んできた入門書と同じことを言っています。知ってほしい、と思っているという意味では宣伝です。力なんてほとんどないかもしれませんが・・・。
私が読んだ入門書の著者の方がどのように考えていたのか私にはわかりませんが、私がこのように書く理由の1つは、そうした方が「効率が良い」と考えているからです。もう1つは「経験に勝るものなし」と思うからです。
アレクサンダーテクニークというのは詰まるところそれを用いるその人自身のためのものですし、自分で自分のために用いるものです。教師はそれを手助けするためにいる存在に過ぎません。
ことアレクサンダーテクニークに関していえば、他の人の力を借りられるとより早くいろいろなことを経験し、理解することができます。少なくとも私の経験では、この助けの力が非常に大きかった。
アレクサンダーはおよそ18ヶ月もの間、自分ひとりで様々な実験を繰り返すことで自身の声の問題を解決しました。ですが、もし彼の周りにアレクサンダーテクニークの原理を理解し助けてくれる人がいたならば、アレクサンダーは地震の問題を3分の1くらいの期間で解決してしまったのではないかと思います。3分の1・・・というのはあくまで私個人の雑な見積もりです。それでも、18ヶ月よりも早かっただろうことは間違いありません。
とはいえ、人それぞれ事情はさまざま。レッスンを受けたことがあってもなくても、ひとりで始められることがあるならその方が便利です。
今回はアレクサンダーテクニークに関するひとりで始められることについて書いてみます。
あなたにはどんな習慣や癖がありますか? -- Awareness
まずはもう一度、これまで追ってきたアレクサンダーのストーリーを振り返ってみます。(参考:https://note.com/ytatlab/n/n5867f07d70ca)
アレクサンダーは、朗誦を行っている間に声がかすれてしまうという問題に悩まされていました。問題が朗誦を行っている間に起こっていることから、アレクサンダーは自分が朗誦を行っている間にしていることのうちの何かが原因であると考え、それを見つけるために鏡の前で自分が朗誦をしている様子をひたすら観察し、自分が行っているよくない体のつかい方を探していました。
ではこのとき、アレクサンダーは何をしようとしていたのでしょうか?
繰り返しになりますが、アレクサンダーは朗誦をしているときに自分がいつもしてしまっていることが何なのかを解明しようとしていました。「自分がいつもしてしまうこと」、それはつまり、朗誦をしているときの癖や習慣を見つけ出そうとしていたということです。
私たちにもたくさんの習慣や癖があります。そのうちのいくつかは、私たちが実際にそれがあると知っている習慣です。つまり、自分にそういう習慣や癖があることを自覚しています。
例えば、これは私の場合ですが、お箸は右手で持つ、歯は右の奥歯から磨く、腕を組むときは左腕が上にくる、座っているときに左の足首の上に右の足首を載せて重ねがち、とかでしょうか。
一方で、自分でも気がついていない習慣や癖というのも実はたくさんあります。例えば口癖など、人に言われて初めて気がついたという経験がある方もいると思います。私はクラリネットを吹いているときに右手の親指がすごく反っていたのですが、これは指摘されるまで気がつきませんでした。
自分で気がついていない習慣に自分で気が付く、というのは簡単なことではありません。アレクサンダーが鏡に映った自分をひたすら観察し、奮闘していたのはこの「自分で気がついていない自分の習慣」を見つけ出すためだったのです。
* * * * *
気が付くという点でいうと、例えば、あなたは今この文章を読んでくださっているわけですが、あなたの足はいまどんな状態にあるでしょうか?
座っているとしたら、足の裏は両方とも床についているでしょうか?どちらかの足を組んでいる?片足を少し前に出しているでしょうか?
立っているのならば、どんな風に立っていますか?
このように尋ねられるとこれまで全く気にしていなかったのにもかかわらず、急に自分の足がどうなっているかに目が向くようになるのではないかと思います。
ここで考えていただきたいのは、その足の状態って自分がそうしようと思ってしたものなのかな?という点です。ひょっとすると、自分でも気がつかない間にそうなっていたのかもしれません。
これに良いとか悪いとかは全くありません。ただ、もし気がつかずにそうなっていたのであれば、それがあなたの習慣・癖なのかも、と気が付くきっかけの1つにできます。
自分の癖や習慣に気が付く、というのがアレクサンダーテクニークの第一歩だと私は思っています。そうして気がついた癖・習慣の中には自分にとって良いもの・自分を助けてくれているものもあれば、自分にとってよくない影響を与えているものもあります。
どんな影響を受けているかよくわからない癖や習慣、というのもあるとは思います。自戒を込めて書きますが、毎日飲んでいるサプリメントにどんな効果があるのか実感がないまま続けていた、なんて割とよくある気がします。
* * * * *
煎じ詰めると、アレクサンダーテクニークは、自分が気がついた癖や習慣のうち、自分によくない影響を与えている癖や習慣を変えることでより健康に、より楽に、より楽しく生きられるような手助けをしてくれるもの、だと私は考えています。
少なくとも、そのような働きをするテクニックだと言ってよい、というのが私の実感であり、アレクサンダーテクニークが大切にしている原理はどのようにその習慣を変えていくかをサポートしてくれるものです。
例えば、前回書いた「Use and Functioning」のような考え方は自分が見つけた習慣にどのように向き合うかを教えてくれます。
つまり、普段の自分にどんな習慣や癖があるかに気が付くこと、これがひとりではじめるアレクサンダーテクニークの第一歩になります。
仕事をしているとき、自分はどんな風に椅子に座っているだろうか?
お皿を洗っているとき自分はどんな風に立っているだろう?
そんな日常の一コマに目を向けることが自分の習慣や癖に気が付くきっかけになります。
これは精神的なことでも同じです。ふとイライラしてしまうようなことに出会ったときに自分がいつもどんな反応をしているのか、というのも習慣や癖だと言えるからです。
その意味で、習慣や癖というのは「刺激に対して行う決まった反応の仕方」だとも言えます。ちょっと面倒なことを言いますが、例えば座っているとき、私たちは「椅子」という物理的な刺激を受け取り、それに反応して様々な座り方をしています。
おそらく、パイプ椅子とソファでは違う座り方をしますよね?これは、それぞれ違う椅子という刺激に対して反応した結果だと言えます。また、普段はほとんど意識しませんが、座面の座り心地が悪いといろいろと座り方を変えたりしますよね。それも刺激に対する反応、ということです。
ということは、アレクサンダーテクニークは、この「刺激に対する自分の決まり切った反応の仕方を変えるための手法」であるとも言えます。
セミスーパインの姿勢を紹介します。
とはいえ、ひとりで始めるアレクサンダーテクニークの第一歩が「自分のそれまで気がついていなかった習慣や癖に気がつきましょう」ではなんだか狐につままれたような気分になるのではないかと思います。
もうちょっと具体的なことを!と思われる方もおられるのではないでしょうか?
以前、アレクサンダーテクニークのレッスンでどのようなことが行われているかを説明した際に、セミスーパインの姿勢でレッスンが行われることもある、と書きました。
そこで、今回はこのセミスーパインも紹介したいと思っています[1, 2, 3]。
そもそも、このセミスーパインという姿勢をなぜ用いるのでしょうか?
私たちのほとんどは、普段自分の筋肉がどれくらい緊張しているかに気がつかずにいます。この筋肉の緊張は多くの年月をかけて少しずつゆっくりと蓄積したものであり、その状態で毎日過ごすがゆえに自分にとって当たり前のものになっているからです。
ですが、この緊張が姿勢や動きも含めた私たちの身体の健康だけでなく、精神的な健康にも影響を与えています。
セミスーパインの姿勢はこのような緊張を和らげるための助けになります。なぜなら、この姿勢は床に横になる姿勢であるため、立っているときや座っているときとは違って体が普段受けている重力の影響から離れられ、背骨やその周りの筋肉が本来の長さを取り戻すきっかけを得ることができるからです。また、精神的にも落ち着きます。
おひとりでも始められます。1日10分から15分くらい十分ですので、セミスーパインの姿勢を試してみてください。
この姿勢は背中や腰に痛みや不調がある方にもオススメです。
以前、この姿勢をヘルニアによる腰痛がある友人に試してもらったことがあるのですが、数日試した後に楽になってきたとおしえてくれました。
そういう意味では、この姿勢は自分に行える「小さなアレクサンダーテクニークのレッスン」と言っても良いと思います。
余談ですが、私が通っているクラスでは「セミスーパイン」という言葉を使うことはほとんどありません。普段はただ「横になる Lying down」と言っています。慣れているからというのもありますが、身も蓋もありません。
特別な呼び名が必要なときも「セミスーパイン」ではなく、「アクティブレスト Active Rest」という言い方をしています。ちょっと硬いですが、日本語にすると「活発な休憩」というところでしょうか。
以前の文章でアレクサンダーテクニークのレッスンでは受ける側の「活発な参加 Active participation」が大切と書きましたが、この「活発 active」は「アクティブレスト」の「アクティブ」と同じことを表しています。(参考:https://note.com/ytatlab/n/n55cc39ac582c )
休憩なのに活発?と思われるかもしれません。その秘密は、この後で!
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具体的なやり方は以下を参考にしてください。
太字を追っていただければ大まかなやり方がわかると思います。細かい注意事項も追記していますので、気になることがあればそちらも参考にしてください。
● 数冊の本や枕の上に頭を乗せ、マットやラグ、カーペットを敷いた床、畳の上のようなしっかりした面で横になる。
【ポイント】
# 本や枕は頭が後ろ(この場合は床方向)に引っ張られ下がってしまうのを防ぐために用いています。
# 「アゴが額よりも上がってしまわないくらい」が本の高さの目安です。低すぎるよりは高すぎる方がましです。あまり厳密に考えず、不快でない高さを見つけてください。
# 本は文庫本や新書などのカバーの柔らかいものの方が良いです。もしそれでも表面が固く感じられる場合は上にタオルなどを敷いてください。
● 膝を曲げ、足の裏全体を床につけ、膝は天井の方を向くようにする。
【ポイント】
# 足裏は不快でない範囲でなるべく骨盤に近づけてください。これにより背中・腰あたりの緊張がより解放されやすくなります。
# 足は肩幅程度に開いてください。
# もし足が内側に倒れるようでしたら、足と足の間が離れ過ぎているサインなので少し近づけてください。外側に倒れるようでしたら、少し離すようにし、膝が真上を向く位置を探しましょう。
# 腕はお腹の上で重ねる、床におろす、どのような形でも良いです。その日一番心地よい場所を探してください。
姿勢としてはこれで準備完了です。私の下手な絵で伝わるかわかりませんが、こんな感じになると思います。
![](https://assets.st-note.com/img/1645986609361-58Lef2kSTM.png)
ここからはいくつか姿勢に関するヴァリエーション。
股関節に痛みや不調がある方は、膝を立てずに足を真っ直ぐ伸ばした姿勢をオススメします。その際、膝の下にクッションや座布団を敷いて、その上で足を休ませてあげてください。
![](https://assets.st-note.com/img/1645986820139-cS2meJMhvw.png)
背中・腰、股関節の両方に不調がある方は椅子を用いると良いです。骨盤を椅子に近づけ、足を椅子の座面に乗せて膝が90度の角度で曲がるようにしてください。
![](https://assets.st-note.com/img/1645986679897-eD2PKQjOTy.png)
* * * * *
ここからは姿勢をとった後のステップについてです。
セミスーパインの姿勢になったらまずは気持ちが落ち着くのを待ちましょう。ざわざわしている頭や昂った神経を穏やかにし、落ち着かせる。
これもこの姿勢を行う理由の1つです。
さて、先ほど書いた筋肉の緊張によって、あなたの体の筋肉は短くなり、体は全体として縮こまってしまっています。
この状態をリリースしていくため、自分の体に「長く伸びる」「広がる」というような指示(メッセージと言っても良いかもしれません)を送ってみてください。
例えば、右肩と左肩がお互いに離れていく、といった体のある部分が他の部分から離れていくメッセージや、背中が広くなって床とより触れ合うようになると言ったメッセージは、上で話した緊張を和らげる助けになります。シンプルに言うと「固くなっている私の肩が柔らかくほぐれたらいいなぁ」と考えるので良いと思います。
「急にどうした!?」と思われるようなことを言っているかもしれません。
しかし、この姿勢を「アクティブ」と呼んでいる理由はここにあります。頭の中で「そうなってほしい」と思っていることを考える、メッセージを送るという活動を指して「アクティブ」「活発な」と言っているのです。
アレクサンダーはこのようなメッセージを「ダイレクション direction」と呼びました[4, p.35]。呼び方はさして重要ではないですし、覚える必要もありません。
ここで大切なポイントは、「ダイレクション」を送る際には、それについて考えるだけ(メッセージを送るだけ)で何かをしようとしない、というところにあります。
友人にテキストメッセージを送るときと同じです。或いは、大人はもうしていないでしょうが、サンタクロースにクリスマスプレゼントのお手紙を書くのと同じ感じです。サンタクロースに手紙を書いた子どもはあとはひたすら楽しみに待ちますよね?そんな感じです。
ところで、実のところ「考えるだけで何かをしようとしない」というのは案外難しいものです。
「考える」ということが1つの刺激になって、「何かをする」ことで反応しようとしてしまいがちだからです。端的に言うと、考えたことをしたくなってしまう。或いは、考えたことが実際に起こってほしいと思い、それをしようとしてしまいます。
しかし、ここでは、そのように反応してしまう自分と一旦距離をとり、自分自身を落ち着かせましょう。ダイレクションは送るだけで良いのです。何を言ってるんだという感じかもしれませんが、それによって何が起こるかなんてまずは傍に置いておくことが大切です。
このようにしてこのセミスーパインの姿勢で少しの時間過ごしてみて、どんなことが起こるのかを観察してみてください。
なお、もし、試してみて不快だった場合には直ちに中止し、もし良ければアレクサンダーテクニークの教師に相談してみてください。あなたにあったより良いやり方を見つけてくれるはずです。
さいごに
今回は「ひとりではじめるアレクサンダーテクニーク」と題して、セミスーパインの姿勢などを紹介しました。
繰り返しになりますが、今回わたしは
アレクサンダーテクニークは、自分が気がついた癖や習慣のうち、自分によくない影響を与えている癖や習慣を変えることでより健康に、より楽に、より楽しく生きられるような手助けをしてくれるもの
と書きました。
アレクサンダーテクニークはこのように自分が刺激に対してどのように反応しているか(つまり習慣や癖)に気がつき、どのように反応するかを問い直すきっかけを与えてくれます。もちろん、以前と同じように反応しても良いわけですが、気がつかずにそれをしているのと、気がついてそれをしているのでも大きな違いがあります。
この文章が何かの助けになれば嬉しいです。
今回、話の流れで「ダイレクション」と言う専門用語を使ってしまいました。この「ダイレクション」もアレクサンダーテクニークの重要な原理の1つです。
次回はアレクサンダーのストーリに戻って、この「ダイレクション」とそれに関わるもう1つな原理について書ければ良いなー、とぼんやり考えています。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
Have a lovely day!
参考文献
[1] Irish times “Five Experts, five tips: How to maintain good musculoskeletal health, Feb. 11, 2021 (https://www.irishtimes.com/five-experts-five-tips-how-to-maintain-good-musculoskeletal-health-1.4467379)
[2] STAT website: Semi-Supine (https://alexandertechnique.co.uk/learning-it/semi-supine )
[3] リチャード・ブレナン著 青木紀和訳: 『アレクサンダー・テクニーク完全読本』 医道の日本社 (2016)
[4] F. M. Alexander: “The Use of the Self”, Orion Spring (2018) (Originally published in 1932 from Methuen & Co. Ltd.)
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