院死して一浪したけど結局ドイツにいった話

この記事は東京大学航空宇宙工学科/専攻 Advent Calendar 2020の6日目として書かれています.

航空からドイツに行った人はあまりいないんじゃないかと思うので,将来に迷う航空民の参考になればいいなと思って書いていきます.院死・院浪・再受験合格・研究室漏れ・ドイツ留学すべてを経験した人は航空の歴史でもそんなにいないのでは(笑)と思っているので,そんな体験談から反面教師でもなんでもいいので感じてくれればと思います.

院死と院浪

僕は毎年いる航空院死勢の一人です.原因はいろいろあるのですが,一番はこのタイミングで将来に迷ってしまったことでした.もともと航空オタクでも宇宙オタクでもなく,技術としてかっこいいし面白そうという理由で航空に来て,(目の前のことは一生懸命やっていたものの今思えば)なんとなくレールに乗って4年生になり院試が近づいてきました.そこでそのまま同じ大学院に進んで航空宇宙関係の企業の就活をしてなんとなく就職していいのだろうかと迷い始めてしまったのです.結局その後院浪して再受験することになるので,そんなに迷うならまずは目の前の勉強をして合格してから休学でもして考えろよという話なのですが,当時は毎日そんな状態で勉強にも身があまり入らず,かといってほかの選択肢もないという状況でした.そんな状態で受けた院試にはやはり落ちてしまいます.

当時迷っていた理由は,BoeingやAirbusのエンジニアのような,海外でインターカルチュラルな環境でバリバリやっている人に対するあこがれと,英語が全くできず国際経験もない,航空でも優秀じゃない自分の現状とのギャップにあったと思います.留学もしたかったし,海外の友人も欲しかったし,海外に住んでみたい気持ちもあったのですが,どれもできないまま選択を迫られる時期に来ていました.

院死を知ったころには,もし落ちていたら再受験して大学院で一年留学しようと思っていました.冷静に考えて航空の院試を通過できないやつが海外に行ったところで何も変わらないよなと思い,もう一度勉強しなおそうと思ったのが理由です.ここで大学院留学に切り替える選択肢もあったと思います.ただアメリカ留学は当時博士を絶対にやりたいとまでは思っていなかったことや,準備期間が十分ではなかったことから選択肢には入っておらず,(しかもトランプ政権で正直住みたい国ではなかった...)TUM(ミュンヘン工科大)の交換留学枠が魅力的だったのでそれで一年留学できればいいなと思っていました.

院浪の一年はただただつらいだけなので全くおすすめはしません.大学受験の浪人は経験していないですが,予備校のように毎日通うところがないのでたぶん精神的にもっとしんどいです.冬院試で別の専攻に切り替える人もいますが,情報系は興味がなかったので受けませんでした.無理を言って一年浪人させてくれた親には感謝しかないです...

院試受かるも研究室漏れ

一年後,何とか院試には合格したものの,研究室漏れに見舞われます.浪人したのにあまりいい点が取れなかった自分の責任ですが,結構ショックで情けなかったです.浪人してもあまり点数が伸びないとはこういうことなのかと痛感しました.

もともとシステムで航空系だったのに,配属先は推進の宇宙系の研究室という結果でした.航空機設計がめちゃめちゃ楽しかった勢なので,当時これを受け入れるのは中々難しかったです.このタイミングでもともと興味を持っていたTUMの正規留学に切り替えようと決意しました.TUMのAerospaceはドイツ語必須でしたが,計算力学専攻(CFDやFEMなどシミュレーションに特化した分野)は英語で開講されているため,そちらの応募を急ピッチで進めました.(ちなみに今はAerospaceも徐々に英語に切り替わりつつありますし,衛星関係のもう一つ別のプログラムはすべて英語です.)もともとシミュレーションや設計プロセスに興味があったので,航空宇宙工学専攻である必要はないかなと思い,専攻を変えました.たまたま顔見知りだった共通の友人がいる子がTUMの同じプログラムにいることを知り,連絡を取っていろいろ助けてもらい,何とか合格することができました.

TUMの結果待ちの間,配属先の宇宙推進の研究室で半年間研究をさせてもらっていました.研究室の雰囲気や研究内容が非常に新鮮かつ刺激的で,TUMに行くよりこっちで修士を取ったほうが成長できるかもしれないなとも思いました.結局僕はいろいろ考えて留学を取りましたが,この半年間で僕の考え方や興味も変化し,今では配属漏れでこの研究室になって本当に良かったと思っています.

留学>日本では全くもってない

先ほど僕はいろいろ考えて留学を取ったといいましたが,留学にはたくさんのデメリットがあります.あまり想像つかないかもしれませんが,割といろんなものを失います.ここに書くと長くなるので割愛しますが,日本に残るほうがいい場合もかなり多いと思います.興味があれば,教育制度の違いや長所・短所などについてはこちらの記事に書いているので参考にしてください.

また,研究室によっては日本の修士にいながら先生のコネクション等を使って海外経験を積むことも可能です.そうやって今DLRで働いている先輩もいるので,正規留学の前にそういう選択肢を探るのも大切だと思います.

最近思う留学のメリット

留学にももちろんメリットはいくつかあるのですが,キャリアの面でいうと結局のところ,「その国に行けばその国の企業にアプライできるチャンスがいっぱいあるよ」ということなのではないかと思います.当たり前といえば当たり前なのですが,ヨーロッパに行けばAirbus,ONERA,DLRといった航空宇宙関係の企業や研究機関のインターンに応募するのは簡単です.もちろん受かるのは簡単ではないですが,チャンスはそこらへんに転がってます.

ドイツも,たぶんどのほかの国でも,結局はコネがものをいうときが多いです.日本の大学や企業からいきなり応募してきた知らない人より,つながりの深い大学出身の人材でいい人がいればそちらを採用しようと思うのは至極当然です.そういう意味で,現地の大学を出ていればたとえ外国人でも少しアドバンテージはあるでしょう.

あとは結局キャリアとか関係なく自分が将来どうなりたいかが重要だと僕は思います.僕の場合はキャリア関係なく海外に住んでみたかったし,海外の友達も欲しかったし,英語のコンプレックスを払拭したかったという気持ちが強かったので,仮にキャリア面でマイナスがあっても,自分の人生全体でみればプラスだなと思って留学を取りました.実際いまキャリア面でプラスになっているかはまだわかりません.生活面では,同期が大企業に入って貯金めっちゃあったり,結婚したりしているのを見ると間違いなくマイナスかなと思います(笑)でも人生全体でみると,今こうして異文化に触れ,以前よりなりたい自分に近づけているので,来てよかったと思っています.

もしドイツ留学に興味があれば

今はコロナの影響で留学は考えにくい時期だと思います.実際今はお勧めしないです.来ても授業がオンラインなので,しんどいだけです.コロナが落ち着く見通しが立ってきてからのほうがいいと思います.

ちなみにドイツは授業料無料です.これはめちゃめちゃ重要でした.これがなかったら留学はあきらめていたかもしれないので,この制度には本当に感謝しています.アメリカでも奨学金とか探せばいっぱいあると聞きますが,デフォルトで無料なのは教育水準が高い国だとおそらくドイツくらいだと思います.その他のヨーロッパの国は,EU圏外からはしっかりお金を取る国が多いです.

プログラムがすべて英語なら,受験時にドイツは必要ないことが多いです.ただ勉強しないといつまでも観光客みたいでしんどいので,可能なら来る前に勉強してくることをお勧めします.(僕は「ダンケ」だけを引っ提げてドイツに来ましたが,最初生活に慣れるまでが大変でした.)

ただ食はある程度覚悟してから来たほうがいいと思います.ミュンヘンでは魚が壊滅的に食べれません.SUSHIはありますが,寿司はないです.北のほうに行けばもうちょっと海鮮食べられるらしいです...コロナ後に帰国して,日本の海鮮居酒屋に行くことが僕の今の夢です...

最後に

院死・院浪・再受験合格・研究室漏れ・留学をすべて経験して一番大事だったなと感じるのは,自分としっかり向き合う時間を作ることです.僕の場合そもそもしっかり自分と向き合う時間を作れていなかったのが院死の原因でした.なんとなく周りのみんなと同じように目の前のことを一生懸命やってきたけど,これって本当に自分のやりたいことだっけ?という疑問を持ったことのある人は多いんじゃないかなと思います.たぶん,自分で選択しているようで,実は周りの環境からめちゃくちゃバイアスがかかっていることって多いと思います.僕の場合院死で一旦レールから外れて,フラットな視点で自分を見つめなおすことができたのが非常にいい経験だったと感じています.院浪時代に,環境の重要さに改めて気づけたのもよかったと思います.自分に素直な選択ができるようになったし,メンタルも安定したなと思います.強くなったというよりは,柔軟になったという印象です.(あとドイツに来てからは一旦日本から離れている分,「なんかあったら最悪別の国に行けばいいわ」という謎の究極のメンタルも手に入りました.)もちろん院死や院浪は時間のロスなのでないに越したことはないかもしれないですが,あっても死なないし,むしろそういう失敗にどうレスポンスしていくかが重要だと思います.

長文になりましたが,こんな拙文を最後まで読んでくれた方ありがとうございます.

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