[ 読んでよかった! ] 兼田絢未さん「親子アスペルガー」(合同出版)
自閉症スペクトラムは10人に1人くらいの割合です。決して珍しいわけではなく,障害というより,癖のようなものです。多数者のひとと比べて,決して,劣っているわけではありません。ちがっているだけです。
たしかにそうかもしれない。けれども,自分が自閉症スペクトラムであったり,家族が自閉症スペクトラムであったりした場合,どうやって身の回りの環境と折り合いをつけていって,自分らしく生きていけるか,それを考え,実践するのは,楽なことでは決してありません。闘いと言ってもいいです。
相場均先生の「性格」(中公新書)では,もって生まれた素質とは一生かけて闘っていかないといけないと書いてありました。その言葉はとても腑に落ちる言葉でした。消えるわけではないし,この荷物は下ろせない。自分を作っているもの,もしかしたら,自分の中核を作っているものであるかもしれない。
目をつぶって,ふとんを頭から被って,そうやっていつまでも逃げていても,世界は何も変わらないし,自分もなにも変わらない。10年経っても,10年年とった自分がいるだけ。逃げている場合じゃない。闘う。
そんな気持ちにさせてくれた一冊が兼田絢未さん「親子アスペルガー」(合同出版)。
兼田さんの37歳のときにアスペルガー症候群と診断されました。ふたりのお子さんもともにアスペルガー症候群と診断されました。アスペルガー症候群のことを知ろうと本屋に行きます。関係書を読むと,アスペルガー症候群の子どもはほんとうに手がかる子どもたちだと書かれてある本ばかり。がっくりして帰ろうとするとき,1冊の本に出逢います。吉田友子先生の「あなたがあなたであるために」(中央法規出版)です。そこにはこんな一節がありました。長い引用になります。
兼田さんはこの本を読み,涙が止まらなかったといいます。兼田さんは勉強を進めるうちに,報われない努力をやめようと思ったそうです。少数派である自分たちが多数派にはなれない。自分たちの特徴にあった生き方を探そう,そう決心されます。
ニーバーの祈りとして有名な詩の一部です。変えられないことに悩むのはよして,変えられることを変えていこう。そして,変えられるものと変えられないものとを区別できる賢さを手に入れよう。
ただ,変えられるものを変えようとするのにはおそろしい努力が必要です。人生は素質との闘いだ。そのとおり。闘い!
兼田さんのお子さんが保育所でなかなかひとの話をきけないということがありました。「保育所で先生のおはなしを聞けていないって先生から聞いたよ」というとお子さんのプライドを傷つけてしまう。「保育所でなにか困ったこと,ない?」と聞いても,きっと「ない」というだろう。そこで兼田さんはこんな説明文をおこさんに渡しました。
このお手紙をお子さんに渡したそうです。子どもさんは,その後,話を聞かなくて先生から注意されることはなくなったといいます。お子さんはこの手紙をもらって,兼田さんに感謝したそうです。わからないで困っていたことが全て書かれて,それを読んでよくわかったと兼田さんに言ったそうです。
がーんと頭を殴られたような感覚。闘っているひとがいる。自分は何をしている?
その後も子どもたちや自分にいろんな課題が与えられます。少数派ですから,いろいろとつまづきます。そのたび,上のような手紙,書いたものを作って,それをもとに兼田さんは子どもたちと話し合っていきます。変えられるはずのものと向き合い,そして,実際に変えてしまう!
脱帽している場合じゃない。
人生は素質との闘い。ただ,その闘いの目的はもっと楽にもっと楽しく自分らしく生きていくための闘い。自分にあった工夫を積み重ねていくしかない。
自分自身を知り,自分たちを知り,うまく生き抜く方法を考えていけば,大丈夫かもしれない。そんな勇気を与えてくれた本がこの兼田絢未さん「親子アスペルガー」(合同出版)。
いつもうまくいかなくて,いつもがっかりを繰り返しているひと。まだこの本に出会っていないのでしたら,一読をお勧めします。変えられるものは必ずあるはずです。
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