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イカ焼きのトラウマ

▼縁日や居酒屋で「イカ焼き」があると,まるで誘蛾灯に引き寄せられる蛾のように,抗うことができない強い力で惹きつけられ,ついつい食べてしまいます。それもこれもすべて,幼い頃に受けたトラウマのせいなのです。

▼多分,小学校低学年の頃だと思いますが,父の運転する車に乗って伊豆の方に家族旅行に出かけた時のことでした。帰り道は酷い渋滞で,行楽疲れに加え,父は運転に疲れて苛立っていたと思います。

▼道沿いに「イカ焼き」の幟が立っていたのを見かけて,私はなぜかそれが無性に食べたくなりました。

「イカ焼き食べたい」

▼しかし,一度渋滞から外れてまた元に戻るのは面倒だ,という父の一言で却下されてしまいました。渋滞でほんのわずかずつしか動かないのだから,ここでおろしてくれたら,イカを買って走って追いつくから,と(たしか,母も一緒にそう父を説得してくれたと思います)食い下がりましたが,父は頑固なので結局聞き入れられず,その後,私は帰宅するまで延々と泣きながらイカ焼きを食べたかったと訴えていました(笑)。

▼祖母が「お家に帰ったらイカを買ってきて焼いてあげるから」と言ってくれましたが,屋台で食べるイカとは違う,と駄々をこねました。実際,帰宅してから作ってくれました。しかし,上手くは説明できないのですが,何かが違うんですよね…。きっと,屋台のあのくどく甘ったるいドロドロしたタレ,焦げたタレの香り,きっとそういうものまで合わせての「屋台のイカ焼き」なのでしょう。

▼そんなわけで,私は今でもきっと,あの時の自分を満足させるためにイカ焼きを求めているのでしょう。駄々をこねて両親や祖母に迷惑をかけた,ほろ苦い思い出と共に。

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