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【短編小説】マッチングアプリ

1,301文字/目安時間2分


「なぁ聞いてくれよ」
「なんだよ」
「この間アプリで知り合った子なんだけどさ。なんか受け身っつーか。向こうからなんもアクションがないっつーか」
「単に脈なしなんじゃねーの」
「まぁね。でも、楽しいか訊くと楽しいって答えるし、次も会おうって言うとぜひって感じで言うし」
「よかったじゃん」
「そうなんだけど、なんかね」
「どうすんのよ」
「もう何回か一緒に出かけたりしてもいいけど、付き合うまではないかなぁ」
「ふーん」
「その前の子なんか最悪だわ。デート代全部俺持ちだぜ? 飯だけならまだしも、服とかめっちゃ買わされた」
「あーあ」
「まぁホテルまで行けたのはいいけど」
「やることやってんじゃん」
「そうなんだよ。しかも四回デートしてんの」
「よかったじゃん」
「海デート」
「めっちゃ楽しんでるし」
「いやもう無理保たん。財布が」
「お前バカだな」
「まぁなかなか理想の子なんて現れないよな」
「そんなもんだろ」
「俺の理想の相手ってどこにいるんだろうなー」
「てか理想理想って、お前自分の理想がなにか分かってんの?」
「核心つくな」
「知らなきゃ出会っても分からんでしょ」
「まぁそうだよな」
「試しに挙げてみなよ」
「理想ね。まず、おっぱいがでかくて」
「おー」
「そこそこ高身長で」
「おー」
「締まりも良くて」
「おー」
「まぁ細身なのに出るとこ出てる人がいいよな」
「それもしかして四回デートの子じゃねーの」
「そう」
「理想見つかってんじゃねーか」
「いやもう無理」
「内面でなんかないのかよ」
「内面かぁ」
「内面だよ」
「優しいとか」
「おー」
「かわいげあるとか」
「おー」
「あとはそうだな……。分からんわ」
「分からんか」
「難しいな、理想って」
「なんとなくだけどさ」
「うん」
「どういう人がいいかじゃなくて、お前がどう生きたいかとか、その人とどういう関係でいたいかで決まるんじゃない? 理想って」
「あーなるほど」
「知らんけど」
「まぁでも確かにそうかも」
「知らんけどね」
「そう考えるとめっちゃ難しいな。今は別に今が楽しけりゃいいって感じだし」
「それでいいんじゃねえの」
「うーん」
「結婚するならまだしも、そういうわけじゃないだろ?」
「確かに」
「遊んでる時があっても別にいいだろ」
「あーでもさ」
「なんだよ」
「俺って基本バカじゃん」
「まぁな」
「否定しろよ」
「そんで?」
「で、俺バカだけどさ。そういうのに呆れながらも話聞いてくれるっていうか。聞いてくれるだけじゃなくて、ちゃんとダメなところはダメと言ってくれるっていうか、大事なとこで否定しないで寄り添ってくれるっていうか」
「うん」
「なんかあっても二人で向き合ってやっていけるような人がいいかなぁ」
「おー」
「それが理想な気がする」
「なるほどね」
「……」
「……」
「……」
「なんだよ」
「俺の理想って、もしかしてお前?」
「キモいこと言ってんじゃねーよ」
「まぁでも、俺も相手にとっての理想になりたいもんですな」
「そうだな」
「でもちょっと懲りたかな。アプリは。まぁ続けるんだけどね」
「どうすんの?」
「しばらくはワンナイト狙っていく」
「全然懲りてねぇじゃん」
「なんだかんだ楽しいしね」
「そうかい」
「まぁ今月もうお金ないんだけどね」
「元気出せよ」

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