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「つながり」を読み解く英文読解(21)~情報構造⑦:情報運搬構文(3)~

▼前回に引き続き,情報運搬構文(information packaging)の続きです。前回は,9つの情報運搬構文のうち,〈[3] 外置〉を扱いました。今回は,〈[4] 倒置〉と〈[5] 存在構文〉を扱います。

【1】倒置(inversion):MVS / CVS

▼倒置とは,主語と動詞(又は助動詞)の順番を入れ替えたかたちのことです。では,どのようなときに,なぜ倒置するのでしょうか。

(1) その内容がまだ「確定した事実」ではなく「仮定/未確定の内容」であることを示したい場合

▼疑問文や,条件・譲歩を表す副詞節中ではたびたび倒置が見られます。これについて,以下のような見解があります。

      When the verb, or part of it (but not an adverb, as in well might they, so did I), precedes the subject, the effect is to make the sentence hypothetical rather than factual. Most grammars associate this only with questions of the type Had they seen John? But such yes-no questions are really hypothesis that the speaker puts forward for confirmation. Other hypotheses use the same inversion: Had they seen John, they would have known he was there. These we call 'conditions' ― and just as with indirect objects, there is another way of saying them, likewise by adding a word, this time if: If they had seen John, they would have know he was there. (The connection with questions shows up in another way ― the same word if is also used to introduce indirect questions: I wondered if they had seen John.)
(動詞,あるいは動詞の一部(ただし,well might they, so did Iにおけるような副詞は除く)が主語より前に来ている時,その効果は,そのセンテンスを事実的というよりむしろ仮定的にすることである。大半の文法書では,このことを Had they seen John? というような種類の疑問文としか結び付けていない。しかし,そのような yes-no 疑問文は実際には確認のために話者が提起する仮定なのである。他の仮定も同様の倒置を用いている。たとえば Had they see John, they would have known he was there. がそうだ。こうしたものを私たちは「条件」と呼ぶ。そして,間接目的語についてと同じように,同様に1語,この場合は if を加えることでそれを口にする別の言い方がある。 "If they had seen John, they would have know he was there." である。(疑問文との関連性は,別のやり方でも姿を現す。同じ if という言葉は,間接疑問文を導くためにも用いられている。たとえば I wondered if they had seen John. がそうだ。)
(Dwight Bolinger, Language: The Loaded Weapon, Longman, 1980, p.29)

▼このような「未確定の内容・仮定的な内容」を表す倒置には以下のようなものがあります。

①疑問文における倒置
 ex) Do you know he went out with her?
 ex) Is he going to study abroad?
②仮定法の条件節における倒置(文語的)
 ex) Were I a bird, I would fly to you.
 (If I were a bird, I would fly to you.)
③譲歩構文中の倒置
 ex) Be it ever so humble, there is no place like home.
 (However humble it may be, there is no place like home.)
 ex) Come what may, I’ll do it for myself.
 (Whatever may come, I’ll do it for myself.)
 ex) Be they rich or poor, they must work.
 (Whether they are rich or poor, they must work.)

▼これは私自身の印象に過ぎませんが,上の種類の倒置については,語順を入れ替えることによって「不安定さ」「不確実性」が現れているように思えます。英文は左から右に S + V… .  S + V… . と進んでいきますが,そこにいきなり V + S というかたちが現れたら「えっ!?」と一瞬驚きます。これまでの「無標」の世界から,不安定で変化のある「有標」の世界へと,一気に引きずり込まれる感じです。確固たる現実・事実に対比されたものとして,その現実・事実への「揺らぎ」がこの種の倒置というかたちに現れているのではないでしょうか。

(2) 情報を〈旧情報⇒新情報〉の順に提示したい場合

▼この場合,C(補語)や,場所などを表すM(修飾語句:副詞や前置詞句)などを前に出し,〈C + V + S〉や〈M + V + S〉というかたちになります。ここでは通例,Sが焦点(重点情報)となるので,〈文末焦点〉の原理が働いていると考えることができます。

(a) On board were two nurses.
(b) Two nurses were on board. 
(Huddleston, Rodney & Pullum, Geoffrey K, "The Cambridge Grammar of the English Language)

⇒ on board を文頭に出し,two nurses というS(主語)を were というV(動詞)の後に置くことで,〈旧情報⇒新情報〉の流れを作り,two nurses を焦点化しています。

▼以下の例文でも確認してみましょう。

ex) More important is the fact that the man was married.(CVS)
(もっと重要なのはその男が既婚者であったという事実だ。)
⇒ the fact (that the man was married) が焦点。
ex) Between labor and play stands work.(MVS)
(labor[辛い労働]と play[遊び]の間にあるのが work[仕事]だ。)
⇒ work が焦点。
ex) Among those present were the former president and his wife.(MVS)
(出席者の中にいたのは、前社長と彼の妻であった。)
⇒ the former president and his wife が焦点。

▼また,so / neither / nor を用いて情報の追加を行う場合にも,〈so + V + S〉〈neither + V + S〉〈nor + V + S〉という倒置になります。これも追加された部分が焦点になっていると考えられます。

ex) I like him, and so does she.
(…and she likes him, too)
(私は彼が好きだし、彼女も彼が好きだ。)
ex) I don’t like him, nor does she.
(…and she doesn’t like him, either / ... and neither does she.)
(私は彼が好きではないし、彼女も彼が好きではない。)

(3) 否定の副詞(句・節)/only + 副詞(句・節)を焦点化したい場合

否定の副詞(句・節)/only + 副詞(句・節)が主節の前に置かれた場合,主節のSとVは強制的に V + S の倒置になります。

ある要素の前置によって主語・(助)動詞の倒置が生じる場合に,文頭へ前置された要素そのものを強調,焦点化する場合もあることに注意しなければなりません。特に,否定の意味を持つ語句が通常の位置から強調のために文頭に移動する場合には,そこにスポットライトを当てている表現となります。(中略)この場合,倒置は義務的に起こらなければなりません。
(上山恭男『機能・視点から考える英語のからくり』,開拓社,2016)

▼これも以下の例文で確認してみましょう。

① 否定の副詞(句/節)+主節倒置
ex) Never did I dream of marrying her.
⇒  Never が文頭にあるので,did I dream という倒置になっている。
② only + 副詞(句/節)+主節倒置
ex) Only recently did we begin to feel the importance of education.
⇒ Only recently が文頭にあるので, did we begin という倒置になっている。

【2】存在構文(existential):there VS / here VS

▼「机の上に本が1冊あります」と言いたい場合,通例,"There is a book on the desk." というかたちを使い,"A book is on the desk." は不自然だとされています。これは,a book という新情報がこの文における焦点であり,"A book is on the desk." としてしまうと焦点がぼやけてしまうためと言えます。その意味で,この「存在構文」は〈倒置〉の〈(2) 情報を〈旧情報⇒新情報〉の順に提示したい場合〉の一種とも考えることができます。

▼また,文字ではなく音声で考えた場合,新情報を導入する場合,文頭でいきなり言い出してしまうと相手が聞き逃す可能性もあります。そこで,There を用いて相手の意識を引くことから始めているのではないかと解釈することもできると思います。

(a) There is a frog in the pool.
(b) A frog is in the pool.
(Huddleston, Rodney & Pullum, Geoffrey K, "The Cambridge Grammar of the English Language)

▼このように,焦点化したい新情報の存在や発生を提示するために〈there + V + S〉というかたちにするのが「存在構文」です。この there は「先行の there(introductory there)」とも呼ばれ,there には強勢は置かれません(ジェフリー・リーチ & ヤン・スヴァルトヴィック,池上惠子訳『現代英語文法 コミュニケーション編 新版』,紀伊國屋書店,pp.398-400)。

▼このかたちでは,be動詞の代わりに,存在・発生・出現を表す動詞(appear, arise, come, exist, follow, lie, live, remain, rise, stand など)が用いられることもあります。また,there の代わりに here を使った「ここに…がある(いる)」という表現もあります。

▼なお,〈there + V + S〉や〈here + V + S〉というかたちにおいてはSの位置に,新情報・未確定の情報(不定の情報)が来ることが通例で,固有名詞が来ることも原則としてありませんが,以下のように相手の注意を強くひきつけたり,状況全体を新情報として提示したい場合は,〈the + 名詞〉や固有名詞のような限定された情報も入ります。

次の There's は相手の注意を引くための表現で,後ろに the などによって限定された名詞が続く。there は場所の意味を含み,強く発音される。
There's the man we saw yesterday.(ほら[あそこに]きのう会った人がいる)
Look!  There's Bill with his girl friend.(ほら,ビルが彼女といるぞ)
(江川泰一郎『英文法解説』,金子書房,1991,p.134)
さらに,次の倒置文においても,前置の副詞が焦点化され,この場合,文全体,すなわち状況全体が新情報として提示されています。
(30) a. Here comes my brother.
(ほら,弟がやって来た)
b. There goes John.
(向こうへジョンが行っちゃう)
c. There jumped a cat from the tree.
(飛び降りたの,猫が木から)
(上山恭男『機能・視点から考える英語のからくり』,開拓社)






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