職場復帰における主役は誰?

 今回は職場復帰について考えてみます。私自身、職場復帰を含む、労働者の個別の健康問題への対応に仕事の多くの時間を費やしています。が、この「職場復帰」については、産業医の職務としてはっきり明記されておらず、労働安全衛生規則の14条に記載されている

>四 前三号に掲げるもののほか、労働者の健康管理に関すること。

に含まれるのかと考えています。

 ちなみに、ストレスチェック、長時間の医師の面接指導については、
>一 健康診断及び面接指導等(法第66条の8第1項に規定する面接指導(以下「面接指導」 という。)及び法第66条の9に規定する必要な措置をいう。)の実施並びにこれらの結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること。

と明記してあるので、実務としてやっている側からするとちょっとアンバランスな気もしますね。これは「職場復帰」がどういったことを意味(例えば、私事よる休業、産休や育休、健康問題による短期間の休業など)しており、実際に職場内でどういったプロセスを踏むのかかなり幅が広いことや、「職場復帰」においては、医学的な側面はごく一部(職場復帰させるか、つまり、業務に従事させるか、という労務管理が主)だということもあるかもしれません。

 ただ、多くの職場では、特にメンタルヘルス不調においては、職場復帰に際して産業医の意見を聴くことが多いのではないでしょうか。厚生労働省でも「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を策定していますし、その中にも第3ステップの「職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成」において「産業医等による医学的見地からみた意見」と記載されています。産業医として活動している側からすると、職場復帰に際しては産業医の意見は重要!と捉えがちなのですが、この手引きに記載されている5つのステップの見出しには「産業医」は登場しません。上記の通り、第3ステップの一つとして「イ 情報の収集と評価」における「産業医等による主治医からの意見収集」、「ウ 職場復帰支援プランの作成」における「産業医等による医学的見地からみた意見」が出てきたり、第4ステップの「最終的な職場復帰の決定」において「産業医等は「職場復帰に関する意見書」 等を作成します」といった記載がある程度です。

 また、産業医の役割として、
・専門的な立場から、管理監督者及び人事労務管理スタッフへ助言及び指導 ・主治医との連携における中心的役割 
・就業上の配慮に関する事業者への意見
といったことが記載されており、この辺りが求められる役割になります。ここに「医学的見地から見た職場復帰に関する意見」といった記載はないんですね。なお「就業上の配慮に関する事業者への意見」は、職場復帰することが前提での記載に見えますし、「専門的な立場から、管理監督者及び人事労務管理スタッフへ助言及び指導」については、「就業上の配慮に関する事業者への意見」の一部なのかな、といった感覚はあります。

 もちろん、実態として産業医が中心的な役割を担っている事業場は多いでしょう。第3ステップである「職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成」の「イ 職場復帰の可否についての判断」に、「職場復帰が可能か、事業場内産業保健スタッフ等が中心となって判断を行います」とあり、ここを産業医が判断している事業場が多いのでしょうね。また、職場で職場復帰支援制度を作成する際にも、実務に携わる専門家として意見を聴かれることも多いですが、第4ステップの「最終的な職場復帰の決定」に、「事業者による最終的な職場復帰の決定を行います」とあるように、主役は事業者と労働者であり、産業医としてどういった関わりができるか、といった視点から取り組むことが重要です。

 長くなりそうなので、ここひと区切りとして、次回は「就業上の配慮に関する事業者への意見」について掘り下げてみます。


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