珈琲

衝動

「インスタントで結構。十分、普通にうまいし。」

こんなだった俺が、今や、自分で豆を挽いて淹れるようになってしまった。
ハンドドリップに、ハンドを染めてしまった。
どうした。そんなやつじゃなかっただろう。
見損なったぞ。

昨年末くらいだろうか。
何かの気の迷い。あるいは、40歳を目前にしての何かの焦りだろうか。
ゾンアマで選びもせず勢いで器具を買い、はじめてしまった。

どーせすぐめんどくさくなってやめるだろうと思っていた。
が、なぜかちゃんと続いている。
苦もなく、自然と、習慣化してしまっている。
この分だと音楽よりも長く続くだろう。

器具

やったことがある人はわかると思うが、ハンドドリップで一杯のコーヒーができるまで、結構色んな器具を使う。

まずは、豆を保存する密閉性の高い瓶。キャニスターとかいうしゃらくさい名前がついている。
そしていざ淹れるとなれば、豆の量を図るハカリ、豆を挽くミル、ドリッパー、ドリップペーパー、ドリップポット、コーヒーサーバー、そしてコーヒーカップ。
こんなにもいろんなモノが必要なのだ。

はじめにテキトーに買った器具は、当然、使い勝手などの点で、いくつも買い直している。

たとえばドリップポットは2回も買い直した。
行きついた先は浅草の「世界の珈琲 ユニオン」で買ったアウトドア用の蓋もないステンレス製のもの。メーカーや型番はよくわからん。忘れた。大・小の2種類があり、両方持っている。大をメインに、たまにサブとして小を使う。
どうだ、まいったか。今や自分のピアノと同じくらい愛用している。

その他一つ一つの器具についての紆余曲折、ドラマには諸君も興味があるだろう。
が、かるく文庫本一冊くらいの量になってしまうので、割愛する。
上記ドリップポットの件も、8割ほど端折っている。
聞きたければ、俺の淹れたやつを飲みに来い。

はじめてまだ一年も経っていない俺がそうなのだ。
いやはや、コーヒーの世界は、苦く、広く、深い。

スタイル

器具だけではなく、淹れ方にも色々なスキル、スタイルがある。
プロアマ問わず、ようつべで死ぬほどたくさんの動画が上がっている。
ボイトレの世界のようだ。

様々な流派があり、哲学があるらしい。
もはや宗教といってもいい。

そう、キリがない、のである。

「沸かした状態から出来上がりまでのお湯の冷め具合を計算して、0.5度単位で温度管理する」という動画があった。
これを途中まで観たある瞬間、何かの悟りを開き、ドリップスタイルについての追究をやめた。

俺のドリップスタイルは、現状、なんとなく細挽き、それとなくゆっくりドリップ、そして、さりげなくドリッパーを揺らしたりなんかして、そこはかとなくソレな感じでチェケラだ。

この間、オプマの現場で、生の豆から焙煎して淹れているというパイセンがいて、家庭用の焙煎機について教わった。
割と小さくて、ギリギリうちのキッチンにも置けないことないじゃないか。
匂いが部屋に充満することもないらしい。

焙煎にまで手を出したらこれまたキリがないと思い、この焙煎問題にはフタをしてきたのに。

この焙煎パイセンめ。
余計なことを。

ちなみに『「焙煎」にまで手を出したらこれまたキリがない』と、さも焙煎のことをよく知っているかのようなことを宣ったが、「焙煎」というものがどういう行程で、豆にどういう処置を施すのかとか、そういうことは一つも知らないし、知る気もない。

すでに焙煎されていて(知らんけど)、あとは挽けばいいだけの豆でも、ご存知これまた色々とある。

ブルーマウンテンだか、ブラジルだか、コロンビアだか、なんだか知らんけど、産地は様々、値段もピンキリだ。

再び、キリがないキリマンジャロである。

名前くらい、なんか国名で統一するとかなんとか整理しろよ。

ということで今は、ゾンアマやディーカルで買える手ごろな安い豆をぐるぐる使いまわしている。

家の近くのミャンマー珈琲屋で豆を買ったこともあるが、癖が強い。
高いわりに、俺はうまいとは思わなかった。
うまく入れる方法もあるかもしれないが、知るか。

やはりベタが一番。この点は、音楽と一緒だ。

何はともあれ、挽きたての粉で淹れたコーヒーは、違う。
香りがいい。そして、うまい。

へたくそな俺が安い豆で適当に淹れたものでも、味なんかわかりゃしない音痴な俺の鼻と舌でも、違いはわかる。

「うれしいギフト・ランキング」の一位は、ぶっちぎりで「現金」で不動。
しかし最近は「コーヒー豆」も相当上位にあがってきている。
コーヒー豆も、くれると悦ぶので、覚えておいてほしい。

しかし逆に、自分でハンドドリップするようになって、再確認したことが一つある。

インスタントは、インスタントで、やはりうまい。
よくできている。

ベツモノなのだ。

セックスとオナニーがそうであるように。

知らんけど。

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