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「つながり」を読み解く英文読解(16)~情報構造②:主題(シーム)と題述(リーム)(1)~

▼前回は,英語の情報構造について次のような話をしました。

①旧情報
・筆者/話し手が,読者/聞き手と共有していると思っている情報
 (a) 既に文中に登場した情報(さかのぼればわかる)[前方照応的]
 (b) 常識的に何のことかわかる情報[状況的]
②新情報
・文中で初めて登場する情報。通例,そこに重点が置かれる。
③重点情報(焦点)
・通例〈新情報=重点情報〉となることが多いが,旧情報に重点が置かれることもある。その際,「情報運搬構文(information packaging construction)」という特殊なかたちを使うことがある。
・重点情報はセンテンスの後半に来ることが多い。これを「文末焦点」と呼ぶ。ただしこれはあくまでも傾向に過ぎないので,すべてがそうだというわけではない。

▼今回は,前回のこの内容を踏まえて,「主題(theme:シーム)」と「題述(rheme:リーム,コメント)」という観点についてお話しします。

【1】主題(シーム)と題述(リーム)

The Theme is the element that serves as the point of departure of the message; it is that which locates and orients the clause within its context.  The speaker chooses the Theme as his or her point of departure to guide the addressee in developing an interpretation of the message; by making part of the message prominent as Theme, the speaker enables the addressee to process the message.  The remainder of the message, the part in which the Theme is developed, is called in Prague school terminology the Rheme.   As a message structure, therefore, a clause consists of a Theme accompanied by a Rheme; and the structure is expressed by the order - whatever chosen as the Theme is put first.
(シームとは、メッセージの出発点として機能する要素である。それは、その文脈の中で節の範囲を定め、節の方向付けを行うものである。話す人は、メッセージの解釈を発展させる際、話しかけられた人が導かれるように出発点としてシームを選択する。メッセージの一部をシームとして際立たせることによって、話す人は、話しかけられている人がメッセージを処理できるようにさせる。メッセージの残りの部分、すなわち、シームが展開される部分は、プラハ学派の述語ではリームと呼ばれる。ゆえに、メッセージの構造として、節は、シームと、それに付随するリームから成り立つ。そして、その構造は順序によって表現される。シームとして選ばれたものは何であれ、最初に置かれるのだ。)
(M. A. K. Halliday, Halliday's Introduction to Functional Grammar, 1985/2014)

▼上に引用したように,言語学者のハリデーによれば、主題(シーム)とは「メッセージの出発点として機能する要素(the element that serves as the point of departure of the message)」のことであり、「これからそのセンテンスで何を言おうとしているのか」を表しています。一方、題述(リーム)とは「メッセージの残りの部分、すなわち、シームが展開される[=詳しく説明される]部分(The remainder of the message, the part in which the Theme is developed)」のことで,「主題について述べられている内容」のことです。

▼英文は,左から右に流れていきます。左側が情報の出発点で,新しい情報を与えられながら右側に読み進めていきます。この時,センテンスの冒頭,つまり一番左側の内容がそのセンテンスの「主題(シーム)」となります。通例,主節のV(述語動詞)の前までが「主題」にあたります(ただし,However,For exampleなど論理展開を表す副詞や副詞句は「主題」には含まれません)。それ以外の部分が「題述(リーム)」となります。

▼次の例文で考えてみましょう。

The Amish are a Christian community with roots in the Protestant Reformation in sixteenth-century Europe.
(2016年度金沢大学前期日程第1問)
(Donald Kraybill, Karen Johnson-Weiner, and Steven Nolt, The Amish)

▼このセンテンスの主題(シーム)は The Amish で,題述(リーム)は are a Christian ... in sixteenth-century Europe です。

[T] The Amish / [R] are a Christian community with roots in the Protestant Reformation in sixteenth-century Europe. 
(アーミッシュとは/16世紀ヨーロッパのプロテスタント改革に端を発する、クリスチャンの共同体である。)

▼「じゃあ,主題(シーム)って主語のこと?」と思うかもしれません。確かに,文法的な主語が主題(シーム)になることが多いのですが,そうではない場合もあります。

▼たとえば,以下の例文を見てください。

Between labor and play stands work.
(労働と遊びの間に存在するのが仕事だ。)

▼この英文の主題(シーム)はBetween labor and play ですが,文法的に言えば,Between labor and play は修飾語句,stands が動詞,work が主語ですから,主題と主語が一致していないことになります。

▼ハリデーは,「英語には3種類の主語がある」としています。

(i) 心理的主語:そのメッセージの関心事。話す人が節を生み出すことに着手するときに、心の中で出発点としているもの。
(ii) 文法的主語:それに関して叙述されている対象となるもの。主語・述語の構築が、純粋に文法的な関係にある。
(iii) 論理的主語:行為を行う人。記号同士の関係である文法的な関係と対比されて、物と物の間の関係にかかわっている。
ex) This book my aunt was given by her teacher.
(この本を,叔母は自分の教師から与えられた。)
⇒ This bookが「心理的主語」,my auntが「文法的主語」,her teacherが「論理的主語」。

▼上の3つの分類のうち、(i)の「心理的主語」がメッセージの「主題」となります。これをハリデーは「シーム(Theme)」と呼んでいます。

▼ただ,主題(シーム)と題述(リーム)は厳密に区分することが難しく,また,必ずしもシームとリームがすべてのセンテンスにそろっているわけでもありません。

▼たとえば以下のように主節の主語の前に副詞句などがある場合,どこまでを主題(シーム),どこからを題述(リーム)とするか意見が分かれます。

By the end of the seventeenth century, the Amish emerged as a distinctive group living in Switzerland and the Alsace region of France.
(17世紀の終わりまでに、アーミッシュはスイスやフランスのアルザス地方に暮らす固有の集団として現れた。)
(2016年度金沢大学前期日程第1問)
(Donald Kraybill, Karen Johnson-Weiner, and Steven Nolt, The Amish)

▼ちなみに,谷口賢一郎『英語のニューリーディング』(大修館書店,1992年)では,このような場合,副詞句の部分を「大シーム」,主節の主語を「小シーム」と呼んで区別しています。

【2】主題(シーム)の定義

▼定式化するのは難しいですが,先に述べた「大シーム/小シーム」という概念も援用したうえであえてまとめると以下のようになります。

▼主題(シーム)は、(a)センテンスの文法的主語と一致する場合と、(b)文法的主語と一致しない場合の2つがある。

▼主題(シーム)と文法的主語の関係
(a) 主題(シーム)=文法的主語の場合:主題(シーム)は原則として〈旧情報〉 。
(b) 主題(シーム)≠文法的主語の場合:主題(シーム)は「前文から引き継いだ旧情報を前に出すことで、〈旧情報→新情報〉の流れを保つ」働きか、「目立たせたい情報を冒頭に出すことで、読者の注意を惹きつける」働きをする。

(b)-1:主題(シーム)がC(補語)/M(修飾語句)で〈C + V + S〉又は〈M + V + S〉の場合、その主題(シーム)は〈旧情報〉であることが多い。
ex) Between labor and play / stands work.
(労働と遊びの間に仕事が存在する。)
ex) So beautiful / was the girl that I couldn’t talk to her.
(その少女はとても美しかったので私は彼女に話しかけられなかった。)

(b)-2:主題(シーム)が〈M(副詞句/副詞節)+S(主語)〉の場合、その副詞句/副詞節を「大シーム」、文法的主語を「小シーム」と考え、まとめて一つの主題(シーム)としてとらえる 。小シームは原則として〈旧情報〉で、大シームは〈旧情報〉の場合と〈新情報〉の場合のどちらも考えられる。
ex) If you would like to write better than everybody else, you / have to want to write better than everybody else.
(もしあなたが他の誰よりも上手にものを書きたいと思うのであれば、他の誰よりも上手に書きたいと願わねばならない。)
(2015年度早稲田大学商学部)
William Zinsser, On Writing Well, Sixth Edition, 1998
⇒ If you ... everybody else が大シーム、その後の you が小シーム。
ex) Rather than seeking financial compensation, the plaintiffs / are asking for the rules of football to be changed to better prevent concussions in the sport.
(2015年度早稲田大学商学部)
New Scientist, August 29, 2014
(金銭的な補償を求めるのではなく、原告たちはフットボールのルールが、競技中の脳震盪をもっとうまく防げるように変更されることを求めている。)
⇒ Rather than seeking financial compensation が大シーム、the plaintiffs が小シーム。

▼and、but、orなどの等位接続詞で2組のSVが結ばれている場合、等位接続詞の後のSも1つの主題(シーム)として扱う。
ex) I / don't mind the process of pulling clothes on my body, but making the decision about what to wear / is difficult.
(2015年度関西学院大学[2月1日実施])
Andy Rooney, What Should I Wear Today?
(私は自分の体に服をまとうプロセスは嫌ではないが、何を着るべきかについての決定を下すことが難しい。)
⇒ but の前までは I がシーム、don’t mind ~ my body がリーム。but の後は、making the decision about what to wear がシーム、is difficult がリーム。

▼では,シームとリームに注意しながら以下の文を読みましょう。

ex-1) The truly rich in the nineteen-fifties and sixties were people who had inherited money ― the heirs of the great fortunes of the Gilded Age.
(2013年度慶應義塾大学商学部)
http://www.newyorker.com/magazine/2010/10/11/talent-grab )
〈和訳〉1950年代と60年代の本当のお金持ちとは、お金を相続した人々、つまり、金ぴか時代の莫大な財産の相続人であった。
⇒The truly rich in the nineteen-fifties and sixtiesがシーム、その後がすべてリーム。
ex-2) In conclusion, although people do need to be provided with the necessities of life, such as housing and medical care, governments also / have a duty to provide their citizens with something more.
(2010年度西南学院大学)
http://writefix.com/?page_id=1562
〈和訳〉結論として、人々は住居や医療といった生活の必需品を与えられる必要があるが、政府は市民にもっと多くのものを与える義務もある。
⇒although~careまでが「大シーム」、governmentsが「小シーム」です。In conclusionとalsoは論理展開を表す副詞なのでシームには含みません。

▼さて,このような(ややこしい)区分をすることにどのような意味があるでしょうか。次回はそのことについて説明したいと思います。

【補足】主題(シーム)/題述(リーム)と情報構造との関係

▼少し長くなりますが,ハリデーの文章から引用してみます。

Information structure is one aspect of the thematic organization of discourse; and, as brought out in the work of linguists of the Prague tradition, thematic organization is clearly reflected in various features of modern English syntax, including certain tendencies of word order.  The sequence of elements in the clause tends to represent thematic ordering rather than ordering in transitivity of the 'actor - action ( - goal)' type, and this is particularly true of the function of clause-initial position which reflects a division of the clause into 'theme' and 'rheme', with theme always preceding rheme.  The functions 'given' and 'new' are however not the same as those of 'theme' and 'rheme'. The two are independently variable (hence the present avoidance of the terms 'topic'and 'comment' referred to earlier).  But there is a relationship between them such that in the unmarked case the focus of information will fall on something other than the theme; it will fall at least within the rheme, though not necessarily extending over the whole of it.
(情報構造とは,ディスコースの主題に基づく組織化の一つの側面である。そして,プラハ学派の言語学の研究において明らかにされたように,主題に基づく組織化は現代の英語の統辞(syntax)の様々な特徴にはっきりと反映されている。そこには語順の特定の傾向も含まれている。節の中の要素の並びは,「行為者-行為(-目的)」の他動性での順序というよりむしろ,主題にかかわる順序を表す傾向がある。そしてこれが特にあてはまるのは,節を「シーム」と「リーム」に分割した状態を反映した節頭位置(clause-initial position)の機能である。そこでは「シーム」が常に「リーム」に先行している。しかしながら,「旧」と「新」の機能は「シーム」と「リーム」の機能と同じというわけではない。その二者は独立して変化しうるものである(ゆえに,先に言及した「トピック」と「コメント」という用語はここでは避けている)。しかし,その二者の間には次のような関係がある。つまり,無標の場合,情報の焦点がシーム以外のどこかに来るということであり,情報の焦点が少なくともリームの中に来るであろう,ということだ。もっとも,[情報の焦点が]必ずしもリームの全体にまで渡るというわけではないが。)
(M.A.K. Halliday, Notes on Transitivity and Theme in English (Part 2), 1967,太字は引用者)

▼主題(シーム)はセンテンスの前半,題述(リーム)はセンテンスの後半にあるため,前回説明した情報構造からすると,主題(シーム)が旧情報,題述(リーム)が新情報・焦点(重点情報)になるように思えますが,必ずしも一致はしない,ということが述べられています。

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