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野球少年観察記10

真面目で誠実で不器用で故に時に滑稽。
そしておおらかで寛大。
先行きに不安しか無いけれど

野球を始めてしばらくの小学三年生のヤギ少年の動画を夫が私のスマホに送ってきました。
言われたことを一生懸命にやろうとしているのだけれど…
バットを振る腕が伸びきり足が伸びきり…もうどうしようもないヤギ少年の、それでも一生懸命な姿。
力一杯ではあるんだけど。
真面目で一生懸命だからこそ、ダメでもあきらめられない父と息子のもどかしいやりとり。
深い可笑しさを感じて、翌朝その動画を本人に見せて言ってみたのです。

三年前がこれで、今のあなたの姿がそれなら、三年後のあなたはどうなっているの?中京大中京?愛工大名電?東邦?
戯れに聞いてみたら、「やばいね。」と言ったか、言わずかふふんと鼻を鳴らして、楽しげな空気をボールに丸めて、美しい投球動作で玄関方向に投げていました。

天才肌で、伝説のブロック職人


家庭的な雰囲気の保育園でのびのび育ち、自分のペースで遊び込む事を大切にされて幼少期を過ごしたヤギ少年です。
幼児のその頃、熱中していたのはブロック遊びでした。
保育園の各種ブロックを組み上げて、文字通り遊び込んでいました。
最初は一人っきりで。
でも、あまりの熱中っぷりに周りの子ども達が引き込まれてしまいました。
側で眺めていても本人が嫌がらず聞けば教えてくれたりするのです。
流れるように組み上がり組み替えられていく大作の、その手元を見ているだけで、大人も子どももとても楽しかったのです。
その後数年にわたって、伝説のブロック職人であるヤギ少年の編み出したパターンが保育園で文化として継承されていた程でした。
私に似て色白で、ニコニコ穏やかな少年だった彼を、だから、どちらかというとギークというかオタクというかそういう種類の子だと思って当初は育てていたのです。
私より大きく強くなるなんて想像できませんでした。
甘えん坊で、鈍くさい彼です。今でも鈍くさいけど。

忘れもしない小学校の入学式のことでした。


ぼーっとした母は礼をすることを教えずに入学式に送り出したのです。
名前を呼ばれたら返事をすることは教えたのですが。
礼儀を示すお作法はその場所の文化や歴史によって変わります。
まず確固たる自分を持って、誠実に相手とその場の文化を尊重できる子に育てれば、どこに行っても各場所それぞれのお作法にも対応できるだろう。と、思っていたのですが…。
忘れていたのです。
日本の小学校というのは、かなり特殊なお作法を人と人ではなく人を集団と見て課すことを。
そうでなければ一人の先生で30人の子どもを見ることは適わない…と言うことを。

さて、その入学式です。
起立、気をつけ、礼と号令がかかりました。
そういうお作法を教わっていなかったヤギ少年は、何が起こったか、どうすれば良いか、わかりません。
だから一生懸命周りを見て合わせました。

合わせたのですが、
礼というのは深くても90度だというところまでは6歳のヤギ少年はわからなくて…
結果、180度の礼を、
膝の間に頭を埋める礼を披露してしまったのです。
母はおかげで厳粛な式の間中、笑いの壺からあふれるものをこらえるのに苦労する事となりました。

そんなことを思い出したのも先日のこと、
某少年野球大会の閉会式で、ヤギ少年は殊勲賞なるものをいただいたのです。
盾を受け取っている晴れやかなはずの写真を同行してくださっていたお母さんが撮ってくださいました。
チームのグループライン経由で写真をいただき、その写真を見たゆえなのです。
さすがに小学6年生になる子なので、膝の間に頭を埋める180度の礼は違うことはわかっていて、45度程度頭を下げればよいこともわかっていたのですが…
頭を下げる際は腰からまっすぐに下げて、
背中や首を曲げてはいけないことまでは徹底して伝えていなかった…いや何度か、教えていたけれど、厳しく練習させていなかったのです。

写真に切り取られたその姿は礼をした際のまろやかに美しい背中のアーチでした!!ただでさえ長い首が益々長く見えるその角度…ったら…!!
盾を渡してくれる方、推薦くださった方への本人の深い感謝とリスペクトがその姿勢に存分に漏れる故になんとも滑稽な…。
…はい。
今まで、ろくに教えてきませんでした。
教えたはずではありますが、やってみせ、させてみせをしておりませんでした。
大変申し訳ございません。
親のせいです。

帰宅後、夕御飯前に洋裁用の巨大な定規を頭と背中に縛り付けて練習させましたとも!!
もう忘れているかもしれませんけれど。

本人が真面目で誠実で、感謝と尊敬とがあるが故に、滑稽極まりなく、そんな失敗も憎めない子です。
いえ、親の失敗なんですけど、
でも本人も十分に不器用故。

思えば幼い頃から、不器用なんです…

保育園が縦割り保育だったのです。
だから1歳児から5歳児まで同じフロアにいて、それぞれの力量に応じてそれぞれの動きをしているのです。その時の、その子を一人ずつ立体的に見ながらの保育です。
3~5歳の幼児は1~2歳の乳児を可愛がりつつ、上手くいなしつつお互いを支えに生活します。
かわいがり、慕われ、迷惑をかけ、許し…幼いわずかな時間をそのように過ごした彼らはしなやかで、深いところで強いようです。

幼い頃の事、2歳頃のヤギ少年は、少し大きいお兄さんお姉さんが遊戯室内を縦横に走り回り戦いごっこに興じる様を棒立ちで唖然という感じで、見ていたのです。
長時間。
それは、保育士や親がちょっと心配になるくらい。

保育士と親が「この子は楽しんでるのか怖がって固まっているのかわからん。」と戸惑ってしばらく後のこと…ある日、彼は「戦いごっこのヒーロー」として突然動き始めます。
その美しい「殺陣の動き」の見事なことといったら。
なるほど、あの「棒立ち・唖然・フリーズ」は入力と計算中だったのですね。と、親と保育士は合点し、納得するのでした。
昔のパソコンのような。フリーズ。
でもただ計算が遅いと言うわけではなく、高画質、高音質のデータを取り込んでしまうタイプのようで。参照すべきデータも多いのです。
そして、真面目だから全部参照しに行きます。
この時間のかかる感じ、どうしたら良いかは私にはわかりません。
でも、彼のパフォーマンスのためには必要のようです。

もうすぐ中学生になる今でも一生懸命考えているときは、つい固まってしまう。
ただいま入力中です。データを参照中です。計算中です。最適化中です。っておでこに張っておいて欲しいのだけど。口角をぴくりとすらしないんだもの。
うんとか、すんとか…そろそろ言えた方が良いと思う。でも一生懸命に考えはじめると聞いてるフリを表現する事が飛びます。
幼い頃よりは多少ましになったとはいえど。目を輝かせて聞くとか、相づちを打つとか、すれば良いのですが、今後の課題のようです。
もちろん成長により少しは改善されましたけれど。

今でも、言葉のみで、不明確に指示されると不明確な指示のままを真面目にやってしまい混乱を来します。
父親の家庭内での稽古は、その傾向があり、故に最初の頃は…最近もですが、色々ありました。
指導が理不尽な暴言になって私が止めたり、それで喧嘩したり、児童相談所にお話を聞いてもらったことも、警察を呼ばれたこともあるのですよ。実際。
だから、チームの代表はヤギ少年と子ヤギ君の姿を見て、外での穏やかなヤギ氏を見て、次期監督に推してくださいますが、妻の立場から言うと不適格です。
他所の子に対しては多少、できるかもしれませんが、それにしても。
できることはあるしその上での高評価だとは思いますが。トップは別の方にお願いしたい。
(あの見難く出た腹と、巻き肩と猫背で堅くなった僧帽筋と、落ちた尻に股関節周りが堅すぎて上がらなくて引きずって歩く足取りを見て察して欲しいのです。)

来春からのこと

ヤギ少年は中学の野球チームについて、沢山見て歩いた結果、悩みに悩んで、決めたそうです。
どこもとても素晴らしいチームで、本人も父親も悩みました。
見学体験を受け入れていただきありがとうございます。
うち特に評価をいただき、お声かけいただいた指導者のみなさまには、本当にありがとうございます。様々教えて頂きまして大変ありがたく、感謝しております。
ご恩は野球界の裾野を広げることで返します。
親バカですが、ヤギ少年ってかっこいいんです。
その辺の公園で練習してるだけで…なんだか…ついつい目を止めてしまう程度には。

中学チームを沢山見せていただきまして、
その中でも…ヤギ少年なりに思うところがあり(言語化が下手で、感覚的なものも、あるいはお友達の影響もあって、親が掴みきれないところもありますが)決めました。そして父親にねだり申し込みしておりました。

母の目から見ればそんな厳しい道を選ぶのか?と、思うような、トップチームで…応援するよ…するけどもね…

中学野球チームでは強い子の中で、力ある指導者の中で、ヤギ少年がどんな風に成長するのかは楽しみでもあります。
ありますが、入力や計算に時間がかかる彼のこと、ヤギ少年が聞く態度として最低限くらいは適切に表現できるかどうかに私は不安があるのです。
しんと脳内に落とし込んでいる様子を前向きな姿として伝わるかどうか、下を向いて砂粒を数えている風に見えないかどうか。風の色を追いかけている風に見えないかどうか。

この子がここに至るまでに、幼い頃から保育士、親、親族、上下学年のお友達、学童指導員、少年野球チームの監督、代表、コーチ、仲間、そしてその親、果ては猫犬牛羊ヤギに至るまで、本当に可愛がっていただきました。
(ヤギ少年とビー玉尻尾野球で付き合ってくれる猫の姉さん↓


ヤギ少年のマイペースは、
いろんな事に疲れている子の多い現少年野球チームの、野球以前のところで怒られることの多いチームの中にあっても、マイペースで。
飄々と真面目で朗らかに自分の力をつけ、みんな成長したけれど、良い影響は受けつつ悪い影響は流しつつで成長したヤギ少年の今につながっているように思います。
周りを見ていないわけではないのです。確固たる自分があって、故に仲間を尊重できる子だと思います。色々あっても、仲間のこと、好きなようですし。

今までは、周りは関係なくてただ伸びれば良かったのです。
そんな子を厳しい競争のある世界へ出さなければいけない怖さが私の胸にあります。
背たけは私を抜いたとはいえまだ12歳の幼い彼を厳しい世界に送り込む不安はつきません。
アピールして欲しいポジションを請うという意味では子ヤギ君の方に実績ありです。

もちろん、レベルも質も違うんですけど。
子ヤギくんの方は野球のルールがなんとかわかってる子とまだの子って話なので。
チームを育てる為にもオレやるよ…ってそういう話なので。

不器用なヤギ少年の事、否定するべき点を捜すならいくらでも見つけられるでしょう。
それでも真面目で誠実で(時に渋々ながらも)努力すること学ぶこと感謝すること尊敬することを知っている彼が、今後出会う人、世界に残すだろう良き影響も計り知れないはずです。
是非よろしくおねがいいたします。

先日も夕食後、弟と公園に夕練に出て、弟のバッティング指導をしていました。


バットに体重を乗せるための体重移動のことをヤギ少年は伝えたい様子だったけれど、
体重移動というのが身体感覚ではあっても言語化できていないので、伝えることに大変苦労していて、でも楽しげで…どれだけ言っても綺麗には伝わらないのだけど、そこでイライラしたりあきらめたりしないヤギ少年のしなやかな強さを見ました。
弟にはヤギ少年がトスを上げられるので良いのだけれど、私は全くボールが手に着かない人で…ヤギ少年はトスバッティングがしたかったのに…母はすぐにトス係から解任されました。
申し訳ない。

父親にかなり色々言われても、そういえば過度に引きずった姿を見ないのです。

流れで出た暴言は暴言のまま空間に漂い、彼は飄々と時間になれば寝に行ってしまうので、リビングに漂った呪いを母ヤギは夫の酎ハイの前に供えて反省を促す事になるのです。
かつての自分ができなかったことを、息子に言うんじゃないよ。(俺はできた、って言ってますけども)
ヤギ少年の背中を見ていると、質実剛健と言う言葉が見えます。厳密に言えば違うのかもしれないけれど、しなやかで強靱なのは、身体だけではなくて、心もまたそうなようです。
いつも集団の外回りでニコニコしています。
オレがオレがと出てくるアピール力は弟に負けています。それがまた親の心配の素なんです。

真面目で誠実で不器用で故に時に滑稽。
そしておおらかで寛大。


愛すべき少年ですが、あまりベタベタとかまわれすぎるのは嫌なようで、野球で力をつけてしまうなら、選択肢によっては高校から家を出てしまうかもしれないヤギ少年のこと。あと1,000日ほどしかないかもしれない…かわいい少年との生活を楽しみたい母は見事に嫌がられています。

そして、ここしばらくの試合では、絶好調な姿というわけにもいかず、そうなると、親は一気に不安になります。「おまえそんなんであのチームでやれるんか?」

そんな聞かれてもさ…その不安は親のものであって
ヤギ少年はちゃんとなんか考えている時の顔してますよ。
わかりにくいけども。

うーん。どうかなぁ?


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