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【イタリアの安田侃 vol.5】 彫刻家のメッカ・ピエトラサンタで個展

安田侃がアトリエを構えている町ピエトラサンタ。フィレンツェやピサと同じトスカーナ州にある、海と山に挟まれた小さな町ですが、聖なる石(ピエトラ=石・聖なる=サンタ)の名の通り、カッラーラとともに古代ローマ時代から石を切り出す大理石の産地として世界に知られています。

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ピエトラサンタの中心、ドゥオーモ広場にあるバール・ミケランジェロ。ミケランジェロがフィレンツェのサン・ロレンツォ教会を作るために大理石を求め数ヶ月滞在、1518年にここで契約書を交わしたことが壁の石板に記されている

イサム・ノグチやヘンリー・ムーア、ハンス・アルプをはじめとする多くの彫刻家が、質のいい白大理石とミケランジェロの時代から引き継がれる職人の技術を求め、この町に滞在しました。今でもアーティストが多いことから「小アテネ」と呼ばれ、白大理石の工房だけではなくブロンズ鋳造所などもあり、彫刻家の創作活動をサポートしています。

安田侃がこの町にたどりついたのは、ローマのアカデミア美術学校で師事していたペリクレ・ファッツィーニ(1913〜1987、彫刻家)のおかげでした。大理石を彫りたいなら石職人に学ぶべきだと紹介してもらった石屋の親方が、石を仕入れるために出かけていた町がピエトラサンタだったのです。 1974 年にアトリエを構えてからずっとこの地で制作を続けています。

1995 年、それまでグループ展しか開かなかったピエトラサンタ市から、安田侃は初めての個展をオファーされます。ドゥオーモ広場と周辺の歴史地区に18 点の作品が設置されました。

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市⺠にとって身近な大理石という素材でありながら、初めて見る形。東洋的な印象を与えつつも、周囲の中世建築と違和感なくなじむおおらかさ。巨大であるのに、重さを感じさせない浮遊感。台座のない、自由に触れられる彫刻は、すぐに子供たちの人気の的になりました。一方で、一個人の展覧会に反対する署名が出回るなど、賛否両論がありましたが、結果的に安田侃展の評価は高く、以後野外での個展は、夏のイベントとして定着していきます。

以前は仕事を終えた彫刻家や職人が集っていたドゥオーモ広場も、近年はオシャレ なレストランやギャラリーがオープンし、夏には観光客が多く訪れるようになりました。市⺠には 昔の素朴な雰囲気を懐かしむ声もあるとか。それでもピエトラサンタはもう一つの二つなの通り「彫刻のメッカ」であり続けています。

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Kan の彫刻と遊んでいた子供たちの中にはいつまでもその体験を忘れることができなかった人もいて、「あの展覧会のおかげで彫刻家を目指しました」と打ち明けられることがあるそうです。