【11】アジトの空
「よし! 出来た! 今回こそ! 今年こそ優勝するぞ!」
男の声が工房内に響いた。
~1年前~
アジトの商店街の一角にクラーという若い男が経営しているパン屋「海月堂」があった。
カランコロンカラン~♪
「いらっしゃい! おぉ、ばぁちゃん、今日はマリアンナは一緒じゃないのかい?」
いつも一緒に来る孫娘、マリアンナの姿が見当たらない。
「ちょっと体調崩しちゃってねぇ」
「そっかー。早く良くなると良いなー!」
クラーは心からそう思った。
「そうだねー」
おはあさんはしみじみと言った。
毎週水曜日に店に来てくれるマリアンナにクラーは恋をしていた。
「コレとコレ2個ずつもらえるかい?」
「ありがとう、ばぁちゃん!試作品2個付けておくからマリアンナと食べてみてよ!」
「いつもありがとね~」
約1ヶ月前に王国より達されたパンのレシピコンテスト。
優勝者にはギフト券100枚が与えられるらしい。
それに向けてクラーは店が閉まってからレシピ作りに励んでいた。
「よし!今日もこれからレシピ研究だ!」
日が落ちて何時間経っただろうか? この時間になるとアジトの建物でまだ明かりがついているのは数える程しかない。
クラーのパン工房
クラーは独り言をつぶやきながら、パンの生地を作っていた。
「俺一人じゃ使い切れないから一緒に使ってくれないか?
いや、これだと半分に分けて終わってしまうな。
俺一人じゃ使い切れないから一緒にこれで旅行でも行かないか?
よし。これでいこう。
コンテストで優勝したら俺はマリアンナに言うんだ」
~コンテスト当日~
クラーは最後の仕上げに取り掛かっていた。
「これをこうして……よし、出来た!」
ようやく完成した。気合いを入れすぎたせいか、丁寧に作り過ぎたせいかいつもより時間が掛かってしまった。
時計を見ると締め切りまで時間がない。
「急がないと」
片付けは後回しにしてクラーは身なりを整えてコンテスト会場に向かった。
コンテストの影響か、道にはいつもの倍以上の人がいる。
「急げ。慌てず急げ」
自分に言い聞かせた。
あの角を曲がれば会場はすぐそこだ。
ドタッ!
後方のぶつかる音にクラーは反応し振り向いた。
「ごめんよ~じょうちゃん、大丈夫かい?」
どうやらおじいさんとお嬢ちゃんがぶつかったようだ。
お嬢ちゃんが手に袋を持ってうつ伏せに倒れている。
袋の先には……
土の付いたパンが2つ転がっている。
顔を上げ、落ちたパンに気付いたその子は初めこそ声が出なかったが、みるみる目には涙が溢れていった。
そしてーー
「パンが落ちちゃったよ~!ママと食べようと思ってたのに~!」
泣き声が辺りに響いた。
成り行きに目を奪われていたクラーだったがその泣き声で我に返った。
時計に目をやる。
時間がない。だが、会場はすぐそこだ。
大丈夫、まだ間に合う。
急ごう。
行かないと。
今回のコンテストにどれだけ時間と努力を費やしてきたか自分でもわからない。
なのに、
なんで俺はーー
「お嬢ちゃん、このパンお母さんと食べな。すっごく美味いから!」
驚いたお嬢ちゃんはくりっとした丸い目でクラーを見た。
お嬢ちゃんは涙を袖で拭うと、大泣きしてたのが嘘だったかのように輝いて
「え~!良いの!?嬉しいー!!お兄ちゃんありがと~!!!」
クラーもつられて笑顔になった。
「若いのすまんの~」
「いやー、良いんだ。これで…良いんだ……」
~そしてそれから1年後~
クラーのパン工房
コンテスト2回目の当日の午前
「よし! 出来た! 今回こそ! 今年こそ優勝するぞ!」
クラーの声が工房内に響いた。
前回同様、気合いに満ちていたが去年とは違い落ち着いていた。
「今年は時間もある。マリアンナ、見ててくれ」
クラーは会場へ向かった。
あれから1年、去年は結局メイチーパンというレシピが優勝した。
あの後、お嬢ちゃんとその母親はウチの常連客になった。
「あれから1年かぁ。本当に色々あったなぁ……」
この1年を振り返りながら会場に向かっていた。
あの角を曲がれば会場はもうすぐだ。
ドタッ!
後方でぶつかる音がした。その音はクラーの頭の中に去年の出来事を一瞬で蘇らせた。
クラーはゆっくりと振り向いたーー
「あら、ごめんね。」
おばさんとお兄さんがぶつかった、
だけのようだ。
クラーは意識したわけではないが「ふぅーーっ」と大きく息を吐いた。
安堵を含んだ、大きな大きな息だった。
「よし、行こう」
会場に着いた。
パンのコンテストだけあってパンの匂いで包まれている。
そして大勢の人と出店で賑わっている。
子ども達のはしゃぐ声、老夫婦の笑い声、鳥の鳴き声。
クラーは受け付けを済ませ、準備したパンを手渡した。
その3時間後……
「皆さん、お待たせしましたー!
全ての集計が終わりました!
今年の優勝者は……
海月堂の「さかなパン」ですー!!
おめでとうございますー!!」
拍手と歓声が沸き起こった。
クラーは国王よりギフト券を受け取った。
一言求められ、話そうかと思った時、遠くの人だかりのほうから声がした。
「お兄ちゃんおめでとう~!!」
あのお嬢ちゃんの声だ。
クラーはその方向に向かって軽く手を振った。
コンテストが終わり、工房への帰路の途中、クラーは空を見上げて言った。
「マリアンナ、やったよ」
読んで頂きありがとうございました!
今回はアジトの海月堂さんに登場して頂きました!レシピ「さかなパン」も出させて頂きました!
完全に私の妄想と想像で書かせて頂きました!ありがとうございました!
【レシピコンテスト】なるものがあれば楽しいかなーと思い今回書きました。
約1ヶ月前に達せられ、それに向けてレシピ制作。例えば今回のような感じで業種パン屋で指定。レシピ品作成は開発者のみ。2~4週間の住民売上金額で優勝者決定、といった感じです♪
また何か思い付いたら書いていこうと思いますー!
その他登場した人物、レシピ品全てフィクションです。
気になるレシピがあれば実際に作って頂いても構いません(作ってもらえたら飛んで喜びます)
作中に出ても良い店主募集中!
店主名、オーナー番号
をTwitterでDM下さい。
普段のプレイスタイル等入れてもらえたらなるべくそれに沿って書かせて頂きます。
尚、登場する話は事前にDMで確認して頂いた後掲載させて頂きます。
各物語のイメージ画像募集します!募集させて下さいー!
物語を読んでみて浮かんだイメージがあればそれをお願いします。
又は次の物語の画像書いて頂けるというのであれば掲載前に物語をDMで送信します。
もしくは既にオリジナルのキャラ等の画像あれば、その画像を元に物語を考えます。
名前、職業種の設定あれば教えて下さい。
提供して頂いた方のお名前はその物語内の1番上に紹介させて頂こうと思ってます。
例「イメージ画 ~様から提供」みたいな感じで。
よろしくお願いしますー!
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