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【イタリアの安田侃 vol.6】 シチリアのタオルミーナで「現代の神話」展を開催

2011年12月から2012年2月にかけて、イタリア・シチリア島のタオルミーナで安田侃の野外彫刻展が開かれました。

シチリア島内4ヶ所で4人のアーティストが各自展示を行う国際芸術祭「現代の神話」展の一環として、安田侃がタオルミーナの町を任されたのでした。あまり知られていないが魅力ある場所の認知度を上げるとともに、オフシーズンの観光客の誘致を狙った、州を挙げての文化事業です。ギリシャ、ローマ、イスラムと支配者が変わってきた中で、異文化の出会いが化学変化をもたらすことをよく知っているシチリアならではの企画といえます。 

タオルミーナといえば青い海、映画「グラン・ブルー」の舞台としても有名ですし、古代劇場からエトナ山とイオニア海が一望できる景色はドイツの文豪ゲーテが世界一だと賞賛しました。

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↑ 9月4日広場に設置された《帰門》

安田侃にとっては、イタリアの各都市で開いてきた展覧会に一つの区切りをつける機会にもなりました。ゴシックのミラノ、ルネッサンスのフィレンツェ、中世のアッシジ、古代のローマと、半島を北から南に移動しながら、時代をさかのぼってきました。ミラノ展の1991 年からあしかけ20年、タオルミーナで紀元前にたどり着いたわけです。(次はパルテノン神殿でしょうか?)

古代劇場での設置は、経験豊富な安田侃にとっても感慨深かったようです。「2300 年前のギリシャ人が建てた劇場に、20人の男たちがソリに乗せた彫刻を綱で引き入れる光景は忘れがたい」。搬入路がないためやむなく人力で行われた作業風景は、時空を超え、まさしく古代のようだったことでしょう。

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現代彫刻が古代劇場に設置されたのはこの時が初めてでした。アートディレクターがカタログに次のように記しています。「ホワイトブロンズの《意心帰》は前からそこにあるかのようで、歴史と自然とハーモニーを奏でている。この彫刻によって、劇場の建築も古さを感じさせず、むしろ信じられないほど新しく見える」と。毎夏、映画祭やコンサートが行われているとおり、ギリシャ人が作り、ローマ人が改装し、イタリア人が守ってきたこの場所は、タオルミーナにとって決して〈遺跡〉ではなく〈生きた劇場〉なのです。

神話は文化に宿り、歴史が証明してくれると信じるイタリア 人。「現代の神話」を求め続ける彼の国の、文化芸術に対する姿勢には、いつも頭が下がります。

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