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ひとの価値ってなんだろう?ひとより優れていること?それとも・・・

人よりほんの少し努力するのがつらくなくて,ほんの少し簡単にできること。それがお前の得意なもんだ。それが見つかれば,しがみつけ。必ず道は開く。

NHK 朝の連続ドラマ「エール」

NHK の朝の連続ドラマ「エール」のなかで主人公に担任の先生がかけた言葉です。

多くのひとは自分を平均以上の人間だと思っています。平均以上の人間は全体の半分しかいないはずなのに。これを優越性のバイアスといいます。ひとは自惚れの強い生き物です。

「優れている」ひとには「価値がある」?

わたしたちは,自分の長所は何かと問われたら,ひとより秀でている何かを答えがちです。ひとより秀でているものがあればあるほど,より優れていればいるほど,わたしたちは自分に価値があるように思っています。ひとより優れているものがあれば安心する。優れているものをもっているひとは,自分自身を受け入れることができる。難しい言葉を使えば,自己肯定感を保つことができる。そんなふうにわたしはたちは考えがちです。

例えば,以下の論文があります。自閉スペクトラム症児者の「強み」に関する論文を概観したものです。

自閉スペクトラム症に関しては,たとえば,ひととのコミュニケーションが難しいとか,共感することが苦手だったりとか,ひとの表情や非言語的情報をすいとるのが苦手とか,難しいもの,苦手なものに関して語られることが多かったが,ここ20年ほどの間で,自閉スペクトラム症の「長所」への注目が高まっているという内容です。例えば,自閉スペクトラム症のひとのほうが,そうでない人に比べて,サヴァン症候群の割合が高いとか,視覚的聴覚的処理が優れているとか,そういう意味の「長所」です。

あれもできない,これもできない,周りのひとはとても困ってます。そんな情報ばかりだとたしかにしんどいので,短所とともに長所もやはり研究されるべきだと思います。

ただ,なにかが優れている。だから,自己肯定感が高まる,生きやすくなるという論理をそのまま受けいれるのは,ちょっと薄寒いです。なぜ?

何にも優れていなくても,ひとには「価値がある」

なんにも優れていないことだって当然あります。今現在は幸運なことにもしかしたらひとつくらいは優れていることがあるかもしれない。けれども,病気をしたら,怪我をしたら,年をとったら?なんにも役にたたないときが誰にでも訪れます。病院のベットのうえでじっとしているしかできないときもいずれ訪れるでしょう。そのとき,わたしたちには価値がなくなるのか?

ひとの価値というのは,優れたもので測られるものなのか?そう考えるひともいるし,そう考えないひともいます。

研究者というのは,たぶん人より優れたひとなんだろうとは思います。ですから,長所があれば,ひとは自己肯定感が高まると考えるんでしょう。自然にそう考える。そもそも,現代の社会がそういう価値観なのかもしれません。そのように考えるひとはそう考えたらいいでしょう。しかし,その考えは間違っているとわたしは思います。ひとの価値は優れたものがあるかないかで決まるものではない。ひとより優れたことができる。それは遺伝的な要因もあるでしょうし,家庭環境もあるでしょう。いくら秀でた能力をもっていても,家の事情で大学に行けないひとは多くいます。運もあるでしょう。いろんな難しい状況,その難しさは自分自身の特性かもしれませんし,周りの環境かもしれません。なんにしても,それらを全部引き受けて,そのなかで自分がこれだと思うことにしがみついて生きている。そういう生き方ができることがわたしは大切なんだろうと思います。

「人よりほんの少し努力するのがつらくなくて,ほんの少し簡単にできること」?これって,なに?

努力をつづけられるもの,つまり成長する可能性があるもの,今よりも将来にすこしだけでも希望がもてるもの,もちろんそれをするのはしんどいけれども,なんとか耐えられるようなもの。人間の価値は,しんどくても前を向いて生き続けることにあるんじゃないか。人間はどうせ,みんな死ぬ。けれども生きているかぎり,なにかひとつのことに努力をしている。臨終のときに,ひとは何をしている?死にゆくだけじゃなないか?とんでもない。臨終の間際まで,ひとは一生懸命生きている。

何かができて,ひとがちやほやする,お金がもらえる。だから自己肯定感が高まる。もちろん,そういうこともあるでしょう。一方で,ひとは関係ない。自分にはこれだと思うものがある。それをずっとずっとしている。そのことで自己肯定感が高まる場合もあるでしょう。そういう何かがひとを強くするんじゃないかと思う。

いろいろあるけど,引き受けて,自分自身と向き合って,逃げない。それでいいんじゃないかと思う。長い長い長い道のりだけど,絶対,道は開ける。

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