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【#2】書籍『不格好経営』から内省を学ぶ

タイトルの通り、株式会社ディー・エヌ・エー創業者である南場智子さんが書かれた『不格好経営』について話したい。

『不格好経営』の概要

『不格好経営』では、南場さんがディー・エヌ・エーを創業し、現在に至るまでの体験について赤裸々に語られている。断面だけを切り取った成功体験談の書籍は世の中に多く出回っているが、本書のように挑戦と失敗について語られたものはそこまで多くないのではないかと思う。
言い換えるならば、経営を「美学」的な側面から語るのではなく、「実用」的な側面から語るというある種の実用的経営哲学とも言えるものだ。

常に変化する市場の中で、柔軟に対応し、時には従来の枠組みから外れ、検証と改善を反復し、サービスを磨き上げていく、真っ白で洗練された美しい面ではなく、泥臭く生々しい経験がそこにはあったのである。同時に、従業員の自主性を尊重し、多様な意見が経営に反映される文化の重要性についても強調されているようにも思う。

私個人としては、世に溢れる成功の言語化よりも、本書を通した成功に至るまでの企画→実行(挑戦)→検証→分析→再実行というプロセスの詳細な言語化による学びが非常に大きかったと言える。

インターネット黎明期のディー・エヌ・エー創業

1999年、南場さんがディー・エヌ・エーを創業した時期は、インターネットが社会に広く普及し始めた黎明期にあたる。
当時インターネットはまだ新しい技術と見なされ、その将来性やビジネスへの応用は広く認識されていなかった。
しかし、南場さんはこの新しい技術の潜在能力を見抜き、モバイルインターネットサービスの提供を通じて新たな市場を切り開いていったのである。
ディー・エヌ・エーの創業以来、同社はモバイルゲーム、eコマース、オンラインオークションなど多岐に渡る事業を展開し、技術革新とユーザーのニースに応える形で成長を続けていったのである。

マクロ的視点で見ても、インターネット黎明期というのは、今日私たちが利用しているデジタルとそれが実社会に浸透したデジタル社会の基礎が築かれた時期である。1990年代後半から2000年代初頭にかけて、インターネット技術の発展と普及は、情報のアクセス方法、コミュニケーション方法、ビジネスモデルに革命をもたらした。
この時期に創業された企業は、高いリスクと不確実性の中で事業を展開したが、同時に大きな機会を秘めていたのである。ディー・エヌ・エーも、この機会を捉え、革新的なサービスを次々と市場に投入することでインターネット事業の発展にも貢献したのである。

<補足>インターネット黎明期の企業

インターネット黎明期に事業を立ち上げ、現代にもその名を残す企業は、テクノロジーやビジネスモデルの革新により、社会や産業に大きな影響を与えてきた。インテリジェンスやライブドアのように、この時期に創業された企業は新しいインターネット技術を活用し、従来のビジネスやライフスタイルを変革していったのである。以下に、その代表例をいくつか挙げる。

インテリジェンス(現:パーソルキャリア)
・創業者:森川亮
・設立:1989年
・事業概要:インテリジェンスは、求人情報サービスをインターネット上で提供することで知られている。特に新卒採用市場において強みを発揮し、企業と求職者をつなぐプラットフォームとして成功した。
・情報技術の進展により、求職者と企業のマッチングプロセスを効率化し、より多くの機会を提供、採用市場における情報の透明性を高めた。

ライブドア(旧:オン・ザ・エッジ)
・創業者:堀江貴文
・設立:1996年
・事業概要:ライブドアは、ポータルサイト運営から始まり、メディア、金融、ITインフラなど多岐にわたる分野で事業を展開。成長戦略として積極的なM&Aを行った。
・ライブドアは、インターネットビジネスの可能性を大衆に広く認識させると同時に、企業経営や資本市場に関する議論を活性化。その後の法制度や市場ルールの見直しに影響を与えた。
・前身である「オン・ザ・エッジ」は、当初インターネット関連のビジネスを手掛けるベンチャー企業としてスタートした。この会社は後にライブドアとしてより広く知られるようになるが、創業時からその特徴的な事業展開と急速な成長で注目を集めた。
・オン・ザ・エッジの中核となる事業は、インターネットを利用した情報配信サービスにあった。主にウェブポータルサービスを提供し、ユーザーに多様な情報やサービスを提供することで、インターネット利用者の生活に密着したビジネスモデルを構築している。
・ポータルサイト:インターネットの普及とともに、オン・ザ・エッジは情報ポータルサイトとしての機能を強化。ニュース、天気、スポーツ情報など、多岐にわたるコンテンツを提供。
・メールサービス:ユーザーに無料で提供される電子メールサービスも展開し、利用者の獲得と囲い込みを図る。
・ブログサービス:ユーザーが自身のウェブサイトやブログを簡単に開設できるサービスを提供し、個人の表現の場としてのインターネットの利用を促進。
・オンラインオークション:eBayに代表されるオンラインオークション市場においても、オン・ザ・エッジは自社のプラットフォームを展開。個人間の商品売買を仲介するサービスを提供。
・金融サービス:後には金融関連のサービスにも進出し、オンラインでの証券取引や金融商品の販売を手掛けるなど、事業の多角化を図る。

Amazon
・創業者:ジェフ・ベゾス
・設立:1994年
・事業概要:オンライン上での書籍販売からスタートし、現在では電子商取引のプラットフォームとして、あらゆる商品の販売、クラウドコンピューティングサービス、デジタルコンテンツの配信など幅広い事業を手掛けている。
・Amazonは、消費者のショッピング体験を根本から変え、オンラインでの販売と物流の効率化により、グローバルな電子商取引市場の発展を牽引した。

Google
・創業者:ラリー・ペイジ、セルゲイ・ブリン
・設立:1998年
・事業概要:インターネット検索エンジンを核とし、広告収入を主軸に据えるビジネスモデルで成長。その後、クラウドコンピューティング、スマートデバイス、人工知能など、多方面に事業を拡大している。
・Googleは情報検索の方法を革新し、インターネットを利用する上で不可欠な存在となった。また、技術革新を通じて、デジタル経済の発展に大きく貢献している。

『不格好経営』について

ここでは、私が『不格好経営』を読み、特に印象的だったパートを掻い摘んでご紹介したい。今回記載したものに限らず、読み手よって様々な解釈や気づきが得られるような一冊となっているので、是非とも皆さん自身で手に取り、読んで欲しいというのが本音である。

失敗の体験談を綴ったワケ


世に出回っているビジネス書というのは、「成功」に焦点を当てた結果論について書かれたものが多い。全く同じことを再現しても成功するとは限らない、むしろ失敗する企業の方が多いのではないだろうか。
そういったこともあり、恥ずかしい失敗の経験を赤裸々に語る本書は、事業を作る方、あるいは組織の一員としてより良いサービスを提供したいと考えている方にとって、目の前に立ちはだかる高い壁を乗り越えていくバイブルになるだろう。

苦しい時に意識する3つのこと


一つ目は、「苦境ほど素晴らしい立ち直り方を魅せるステージ」だと張り切ること。本書では、我々が想像し得ないような問題の数々が生々しく書かれている。「あるべき姿」とは程遠い、事業というものが企画の段階からどれだけ練られていたとしても、創造の過程で様々な「現状」が浮き彫りになっている。そんな「あるべき姿」と「現状」のギャップをどのような行動力で修正していったのかが順を追って理解していくことができる。

二つ目は、「後から振り返り、あれがよかったと言えるプラスアルファの広いものをする」こと。
ディー・エヌ・エーの強みというのは、事実を事実のままで終わらぜず、多くのメンバーの力を借りながら、顧客第一のサービスを追求したいった点があるだろう。これはインターネット事業では欠かせない要素であり、顧客がどんな動機(ストーリー)があり、自社サービスと接点を持つのか。そして中長期的にどうすればロイヤリティを持ったユーザーとして残ってくれるのか。そんな顧客目線にも触れられている。

三つ目は「命をとられるわけではない」ということ。
日本は豊かで、国民一人ひとりに優しい国であると言えるだろう。努力次第では人生を変えることができる。決意し、立ち上がれば自身の「やりたい」を実現するような会社・事業を自由に創造することができる。衰退国家と言われながらも、数々なビッグベンチャーが登場しているのも、ある程度のリスクはありながらも、最低限のサポート体制がかろうじて残っていることが関係しているようにも思う。

コンサルタントとしての驕り


南場さんは、経営者としてのキャリアだけではなく、マッキンゼーというグローバルコンサルティングファームでパートナーを務めていた経験もある、いわば会社員としてのトップキャリアとも言える実績も有している。
しかし、彼女によると「コンサルタントと経営者は全く異なる」というのだ。
コンサルタントはクライアントである企業の課題を解決する職業である。それは企業文化を理解し、経営やそれに関わる様々な変数を鑑みて施策の提案をするということであり、企業の参謀としての立ち位置からビジネスに関わるのである。
だが、「言うのとやるのとでは大違い」であり、そんな「もっとこうすれば良いのに」というある種のもどかしさがあったこと、そしてある経営者からの言葉に衝撃を受け、ディー・エヌ・エーの創業に至るというエピソードについても語られている。
まさに会社員から経営者へ移行する瞬間が垣間見えるパートだ。

サービス提供におけるせめぎ合い


サービスを作り、世に出すにあたって、課題となることの一つが資金繰りであろう。複数の企業から出資を受け、いよいよサービスが形になりつつある場面で、サービス名やその他の検討事項にはそういった出資者を考慮した判断が求められることも多い。
そういった葛藤の中で、南場さんはサービス名は自社で新しい名前を決め、出資構成を決め、それを公言することになる。これはまさに「意識決定」であり、私自身、特に印象に残っているエピソードの一つである。

ホームランを狙え


ディー・エヌ・エーが立ち上げたサービスがナンバーワンになり、新たなステップへ向け事業計画を立てていくことになる。そんな中、南場さんは「売上高1,000億、営業利益200億」(計画当時は売上高64億)という大きな目標を提示した。これには狙ってもなかなか達成できないような難しいことが、狙わずにできるわけがない、という思いがある。2024年時点で売上高1,000億を超えているというのは驚きだが、その驚きとも言える数値目標を計画段階から口にし、愚直に積み重ねていく姿勢こそ、私たちが学ばなくてはならないものだろう。

人材の質にこだわる


人材採用における人材の質は企業規模に限らず、多くの経営者が重要視していることだろう。コンサルティングファームの場合は、ロジカルシンキングを軸にした頭脳明晰で圧倒的な頭の良い人材を取捨選択する。もちろん入口としての部分に限らず、入社後もメンバーがどれだけコミットし、バリューを出したかという点は評価に大きく関わる。
一方で、事業会社の場合はロジカルな人間だけでは組織は前に進んで行かないのだという。会社には戦略立案ができる人、サイトデザインができる人、システムが作れる人、顧客を獲得できる人、お金を守る人、安価で斬新なマーケティングが実行できる人など、様々なプレイヤーをバランスよく配置することが求められるのである。
組織として向かうべき方向性を明示し、それに向かい組織を前に進めていくにはどんな人材が必要なのか。そんな基本とも言える問いを投げかけてくれる。

優秀な人の共通点は「コトにあたる」こと


本書で印象に残っているパートにこんな言葉がある。

"自分が接してきたすごい人たちを思い浮かべると、なんとなく「素直だけど頑固」「頑固だけど素直」ということは共通している"

"労を惜しまずにコトにあたる、他人の助言には、オープンに耳を傾ける、しかし人におもねらずに、自分の仕事に対するオーナーシップと思考の独立性を自然に持ち合わせている、ということではないかと思う"

「コトに向かう」をもう少し言語化すると、誰が一番正しいとか、自分がどれくらい貢献したとか、他人や自分に向かわずに、目指している「コト」に向かうということである。目的達成志向を第一にする考え方ではないかと個人的には考えている。

組織とは


会社の雰囲気が良い理由の一つとして、南場さんは小手先のイベントではなく、「任せる」ことをさらに徹底しているからではないかと綴っている。

1.全員が主役と感じ、一人ひとりが仕事や成果にオーナーシップを感じるようなチームの組成、仕事の単位となっているか。

2.チームの目標はわかりやすく、そして高揚するに足る十分に高い目標となっているか。

3.チームに思い切った権限委譲をしているか。信じて任せているか。


この3点を満たし、全チームの目標達成が全社の目標達成につながる組織設計をしなければならない。
これらは非常にハイレベルかつ全体としてのバランスが求められるテーマだ。しかし、これらのテーマから目を逸らし、目の前の作業に没頭してしまうことで、組織は徐々に死へ向かっていく。適度な流動性を保ちつつ、企業の方針に沿った人材採用・人材配置を進めていくために日々あるべき姿を根気強く考えて行動に移していくことが組織構築として重要だ。

おわりに

今回は『不格好経営』を読んで印象に残ったことや気づきについて述べた。読書というのは「何を読むか」ではなく、「どう読むか」だと常々思っている。読むことが目的化してしまうと、ただの物知りで終わってしまう。本を読んだその先まで意識することで、自身の血肉になり、経験になり、日々の仕事における様々な事象に対する解像度があがっていく。
そんな日々の自分の成長の糧となるのが読書なのだ。
経営者であるか否かに限らず、多くのビジネスマンに手に取って欲しい、そして様々な気づきを得るきっかけとして欲しいの本書だ。


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