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「つながり」を読み解く英文読解(23)~情報構造⑨:情報運搬構文(5)~

▼前回に引き続き,情報運搬構文(information packaging)の続きです。前回は,9つの情報運搬構文のうち,〈[6] 受動態〉を扱いました。今回は,〈[7] 分裂文〉を扱います。

分裂文とは何か

Clefting is a procedure which divides a clause into two parts for information highlighting purposes. We distinguish it-clefts from wh-clefts. The latter are also called pseudoclefts.
(Aarts, Bas. Oxford Modern English Grammar, Oxford University Press, p.331)
(分裂化とは,情報を強調する目的のために節を2つの部分に分ける処理のことである。私たちは it-分裂文を wh-分裂文と区別する。後者は擬似分裂文とも呼ばれる。)

▼分裂文(cleft)とは,いわゆる「強調構文」と呼ばれるもので,it is と that(which / who)によって強調したいものを挟んだかたちのことです。例文を確認してみましょう。

(a) It was you who broke it.
(b) You broke it.
(Huddleston, Rodney; Pullum, Geoffrey K.. The Cambridge Grammar of the English Language,p. 1366)

▼(b)が無標のかたちで,(a)は(b)の文の主語である You を It was と who で挟んで強調した分裂文です。話し言葉の場合,イントネーションを変化させることで強調を示すことができますが,書きことばの場合はそれができないため,こうしたかたちを使うことが特に役に立つわけです。

▼分裂文のかたちを公式化すると次のようになります。

it is A that/who/which (S) + V…
 ① A=前景化された焦点(強調されている情報)
 ⇒ Aには通例,名詞(句)か副詞(句・節)が来る。
 ② that/who/which (S) + V…=背景(前提)
 ⇒ この 
that/who/which は関係詞(関係代名詞・関係副詞)。

▼この①と②の関係について,以下のような説明があります。

The focus position is usually occupied by units that provide foregrounded information: it highlights a constituent which merits special attention. (...) The relative clause can specify either old or new information, but in any case provides information that is not under primary consideration: it is backgrounded.
Aarts, Bas. Oxford Modern English Grammar, Oxford University Press, p.333
(焦点の箇所は通常、前景化された情報を与える単位によって占められる。それは特別な関心を受ける価値のある構成要素を強調する。(中略)関係詞節は旧情報あるいは新情報を述べることができる。しかし、いずれの場合にも主に考慮されていない情報を与える。それは背景化されているのである。)

▼分裂文による強調は,that/who/which 以下を「背景」(前提)とし,Aの部分を「浮き彫り」(前景=焦点)にするイメージでとらえることができます。〈S is A〉というかたちでは,通例,Aが焦点となります。すると,"It is A" の時点でAが焦点化されます。その焦点を浮き彫りにしてくれる背景として,that/who/which 以下の情報が付け加えられている,ということになります。

▼情報構造の観点から見ると,分裂文においては原則として「背景(前提)」が旧情報で,「前景(焦点)」には新情報と旧情報のいずれかが来ますが,旧情報が来ることが多く見られます。これは,分裂文が,従来は焦点が置かれない情報である旧情報に焦点を置きたい場合によく使われるからです(よって「前景(焦点)」の部分には,代名詞や〈this / these + 名詞〉,then などの語句がよく使われます)。また,「背景(前提)」が新情報で,「前景(焦点)」に旧情報が来ることもあります。

it is A that/who/which (S) + V…
 (a) 前景(焦点)=旧情報/背景=旧情報
 (b) 前景(焦点)=新情報/背景=旧情報
 (c) 
前景(焦点)=旧情報/背景=新情報

分裂文によって焦点が当てられている情報は,通例,他のものとの「対比」を含みます。たとえば "It is Mary that loves Keith." という文は,「キースのことを愛しているのは,(ジェーンでもナンシーでも他の誰でもなく)メアリーだ」という意味です。また,"It was not with Tom that I went to the theater." という文は「私が映画に一緒に行ったのはトムではなかった」⇒「他の人と一緒だった」という含意があります(実際,過去にセンター試験でこれを問う空所補充問題が出題されたことがあります)。

先行のItを伴う分裂文は,ある要素を主題として前置したり,主題要素に焦点を(普通は対比のために)置いたりするのに役に立つ。このために分裂文は,文を二つの部分に分け,主題をit + beの補語にすることで主題に’ハイライト’を与える。
ジェフリー・リーチ & ヤン・スヴァルトヴィック,池上惠子訳
『現代英語文法 コミュニケーション編 新版』,紀伊國屋書店,p.307

▼そのため,焦点化される前景であるAの位置には「対比」を含む表現や,限定を表す only を含む表現が使われることがよく見られます。また,既に述べたように「旧情報」を焦点化したい場合にもよく使われるので,代名詞や〈this / these (+ 名詞)〉 ,then(その時)といった表現もよく見受けられます。

▼分裂文で焦点化されることが多い表現
・旧情報(代名詞,then,〈this/these (+ 名詞)〉などを含む)
・not A (but B)(Aでなく(B))[AとBの対比]
・not only A but also B(AだけでなくBも)[AとBの対比]
・A rather than B(BではなくむしろA)
[AとBの対比]
・only A(Aだけ,Aになって初めて)
It is facts rather than opinions that can be challenged.
(異議が唱えられるのは意見ではなくむしろ事実に対してである。)
https://idebate.org/debatabase/free-speech-debate-reputation-and-defamation/house-believes-right-reply

▼なお,〈it is not A but B that …〉の場合,文末焦点の原理が働き,最も焦点が置かれる but B の部分(またはそれに相当する情報)が背景(that … )の後に移動することもあります。

(a) It is not what you say that matters but what you do.
(b) It is not what you say but what you do that matters.
(大切なのはあなたの発言ではなくあなたの行動だ。)
⇒ (a)では,but B にあたる but what you do が背景である that matters の後に移動しています。(a)は元のかたちです。

分裂文の it と that は何者か

▼分裂文の場合,焦点が置かれる前景が文の前半にあり,背景(前提)になる that ... が文の後半にあるため,一見したところ,文末焦点の原理よりもむしろ文末重心の原理の方が優先されているようにも見えます。また,that/who/which は品詞で言えば関係詞に相当するため,前景(焦点)がその先行詞になっているようにも見えます。しかし,果たしてそう言えるでしょうか?

▼以前,「外置」のところで説明したように,itは「筆者/話者の頭の中に既にあること」を表す〈新旧未確定情報〉を示す人称代名詞です。よって,〈it is A〉という表現だけを見た場合,「it(新旧未確定情報)はA(焦点)だ」となります。そして,この it の内容を確定するには,前後のつながりを考える必要があります。

▼たとえば,以下の例文のitは何を表しているでしょうか。また,that はどのような役割を果たしているでしょうか。

A; What is this?
(これは何?)
B: It is a book that my mother gave me as my birthday present. 
(母さんがぼくの誕生日プレゼントとしてくれた本だよ。)

▼この場合,It is A that ... は分裂文による強調ではなく,It が前出の名詞(this)を指しているものだと解釈できます。よって,that は関係代名詞で,a book を修飾(限定)している,と考えることができます。

▼しかし,分裂文の場合,it は前出の名詞を指しているわけではありません。また,以下の文は分裂文ですが,that が I を,who が Tom を限定しているわけではありません(関係代名詞の制限用法は,原則として固有名詞や人称代名詞にかかることはできません)。

It isthat love you.
(あなたのことを愛しているのは[他の誰でもない]私だ。)
It was Tom who broke the vase.
(その花瓶を割ったのはトムだ。)

▼だとしたら,分裂文における it と that の働きには,次のような仮説が成り立つはずです。

① it は〈未確定情報〉であり,〈it is A〉のかたちで,まず A という焦点を導入するために用いられている(文末焦点の原理)
② it の内容を補足するのが that 以下の背景(前提)であるが,that の先行詞はAではなく,it である。
⇒ it [that ...(背景=前提)] is A(焦点) がベースとなる。
③ しかし,文末重心の原理が働き,長い(重い)背景(=前提)が焦点の後に移動してしまっている。
⇒ it is A(焦点)[that ...(背景=前提)]

▼これについては,堀田隆一氏のブログの以下の内容が参考になります。

現代英語における分裂文という現象を,共時的な観点にこだわらず,あえて通時的な観点から分析するのであれば,that は関係詞であり,it はその先行詞であると述べておきたいと思います.つまり,"It is father that did it." という例文でいえば,「それを為したところのもの,それは父です.」ということになります.人でありながら中性の it を用いるのも妙な感じはしますが,"Who is it?" の it などからも理解できると思います(古英語でも同じでした).ところが,後に "It is I that am wrong." にみられるように,that の先行詞は文頭の It ではなく直前の I であるかのような一致を示すに至りました.

擬似分裂文

▼冒頭に引用したように,分裂文の仲間には「擬似分裂文(pseudocleft)」というものがあります。wh-分裂文とも呼ばれているように,これは関係代名詞の what などを用いた分裂文のことです。初めに、以下の2つの英文を比べてみましょう。

(a) I need love.
(b) What I need is love.

▼(a)も(b)もともに「私が必要なのは愛だ」という意味で,love が焦点です。しかし,語数で言えば,(a)では love は前から3語目,(b)では前から5語目となり,(b)の方がより「後」に置かれていることがわかります。この「語数の差」が焦点に置かれる「強さ」を表していると考えることができます(もったいぶってなかなか結論を言わないこととよく似ていますね。結論を先延ばしにすればするほど,聞き手の期待も高まるわけです)。

 [what S V(背景=前提)] is A(前景=焦点)

▼また,以下の(b)のような〈all that S + V is ...〉というかたちも擬似分裂文の一種ということができます。これも焦点である love をできるだけ後に引き延ばす働きをしていると言えます。

(a) You only need love. / You need only love.
(b) All (that) you need is love.
(あなたに必要なすべてのものは愛だ。⇒あなたに必要なのは愛だけだ。)

 [all (that) S V(背景=前提)] is A(前景=焦点)

▼では,ここで入試問題で実際に出題された英文を見てみましょう(入試では1文目と2文目に下線が引かれ,そこを和訳させる問題でした。なお,この部分だけが出題されたわけではありません。文章全体のテーマは「世界の人口成長の低下」で,この部分はその最後のところです)。

It is not AIDS that will slow population growth, except in a few African countries.  It is not horrors like the civil war in Rwanda, which claimed half a million lives ― a loss the planet can make up for in two days.  All that matters is how often individual men and women decide that they want to reproduce.
(1999年度岡山大学前期日程第2問より。太字引用者。)
Bill McKibben, A Special Moment in History, The Atlantic Monthly, May, 1998
(アフリカのわずかな国々を除き,人口の成長を鈍化させるであろうものはエイズではない。また,ルワンダの内戦のような恐ろしい出来事でもない。この内戦は50 万人の命を奪ったが,それは地球が2 日で埋め合わせられる損失なのだから。唯一大切なことは,どのくらいの頻度で個々の男女が子どもを産みたいと決めるのかということである。)

⇒1文目の It is not AIDS that will slow population growth, except in a few African countries. は,that will slow population growth, except in a few African countries(人口の成長を鈍化させるであろう)が背景(前提)で,AIDS が前景(焦点情報)ですが,AIDS の前に not があることから,「AIDS ではなく何なのか」を示す必要があります。ところが,2文目も It is not horrors like the civil war in Rwanda, which claimed half a million lives ― a loss the planet can make up for in two days. となっています。この which ... は the civil war in Rwanda を説明している非制限用法の関係代名詞節で,分裂文の which ではありません。この2文目には,1文目の「背景」が反復回避のために省略されているのです。つまり,以下のようにつながっていいることになります。

[背景]人口の成長を鈍化させるであろうもの
 ⇒[前景]1文目:AIDS ではない
 ⇒[前景]2文目:ルワンダの内戦のような脅威ではない

 だとしたら,「人口の成長を鈍化させるであろうもの」は何か?ということですが,それは3文目の All that matters is how often individual men and women decide that they want to reproduce. で述べられています。All that matters は「大切である全てのこと」⇒「唯一大切なこと」という意味で,上で述べたように擬似分裂文と考えることができるため,ここが背景(前提)の言い換えだと解釈できます。よって,but B のBにあたるのは,how often individual men and women decide that they want to reproduce(どのくらいの頻度で個々の男女が子どもを産みたいと決めるのかということ)となります。

[背景(前提)]人口の成長を鈍化させるであろうもの
 ⇒[前景(焦点)]1文目:AIDS ではない
 ⇒[前景(焦点)]2文目:ルワンダの内戦のような脅威ではない
 ⇒[前景(焦点)]3文目:男女が子どもを産みたがる頻度

▼分裂文も擬似分裂文も,入試では頻出の内容です。前後とのつながりを考えて,正しく解釈できるようにしましょう。

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