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【短編小説】メルマガ

1,082文字/目安時間2分

「あのさぁ」
「んー?」
「ふと思い出したというか、ちょっと思ったんだけど」
「なに」
「俺、彼女と別れたじゃん」
「いつの話してんだよ」
「一年前くらい?」
「で、それがどうしたよ」
「俺けっこう引きずってたじゃん」
「なかなか酷かったな」
「もう俺生きる意味ないとか言って」
「言ってた」
「基本わがままだし、奢らないと怒るし。言うことがいちいち鼻につくし、待ち合わせなんか時間通りに来たことないし。まじで。でも笑うと本当にかわいいのよ」
「それずっと言ってるな」
「同棲とまではいかないけど、しょっちゅううち来てしょっちゅう泊めてたりしたじゃん」
「あぁ、通い妻だとか言って調子乗ってた」
「でさ、別れた後お前に部屋の片づけ手伝ってもらったじゃん」
「あぁ、彼女が別れる奴のところに置いてたものなんか気持ち悪いからいらないとか言われたんだっけ」
「そうそう」
「何したらそんな言われるんだよ」
「それは別にどうでもいいんだよ」
「ていうかお前あの片づけ最悪だったからな。俺じゃなかったら友達やめてるわ」
「ごめんて」
「全部すっきりさせるからとか言って、彼女の私物処分するだけならまだしも、部屋汚ねえしなんか使用済みのやつとかあるし」
「悪かったって、本当に」
「でも片づいた後に物がほとんどなくなって引っ越したてみたいになったのは面白かったわ」
「うん、ありがとう」
「で、それがなんだよ」
「いや、それがね」
「あれか? 全部片づいた後急に俺はむなしいとか言ってめちゃくちゃ泣いた話か? あれはちゃんと内緒にしといてやるって言ったろ」
「それもそうだけど、違うんだって」
「じゃあなによ」
「元カノの誕生日にブラジャーをプレゼントしたって話したじゃん」
「あー」
「それネットで買ったんだけど」
「うん」
「ネットで買う時ってだいたい登録するじゃん」
「はいはい」
「その時のメルマガがいまだに届くんだよね」
「くだらな。解除したらいいじゃん」
「そうなんだけど、なんかできないんだよね」
「なんでだよ。全部すっきりさせたんじゃねえのかよ」
「そうだけど、なんかでもさぁ、わかる?」
「わからんわ」
「たまに届くから、まぁ見るじゃん」
「あー」
「だからと言って別になにもないんだけどね」
「じゃ解除しろよ気持ちわりーな」
「まぁ、解除したっていいんだけど」
「なんだよ」
「まぁ別にいいんだ」
「で、結局なんの話だよ」
「いやまぁ、元カノの誕生日プレゼントで買ったブラジャーのメルマガがいまだに届くって話」
「……」
「……」
「……まぁ、よかったな」
「うん」
「次はもっといい彼女できるといいな」
「うーん」
「お前ももっといい男になれよ」
「そうだなぁ」
「元気出せよ」

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