就業上の配慮に関する事業者への意見
前回の続きです。主に、職場復帰に際して、ですが、他の場面にも適用できるかな、と考えています。
この「就業上の配慮に関する事業者への意見」ですが、あくまで「意見」だということが大前提で「意見」を踏まえて、判断するのは事業者です。このあたりは下記の記事にも記載しました。
さて、職場復帰に際しての意見なのですが、一般的には、職場復帰について「可(=就業可)」もしくは「不可(=就業不可)」といった表現になることが多いですが、この表現には違和感を感じます。というのも、復職を希望している労働者を就業させたら、全くもって働けない、ということはあまりないような気がするからです。例えば「とりあえず一日来て、できることからやってみる」について、自信を持って「できない」といえる場面は限られているのではないでしょうか。なので、まずは「事業者から何についての意見を求められているか」を明確にすることが重要です。
日常業務の一部になっているとあまり意識はしないかもしれませんが、職場復帰の場面では、事業者から「通常業務に従事することができるか」と聞かれているのでしょうし、「通常業務=労働者に期待する業務に安定して従事できる」だと認識していますが、この点については、普段から事業者(人事労務担当者)とのコミュニケーションをして前提を共有しておくとスムーズです。なお「就業上の配慮」についても「通常業務」が何かが明確になれば、どういった配慮できるか、という議論もできるのではないでしょうか。
上記も踏まえていくつかイレギュラーな場面を想定してみます。
1)休業、復職を繰り返している労働者への対応
休業、復職を繰り返している労働者について、職場復帰可否の意見を述べるのは難しいですよね。
多くの場合では、体調不良を繰り返していても、復職を希望する時点で「とりあえず一日来て、できることからやってみる」について、自信を持って「できない」といえる場面は限られています。もし睡眠も食事も摂れていない、健康状態を踏まえて、安全配慮上も就業させることが望ましくない、と判断できれば、「○○となれば就業可能」と添えて、「現時点では就業不可」といった意見を述べれば良いのではないでしょうか。また、その際に「職場復帰可能」などの意見を述べて頂いた、主治医へのフィードバックも重要です。
産業医として就業可の判断に至る過程で、確認する事項(それぞれの産業医でばらつきはあります)、つまり就業可の意見を出すための判断材料はあるのではないかと考えていますが、休業、復職を繰り返している労働者について、2回目、3回目でも同じ基準で判断するのではなく、より慎重に判断材料を揃える、といったやり方もあるかもしれません。リワークの利用を勧めるか、体調が安定していることを確認する期間を延ばす、などいくつかやり方はありそうです。
上記は、事業者から「通常業務に従事することができるか」について意見聴取があるという前提ですが、「これまで休復職(○○といった経過も踏まえて)を繰り返している状況で、今後、職場復帰して、一定期間、安定して通常業務に従事することができるか」と意見聴取されれば、「これまでの経過からは、他の事例と比べると、再度の休業の可能性は排除できない」といった意見ができるかもしれません。
2)労働者から情報収集ができない場合
「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」にも記載されていますが、産業医意見を述べるに際して、労働者の主治医から意見聴取(情報収集)をすることもあります。多くは書面でのやり取りが多いのですが、主治医とのやり取りについて同意をもらえないことがあるかもしれません。労働者としては、職場復帰に際して不利な情報が産業医に伝わることに抵抗感があるのは理解しているのですが、事業者に安全配慮義務を履行してもらうために、労働者の診断・治療に携わっていて、労働者の健康状態をもっともよく把握している主治医からの情報収集が、手続き的な側面、つまり、職場復帰に際してどの程度、合理的な対応をしているかといった視点から必要になる場合があります。
労働者が産業医面談を拒否することもあるかもしれません。これがどの程度職場復帰の手続きに影響するかはケースバイケース(就業規則なども関係する)ですが、例えば、一般的なウイルス感染症で休業した労働者に対して、全て面談を実施するのは現実的ではないでしょうし、面談をしないと職場復帰に関する意見ができないわけではありません。また、産業医面談を拒否しないまでも、面談でこちらが聞いたことについてコメントが得られない場合もあるかもしれません。
上記のように、労働者から情報収集ができない場合に、「就業不可」と判断するのではなく、「わからない」、「判断できない」ので、「意見のためには○○が必要」とコメントし、事業者(と労働者)に考えてもらうことがあってもよいかもしれません。
こういった対応の際には、事業者が判断する際に「産業医が○○といっているから」という表現になることも少なくないのですが、産業医の役割について理解を求め、産業医意見の根拠が説明できればよい(ものごと、全てに根拠があるわけではないので、根拠がないなら「根拠がない」とコメントすることも含む)のかと考えています。
まとめです。職場復帰に際しての「就業上の配慮に関する事業者への意見」を述べるに際しては、「事業者から何についての意見を求められているか」を普段から関係者とコミュニケーションして共有するとともに、単純に「可(=就業可)」もしくは「不可(=就業不可)」ではなく、様々な表現があってもよいのでしょうね。
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